学部長メッセージ

言語文化学部長
山口 裕之
言語文化学部は、言語そのものの研究(言語学)、さまざまな地域の文化(文学、芸術、音楽、映画、宗教、教育、都市、生活、サブカルチャー等)の研究、そしてそれらを含む人文学の諸領域にとりくむことができる場です。何を学ぶにせよ、言語文化学部にとっては「言葉」が特別な意味をもっています。言葉を学ぶことは、自分とは異なる文化を理解し受け入れてゆくための最も大切な前提条件の一つです。東京外国語大学では、そのために言語の高度な運用能力を修得してゆくことが求められます。
しかし、それは単に理解と伝達の「ツール」として外国語を使えるようになるということではありません。ある言語と文化に対する深い理解をもち、そのうちに入り込んでゆくと、言葉そのものが文化的感覚のうちにとらえられてゆきます。言語文化学部とは、そのような言葉と文化との深い関わりが自分自身のうちに形成されてゆくところなのです。
「グローバル化」という徴のもとにある私たちの世界では、さまざまな文化に対する理解を深めてゆくことは、ますます重要な課題となっています。しかし、地球規模で政治・経済・文化の関係性のネットワークが形成されてゆく、このグローバリゼーションという現象には、二つの側面があることを忘れるべきではないでしょう。一つは、良くも悪くも、欧米で支配的な文化的伝統や価値観が世界を覆いつくし、そのような意味で世界が同質化されてゆくという方向性です。英語の覇権はそのことを端的に示す現象の一つです。それとともに、グローバリゼーションというネットワークの拡大には必然的に、異質なもの、「他者」との出会いが伴われることになります。
私たちはこのグローバリゼーションに向かう世界のなかで、これら二つの方向性とつねに向き合っています。言語文化学部は、まさにその両方の力を身につけてゆく場となるでしょう。一方では、グローバリゼーションにおいて優勢な言語である「英語」を、少なくともリンガ・フランカとして十分に使える必要があります。しかし他方で、その地域・文化と完全に結びついている言語を通じて、そこで暮らす人たちが自分たちの母語として使う言語を通じて、「異なるもの」を理解し受けとめてゆくことがとても大切なこととなるのです。東京外国語大学の言語文化学部で言葉を学ぶということは、ほんとうの意味でさまざまな文化を理解し、世界のなかで一人一人との具体的な関係を築き上げていくことなのです。