朝鮮語

朝鮮語
野間 秀樹
1.概説 2.発音と文字 3.語彙  4.文法 5.朝鮮語を学ぶために 6.朝鮮語情報


1. 概説

1.使用地域と人口

朝鮮語は朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)の約2000万の人々、および大韓民国(以下、韓国)の約4000万の人々の間で話されている。南北共に、人口のほとんどが朝鮮語を母語としており、朝鮮半島ではおおむね単一民族、単一言語状態にある点が特記すべきである。

このほかにも約70万といわれる在日朝鮮人・韓国人、約40万といわれる旧ソ連地域の人々、140万を越すといわれる在米の人々、200万以上といわれる在中国の人々の間でも朝鮮語が使用されている。ただしそれら在外の人々の多くはその地の主要言語との二重言語状態にあり、朝鮮語がほとんど話せない人々も多い。

2.言語の名称と文字の名称

朝鮮語の名称は、共和国では「チョソンマル」あるいは「チョソノ」と呼ばれる。 いずれも「朝鮮語」の意である。韓国では「韓国語」の意の「ハングンマル」あるいは「ハングゴ」が用いられる。 「私たちのことば」を意味する「ウリマル」の呼称も南北共に使われている。 「ハングル」という名称は朝鮮固有の文字のことで、言語名ではない。 従って「ハングル語」などという造語は日本語のことを「ひらがな語」というようなもので明らかな誤りだといえる。

 なお、ハングルは李氏朝鮮王朝の時代、世宗大王のもとで学者たちによって1443年に作られ 1446年に『訓民正音』という書により公布された。

3.朝鮮語の系統と歴史

朝鮮語はアルタイ諸語に似ている点が多いが、系統は明らかではない。日本語との系統関係も未だ不明である。

ハングルが作られる以前の朝鮮語に関する古い記録は少ない。 3世紀頃の中国の史書の記述、『日本書紀』に現れた地名などの朝鮮関係の記述、 高麗時代編纂になる史書『三国史記』の記述、石碑などに刻まれた金石文、 漢文の中に漢字を用いて朝鮮語の助詞の類を表記した吏読(りと)と呼ばれる表記による記録、 高麗時代の『三国遺事』などに残された新羅時代の郷歌(きょうか)と呼ばれる歌謡などが重要なものであるが、 これらの史料をもってしてもそれぞれの時代の朝鮮語の全体像を描き出せるほどの量ではない。 ハングル以前の朝鮮語を語るには史料的制約が大きいのである。

朝鮮語の全体像が明らかになるのは1443年に訓民正音(ハングル)が創製された時点からである。 河野六郎は、この1443年以前の朝鮮語を一括して古代朝鮮語と呼び、1443年から 1592年の豊臣秀吉の侵略までの時期の朝鮮語を中期朝鮮語、それ以降を近世朝鮮語と呼んでいる。 李基文は三国時代・統一新羅時代など10世紀以前を古代語、高麗王朝に相当する10世紀から 14世紀までを前期中世語、朝鮮王朝の最初の200年間に相当する16世紀までは後期中世語、 秀吉の侵略直後から19世紀末までは近代語、それ以降を現代語と呼んでいる。

なお、ハングルが成立するまでは文書は基本的に全て漢字漢文を用いていた。 ハングル成立後も公的な文書は朝鮮王朝時代は基本的に全て漢字漢文で、ハングルの使用は手紙などの私的な文書に限られていた。 そういう意味ではハングルの歴史には女性や子供を中心とする層の役割が大きいといえる。 近代に入ってハングルは社会の全て場面で用いられるようになったのである。

4.方言

 朝鮮語は、母音の数、とりわけ[Λ]という母音を持つかどうか、 中期朝鮮語の子音△を[s]として保っているかどうか、口蓋音化という現象がおきているか、 単語の高低アクセントがあるかどうかなどを始めとする様々な点から6つほどの方言区画に分類されている。
 


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