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 八杉貞利資料群について

(1)八杉貞利の日記について

 八杉貞利は、日々丹念に欠かさず日記をつけていました。資料群には1908年から1965年までの日記(一部欠損)が含まれており、八杉がみた学内外の出来事への評価や、ロシア・満蒙等の関係者との交流も記載されており、当時の国際関係や関係者の交流を知るうえ資料群となっています。
 八杉の教え子である和久利誓一によれば、「先生は、きわめてきちょうめんなご性格で、日記も少年時代から死の半年ぐらい前まで、一日として欠かされることがなかった」(『ろしや路』[頁)とされ、日記群は明治から昭和にかけての知識人が見た日本を伝える記録でもあります。 八杉の日記については既に雑誌・書籍等で紹介されているものも多数存在します。例えば、東京外国語学校教授時代に、ロシア・ソ連に渡航した記録は、「当時のロシヤおよび日本の社会事情を伝える点で社会的意義あるもの」として、八杉の教え子である和久利誓一の監修のもと、『ろしや路』(1967年6月30日、図書新聞社)として刊行されました。  
 渡航記の内容は日記に含まれませんが、渡航前後の日記からは、大正・昭和初期における旅支度の苦労が伺えます。 また、八杉が17歳の時(1896年)に郷里津和野を訪れた際、小さな手帳に記した日記が死後1周年を記念して『故山日記』(1967年2月)として出版されたほか、帝国大学時代の生活が『縣居日記』という名の手帳5冊にまとめられ、その一部が雑誌『文学』(1966年4月号)で紹介されています。

 

(写真)八杉の蔵書は、「八杉文庫」の名称で東京外国語大学附属図書館に収められています。

(2)八杉日記に見る東京外国語学校

@八杉貞利日記1909年4月14日「トドロヴィチ氏の到着」  
 1909年から1940年の31年間に亘り、東京外国語学校でロシア語教育にあたったドシャン・ニコラエヴィチ・トドロヴィチは、ベオグラード生れのセルビア人で八杉が招聘した外国人教師でした。八杉の日記によると、1909年4月13日、八杉は敦賀(福井県)に到着したトドロヴィチより電報を受取り、翌日彼を新橋まで迎えに行きました。八杉は「夫婦と小児四人には少々驚きたり。本人は人の極めて良好そう」と、その第一印象を記述しています。


(写真)八杉日記1904年4月14日

A八杉貞利日記1917年3月17日「ロシア革命」  
 八杉日記には、第一次世界大戦やロシア革命など、ロシア情勢への言及が多数確認できます。1917年、ロシア革命の動静が日本に伝えられてからは、ロシアの専門家として、新聞雑誌記者からの取材も多かったようで、3月17日付の日記にはロシアの新政府の閣僚の名前が記されるだけでなく、「露國政變のために新聞雑誌記者等来り閉口たり。大部分は撃退す」と取材の多さに不快感を示す記述もあります。


(写真)八杉日記1917年3月17日

B八杉日記1919年6月23日「シベリア出兵への生徒軍事通訳派遣の中止」  
 東京外国語学校は日露戦争時に陸海軍より露清韓語通訳の派遣依頼を受け、通訳養成に携わりました。八杉日記によると、1919年のシベリア出兵に際しても「陸軍省より照会につき露語生徒数名を在学のまゝ陸軍通訳とし西伯利にやる可否につき討論」があったそうです。しかし、この時、八杉は可を主張したそうですが不賛成が多く、此内に陸軍省より中止の旨申来りしもて此の議も中止」したそうです。


(写真)八杉日記1919年6月23日

C八杉貞利日記1919年9月5日「バイカル修学旅行の報告」
 
 1919年7月9日-8月31日に実施されたバイカル修学旅行後の9月5日、教官会議において旅行の報告が実施されました。八杉は旅先で病気になる者が多く、また卒業生への訪問連絡が徹底されていなかったことについて、旅行の教訓として、「大旅行出発前、健康診断の必要、所在卒業生に通知の必要」と報告しました。


(写真)八杉日記1919年9月5日

D八杉日記1936年2月26日「大事件の日 二・二六事件」  
 1936年2月26日-29日にかけ陸軍青年将校らが政府要人を殺害し、永田町・霞が関一帯を占拠した二・二六事件について、日記には「大事件の日」と記載し、その状況が克明に記録されています。当時、東京外国語学校の校舎は皇居お濠端の麹町区竹平町に位置しており、28日には学内で「用心ニ萬一の場合の處置」を検討し、29日朝には戸沢正保校長より八杉にいよいよ「武力使用始る」ため「本日始業中止」とする旨電話で連絡があったことが記されています。


(写真)八杉日記1936年2月26日

≪目次≫
T 東京帝国大学における博言学の研究と東京外国語学校への着任
U 八杉貞利の研究業績
V 八杉貞利資料群について

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