恵比寿スカイウォークを抜けた先にある東京都写真美術館
皆様ごきげんよう、本学博士後期課程・MIRAI2年生の大西です。
恵比寿駅から動く通路「スカイウォーク」を歩いて約7分、恵比寿ガーデンプレイスタワーの隣に、東京都写真美術館はあります。
大西は2025年度インターンとしてこの美術館で幅広い業務を体験し、美術館運営やアートと社会のコミュニケーションについて日々学んでいます。
今回は初回ということもあり、まず東京都写真美術館の概要についてお話ししたいと思います。
東京都写真美術館(Tokyo Photographic Art Museum、以下TOP)はまず1990年に一次施設が開館し、95年に現在の恵比寿ガーデンプレイス内で総合開館し、大規模改修を経て2016年に現在の形でリニューアルオープンしました。TOPは日本で初めての写真と映像に関する総合美術館であり、東京都にとどまらず日本における写真文化のセンターとなることを目指し続けています。
活動内容としては、収集、展示、保存・修復、調査・研究、教育・普及などと幅広く、展覧会からワークショップ、そして私が従事しているインターンも含まれます。
まず、社会との接点の主軸となる展覧会について。TOPは多くの写真・映像作品と関連資料 (1)を所蔵していますが、「常設展」はありません。TOP主催でテーマを設定して所蔵作品などを組み合わせて実施される「TOPコレクション」展をはじめ、将来性のある写真家を発掘し、新たな創造活動を紹介する「日本の新進作家」展、そして新聞社や出版社、他美術館等と共催で実施される展覧会などが開催されています。
TOPには展示室が3つありますが、それぞれ機能があり、壁(可動壁もあります)・床・空間などを各展示に合わせた調整が行われます。お越しの際は展示室ごとの違いにも注目してみてください。私も早速インターンとして展覧会準備に関わっていますが、詳細は展覧会編として別途まとめます。
TOPでは映像も扱っていることから、映像に触れる機会も多く提供しています。まず1階には映画館のようなホールがあり、ロードショーの映画作品や、開催中の展覧会に関係する映像作品の上映、講演会やシンポジウムの会場としても活用されています。毎年2月には「恵比寿映像祭」が開催されており、TOP館内にとどまらず、恵比寿ガーデンプレイス一帯が映像文化に満たされます。
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TOPでは写真文化の教育普及にも力を入れています。まず一般に開かれたパブリックプログラムでは、暗室での現像体験やアニメーション制作を行うワークショップ、展覧会での作品鑑賞を楽しむためのプログラム(2) などを、またスクールプログラムでは、「写真と映像の仕組み」を体験的に学ぶことのできるプログラムなどをボランティアスタッフと共に実施しています。加えて、これからの文化の振興を担う博物館実習生やインターンの受け入れも行っています。私も修士課程のころにTOPのモノクロ銀塩プリントワークショップに参加したことがあり、印画紙にイメージが表れていくのを目にした経験は写真の面白さを追認する契機であったとともに、インターンに応募した動機の一つでもあります。
TOPは館内設備の利用、展覧会や上映作品の鑑賞、プログラムへの参加のすべてにおいてアクセシビリティの向上を目指しており、館内が車椅子での利用を想定して設計されているほか、「やさしい日本語」を含めた多言語での案内や、障碍やニーズに合わせた柔軟な対応がなされています。ワークショップや学芸員によるギャラリー・トークも手話通訳付きで実施される回があります。TOPは基本的性格の一つとして「写真芸術・文化を普及するために、人々が気軽にすぐれた写真作品を鑑賞し、学ぶとともに、美術館の諸機能を積極的に享受できるような、開かれた施設とします。」(3) を掲げており、高い敷居やハードルを感じることなく、ふらっと来て写真を見て学べるような場づくりを目指しています。
こうした取り組みの背景としては、東京都における手話言語条例の制定(2022)、国レベルでは障害者差別解消法改正法(事業者による合理的配慮の提供の義務化)の施行(2024)などに加えて、東京都の「東京文化戦略2030」の戦略の一つである「あらゆる人が芸術文化の環境につながり、芸術文化を享受できる環境が整備され、豊かな芸術文化を体験・参加できる環境を目指す」などの目標が挙げられます。
一般に開かれた施設として、TOPには図書室(4階)があり、展覧会のチケットなしでも利用することができます。閲覧室では今までの展覧会図録や開催中の展覧会に関連する書籍、写真や映像に関する雑誌の最新号などが閲覧できます。閉架書庫には戦前の写真雑誌などの貴重な資料を所蔵しており、手続きをすれば閲覧、複写(有料)も可能です。
その他、保存修復も写真文化の保存と進行に関わる重要な領域です。TOPには本館と外部収蔵庫(非公開)で作品を保存しており、温度や湿度、防虫などに細心の注意が払われています。私は2024年度より国文学研究資料館での「アーカイブズ・カレッジ(旧:資料管理学研修会)」を履修していますが、中性紙箱などまさにそこで学んだ保存方法・技術が用いられていたこともあり、思いがけない復習となりました。ただ写真は印刷された紙を閉じた公文書とは異なり、化学変化をする「作品」なので、公文書よりも物理的な取り扱いが難しくなります。特に額装やマットをした作品が入った箱は重いので、両手で箱をしっかりと持つ必要があります。加えて収蔵庫内は温度を下げているので、寒暖差に注意です。ちなみに作品の収蔵情報はTOPウェブサイトから検索可能です。
このブログをご覧になっている方の多くは研究者や学生かと思いますが、TOPでは所蔵している写真を研究目的で閲覧、利用することが可能です(要問合せ)。研究目的に限定せず、デジタルや印刷画像ではないプリント作品を閲覧・鑑賞したい場合は、「プリント・スタディ・ルーム」を利用することもできます。(有料・要予約)
TOPは他の公立美術館同様、収蔵作品の貸与、借用を行っており、諸々の手続きを経たうえで国内外の美術館との間を作品が行き来しています。収蔵庫からの出し入れは厳格に管理されており、TOPは広く人々に開かれたミュージアムであるとともに、まさに日本における写真文化のセンターとしての作品保存の役割を担っています。
今回はTOPの概要についてお話ししました。次回は展覧会について、この夏開催予定の「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」展(4) を中心にお話いたします。ではまた。
註
1. 2023年現在で37,312点。
2. ビジネスパーソン対象の対話型鑑賞会(2025年1月)・恵比寿映像2025地域連携ワークショップ:景丘の家と東京都写真美術館の探検プログラム(2025年2月)などが実施されている。
3. 東京都写真美術館編『東京都写真美術館 概要』6頁。MIRAI図書として寄贈いたしましたので、よろしければご覧ください。
4. 「総合開館30周年記念 ルイジギッリ 終わらない風景」(2025年7月3日-9月28日)
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5073.html