2009/10/19 平成21年度附属図書館講演会<読書への誘い>第1回

語学と文学の間:私の読書遍歴

講師 沓掛良彦先生(本学名誉教授)略歴

1941 年1 月長野県生れ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業。東京大学大学院人文科学研究科比較文学比較文化専攻修了。文学博士。大阪市立大学・専任講師、東北大学・助教授、東京外国語大学・教授、東京学芸大学・教授を歴任。東京外国語大学・名誉教授。
専門は、西洋古典文学・比較文学。ギリシャ・ラテンの古典語のみならずフランス語、イタリア語、ロシア語と多くの言語を操り、さらに漢詩、日本古文をも扱う学殖の広さは比類ない。

主要著書

『讚酒詩話』(岩波書店、1998)
『和泉式部幻想』(岩波書店、2009)
『ホメーロスの諸神讃歌』(平凡社、1990、ちくま学芸文庫、2004)
『アベラールとエロイーズ―愛の往復書簡』横山安由美共訳(岩波文庫、2009)

講演要旨「語学と文学の間:私の読書遍歴」 

 なぜ「語学と文学の間~私の読書遍歴」というテーマにしたのか。一つは東京外国語大学の学生の皆さんは外国語に関心があると思ったからです。もう一つは私の読書遍歴において、約半世紀は外国語の本を読むということが読書の一部になっており、読書が外国語の学習と切離せない状況にありましたのでこのテーマと致しました。

 高校時代に本を読むのが楽しみで、トルストイやバルザックの作品が非常に印象に残っています。大学入学前の予備校時代には英語で本を読む楽しみを初めて体験しました。オースティン、ブロンテ姉妹、ヘミングウェイ等の作品を読んだ事は非常に懐かしく思います。大学ではロシア語を殆ど独学で学び、3年ではトルストイの「アンナ・カレーニナ」を4年ではショーロホフの「静かなるドン」を原書で読みました。フランス語も独学で学び、スタンダールやバルザック等の作品を読みました。大学院の時にドストエフスキーとバルザックの主な作品を全部原文で読んだ事は自分の大きな財産となりました。ダンテの作品を原文で読もうとイタリア語も独習したりもしました。また、ドイツのクルツィウスの「ヨーロッパ文学とラテン中世」を読みましたが、ヨーロッパの学者のスケールの大きさと博識に圧倒されました。

 大学院卒業後、大阪市立大学でロシア語の教師になりましたが、この頃ギリシャ古典を勉強し、古代ギリシャの抒情詩を自分の専門としようと決めました。その一方、フランスの詩人、ボードレールに心酔して「悪の花」を耽読したりしました。この頃出会ったフランスの哲学者、モンテーニュの作品は私にとって座右の書となっています。1982年に外語大に移った後、日本や中国の古典が面白くなり、源氏物語を原文で読みました。ホメロスをギリシャ語で読むより難しい作品でしたが深く感動しました。その後王朝和歌、陶淵明、李白等の詩人達の作品を読み、段々江戸漢詩の面白さも感じるようになりました。最近は歴史の本が面白くなり、司馬遷の史記等を耽読したりしています。50歳を砌にイタリアの大学に教えに行くことになり、イタリアの現代小説家であるモラヴィア、カルヴィーノ等を集中的に大量に読むことになりました。外語大を退職後、某女子大の英文科大学院で英詩を教えることになり、シェークスピアの「ソネット」から始め、イギリスの詩人、バイロン、キーツやアメリカの詩を猛勉強させられました。おかげでそれまでは読んだことはなかったロセッティやエミリ・ディキンソン等の詩人達の魅力も発見できました。

 自分の読書人生を振り返ってみますと私は生涯一学生です。私は立派な学者にならなくとも良いのでとにかく自分の好きな本を読み、一生を過ごせれば良いと思っていたものですから、勝手気ままな読書をして参りました。文学に関して何を読まなければならないということはありません。ただ読むとすれば、やはり古典をお薦めしたい。渋皮を我慢して齧ると中から甘い汁が出てくるように、古典を通読するには辛抱が必要ですが味わいがあると思います。

当日配布された資料、お勧め本は、こちらからご覧いただくことができます。