朝鮮語


朝鮮語
野間 秀樹
1.概説 2.発音と文字 3.語彙  4.文法 5.朝鮮語を学ぶために 6.朝鮮語情報


3 朝鮮語の語彙

1) 固有語・漢字語・外来語

 朝鮮語の単語はその成り立ちから考えて次の3つのグループがある:
  ①固有語...日本語でいえば和語にあたる。朝鮮語固有の単語
            ?? [m?ri モリ](頭)・?? [hana ハナ](ひとつ)・
            ?? [hada ハダ](する)・? [pap パプ](ご飯)
  ②漢字語...漢語にあたる
            ? [san サン](山)・? [t?h?k チェク](本)・? [il イル](一)・
            ?? [ko?bu コンブ](勉強)・?? [mind?ok ミンジョク](民族)
  ③外来語...主として英語など他の言語起源の単語
            ??? [kh?mphjuth? コムピュト](電算機)・
       ? [?pa? パン](パン)・?? [mithi? ミーティン](合コン)
 ごく基本的な動詞や身体名詞などは多くが固有語であるが、漢字語の頻度も相当に高く、新聞など固い書きことばでは50~60%以上を占める。文学作品では固有語の割合が高くなり、85%を越すこともある。外来語の使用頻度は日本語ほど高くはない。上の3つの要素の合成語も存在する。

2) 朝鮮漢字音と漢字語

 伝統的に形成されてきた漢字の朝鮮語での読み方を朝鮮漢字音という。例えば<會>の朝鮮漢字音は?[hwe: フェー]、<社>は?[sa サ]、<員>は?[w?n ウォン]であるが、それらを組み合わせて、???<會社員>[フェーサウォン]、??<社員>[サウォン]、??<會員>[フェーウォン]、そして??<社會>[サフェ]という漢字語が成り立っている。<>内は漢字による表記を示す。漢字は日本のような略字を用いず、正字を用いている。

 なお、朝鮮語では漢字は音読みだけで、訓読みはしない。また漢字1字につき読み方は1通りであるものが多い。
 固有語と外来語は漢字で表記できないが漢字語だけは漢字でもハングルでも表記できる。韓国では新聞や一部の学術書は漢字混じりの表記を採用しているが、小説や手紙などはハングル専用の表記がなされることが多い。共和国では全てハングルだけが用いられている。ハングル・漢字共に必ず1文字1音節なのでどちらで書いても文字数そのものは変わらない。

漢字語の中には??<哲學>[t?h?r(h)ak チョラク]など日本の漢語起源の単語も非常に多い。それらに混じって、中には日本で訓読みする単語をそのまま朝鮮漢字音で読んだ漢字語も存在する:
 

       ??[ヨプソ]<葉書>・??[ソポ]<小包>・??[チュイグプ]<取扱>
       ??[イナ]<引下>・??[コンムル]<建物>・??[スソク]<手續>
       ??[イプク]<入口>・??[イプチャン]<立場>・??[チュシク]<株式>
 漢字語の中には同じ漢字から成っていても日本語と意味の異なる単語がしばしば見られる:
 
      ??[コンブ]<工夫>(勉強)・??[ウイノン]<議論>(相談)
      ??[ネイル]<來日>(明日)・??[セス]<洗手>(顔を洗うこと)
      ??[テーシン]<代身>(代わり)・??<模様>(形・ようす)

3) <こそあど>

 朝鮮語にも日本語の<こそあど>に似た単語群がある。?[i イ](この)、 ??[ig?t イゴッ](これ)、??[j?gi ヨギ](ここ)などがそれで、全て固有語である。日本語の「この」「その」「あの」にあたる?[i イ]・?[k? ク]・?[t?? チョ]は日本語と似てはいるが、その意味・用法にはずれが見られる。朝鮮語の?[チョ](あの)の系列は、話し手と聞き手のいずれの領域からも離れた、基本的には眼に見えるものに対して用いられる。また、?[ク](その)の系列は、話し手にとって既知の事物、あるいは話し手と聞き手が互いに了解している、つまり互いの領域に属す事物のうち、発話の現場にないものに対して用いられる。例えば「あの時、(発話の現場にない)あそこで私は...」や「ほら、このあいだのあの人さ...」などの「あの」「あそこ」には?[ク](その)の系列を用いるのである。

4) 擬声擬態語

 朝鮮語には擬声語・擬態語が非常に豊富である。擬声語が多いことはもちろん、擬態語の多さは日本語をもしのぐほどである。青山秀夫編(1991)『朝鮮語象徴語辞典』(大学書林)には約8800語の擬声擬態語が収録されている。10万語程度の小型の辞書でも普通3000から4000語ほどは収録されている。

 小説など文学作品ではとりわけ擬声擬態語の使用頻度が高い。例えば李浩哲(イー・ホチョル)作「裸像」では全277文のうち擬声擬態語を含む文は36.5%に達する。単語数でも2319語のうち192語、8.3%の単語が擬声擬態語なので、およそ12語に1語は擬声擬態語ということになる。一般に日本語の小説と比べても朝鮮語の小説における擬声擬態語の頻度は非常に高い。これら擬声擬態語の使用で必ずしも非常に話しことば的な文体になるというわけではないことも注目される。また???<悠々->[ユユヒ]のような、擬声擬態語に準ずる漢字語も存在する。
 


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