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Research Activities研究活動

研究プロジェクト

生命科学技術による国際秩序変容の分析:生体情報を用いた移民管理の普及を事例として

中山 裕美(東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院)

【研究課題】生命科学技術による国際秩序変容の分析:生体情報を用いた移民管理の普及を事例として
【研究費の枠組み】基盤研究(C)
【研究期間】2021月4月1日 〜 2025年3月31日
【研究代表者】中山 裕美(東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院)
【研究目的】

近年のグローバル化の流れにおいて、科学技術の発達はグローバル化を進展させ、国家主権を相対化させる機能を持つと評価されてきた。ところが近年の生命科学技術の飛躍的な発展を受け、特に個人の管理・統治との関連において、国家主権は再強化されようとしている。
本研究は、人の移動を扱うガバナンスを対象として、生命科学技術によって国家主権が強化されることにより主権国家体制にいかなる変化が生じているのかを解明し、その結果として様々な領域における既存の国際秩序にいかなる変化をもたらすのかを分析する独自性に富んだ研究である。

【キーワード】生命科学技術 / 国際秩序 / 人の移動 / ID政策 / 移民管理 / 生体情報


【研究成果報告】

本研究の目的は、生命科学技術の利用が人口移動および関連分野で構築されてきた既存の国際秩序に与える影響を解明することである。具体的には、1)人の移 動の管理への生命科学技術の利用がどのような経緯で進められ、どのように国家主権を強化しているか、2)その効果がどのように主権国家体制を変化させてい るか、3)その結果として様々な領域に存在する既存の国際秩序にいかなる影響を及ぼしているかを分析することを目指す。 当初研究計画では、初年度から2年度にかけてMIDAS導入国の選定過程、導入に関与したドナー国の行動を分析することとしていたが、MIDASの設置に与える外的要因(ドナー)のみならず内的要因(国境ポストの位置、環境、国境を越えた往来の多寡)を調査する必要性があるとの認識に至り、リサーチアシスタントを雇用し、国境ポスト設置状況の調査を行った。その結果、自然環境や紛争の影響により、国境ポストの分布状況に大きな差異が見られることがわかった。また、本研究は国境を越えた移動に対する生命科学技術利用に焦点を当てたものではあるが、個人の管理への技術利用という点においては国民を対象としたID制度の状況と一定程度連動するとの理解から、アフリカ諸国におけるID制度の状況、とりわけ生体認証技術の活用状況の調査を行った。その結果、アフリカ諸国の複数のカードで2010年代半ば頃からIDカードへの生体認証の導入が始まったことがわかった。また世界銀行などの援助機関がIDカード発行を援助戦略の一環に位置づけていることや、選挙時にIDカードの利用が行われるなど、ID制度が開発援助や民主化政策などと密接な関係を持つことが示唆された。これらの新たに得られた知見に基づき、現在、国境管理への生命科学技術の導入に関する内的要因と外的要因の解明を進めているところである。