言語文化学部

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学部長メッセージ

言語文化学部長

八木 久美子

言語文化学部の柱はなんといっても言語です。ただそれは言語の習得を最終的な目標とするということではありません。人間は言語を使ってものを考え、言語を使って考えたことを人に伝えます。言語文化学部で学んでほしいのは、まさに世界の多様な地域の人々が何を考え、それをどのように表現するか、つまり一般に人文科学という名で呼ばれる分野です。言語文化学部では、社会や国家という単位ではなく、一人ひとりの生きた人間、あるいはそうした人々が織りなす文化という次元に焦点を当てます。

もしかすると英語さえできれば、世界の人と意思の疎通ができると考えている人もいるかもしれません。たしかに英語は世界で広く理解されており、その意味で圧倒的な力を持っています。しかしだからこそ、他の言語が持っている力を忘れてはなりません。異文化の人々を理解し、互いに人間として向き合おうとするならば、その人たちが日常的に話している言語、母親に話しかけられるなかで自然に習得した言語、つまり母語を学ぶことは不可欠です。

あるエピソードを紹介しましょう。1982年、フォークランド島という島の領有権をめぐってイギリスとアルゼンチンの間で戦争がありました。その後、イギリスのBBCが関係者のインタビューを中心に、現場で何があったのかを検証するテレビ番組を制作したのですが、そのなかにとても印象的な一コマがありました。戦いが終わった後の現場の悲惨さについてそれまで冷静に語っていたあるイギリス人の兵士が、瀕死の重傷を負っていた一人のアルゼンチンの軍人の話になった時、突如あふれ出た涙をおさえきれなくなり、こう叫びました。「(敵であるそのアルゼンチンの軍人は、)『どうして私たちは戦っているんだろう』って僕に言った。英語で言ったんだ。英語で言ってほしくはなかった」と。

相手の言語を使うというのは、相手の懐に飛び込んでいくということです。たしかに自分の母語ではない言語を習得するには大変な努力が必要です。最初は自分が子供のような片言しか話せないことにいら立つこともあるかもしれません。しかしそれによって得るものはとても大きい。

卒業後、企業で働くのであれ、官公庁に入るのであれ、ジャーナリストや教員になるのであれ、世界を視野に入れて活躍しようというのであれば、異文化の人々が大切にしていること、これだけは守りたいと思っていることは何なのか、を知っておくことは絶対に必要です。東京外国語大学の言語文化学部は、そうしたことを学ぶための最適の場所です。

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