ご入学おめでとうございます!(2026年度入学式)
2026.04.04
2026年4月4日(土)、2026年度入学式が行われました。
言語文化学部356名(編入学10名含む)、国際社会学部349名(編入学10名含む)、国際日本学部87名(編入学2名含む)、大学院総合国際学研究科博士前期課程116名、博士後期課程25名、計933名の新入生が入学を許可されました。
- 学長式辞(学部入学式)(動画)
- 学長式辞(大学院入学式)(動画)
学長式辞(学部)
(言語文化学部・国際日本学部の式辞は英語で、国際社会学部の式辞は日本語で行われました)
新入生の皆さん、東京外国語大学へようこそ。
本日は英語でお話しします。皆さんの多くは、英語以外の言語を専攻します。そして、その言語の習熟度は、生涯にわたって皆さんの強みになるはずです。しかし、英語の習熟度が不足していれば、それはグローバル社会で不利な要素になります。専攻言語が何であれ、皆さんには高い英語力を身につけていただきたいと思います。
まず、ひとつの質問から始めたいと思います。なぜ皆さんは大学で勉強しようと思ったのでしょうか。そして、なぜこの大学を選んだのでしょうか。そのように自分自身に問うて、自分の選択を自覚していてほしいと思います。
なぜ、このように問うかと言いますと、AIが急速に発達し、普及している今日、外国語を学ぶ必要はあるのかという考え方が出てきているからです。
このような時代に、なぜ、皆さんは東京外国語大学への入学を決めたのでしょうか。
本日は、この問いに対する私の考えを皆さんにお伝えしたいと思います。要するに、AI時代においても大学で外国語を学ぶ意義がどこにあるのか、私なりの考えをお話しします。
ICTとAIの利用が広く浸透した今も、人と人が会って話す場面はなくなっていません。むしろICTという代替手段が整備されているからこそ、対面で会う価値が増しているのかもしれません。政治であれ、ビジネスであれ、重要な交渉や意思決定は、今も対面の会議でおこなわれます。先月、日本の高市首相が訪米し、今週、フランスのマクロン大統領が来日しました。
企業間でも、対面で交渉や商談がおこなわれています。そして、海外企業との取引が多い企業は、AI時代の今も、以前と変わらず語学力を重視しています。豊田通商や三井物産などの総合商社は、社員の語学力を向上させるため、海外研修制度を整えています。日本経済新聞の報道によれば、両社にとって、今後も語学研修の重要性は変わらないようです。取材に答えた三井物産の人事担当者は、AI時代においても「商社パーソンにとって語学力は競争力の源泉」(2026年2月17日)にほかならないと語っています。
総合商社が社員の語学力を重視するのは、外国語の運用能力が国際取引の場面で便利なツールになるからだけではありません。総合商社は、これからも語学力が、海外の取引相手との信頼づくりに欠かせないと考えているのです。
AIの発達と普及によって、多くの職場で仕事の内容や方法が変わっていくのは間違いないでしょう。日本政府の予測によれば、2040年に事務職の労働者は437万人が余剰になるそうです。しかし、AIが広範に普及した時代においても、人と人が会って話し合うという場面はなくならないでしょう。そこで、人が笑い、あるいは頷くというような光景は、これからも続いていくのではないでしょうか。
インターネットの登場も、確実に私たちの働き方を変えました。しかし、インターネット出現の前後で、人と人が会って話し合うという場面は、何か変わったでしょうか。人と人が会って話し合うという場面に変化がないのであれば、交渉で成果を上げるために求められる能力は、AIが登場する前の時代と変わらないはずです。そのような能力のひとつに言語の運用能力があるのです。
外交官の片山和之さんが著した『外務省研修所』(光文社、2020年)という書籍には、外交官に必要な資質・能力について、過去に外務省人事課が示してきた考えが紹介されています。2015年当時の人事課長は、次のように書いています。
「外交は、国と国との付き合いが基本ですが、突き詰めると国を代表している個人と個人の関係に還元されることが多いものです。それだけに、日本の外交を担う一人一人の外務省職員には、柔軟な思考力、交渉力、コミュニケーション能力、高い外国語力、豊かな人間的魅力など多くの資質が求められます」。
外務省も、必要な能力のひとつとして「高い外国語力」を位置づけているのは、職員が一人の個人として国境を跨いで他者と交流するなかで、他者の信頼を得て、他者に対する説得力と影響力をもつためには、それが欠かせないと考えているからです。
東京外国語大学の卒業生で、かつて外務省職員として首相の通訳も務めた黒川公晴さんは、毎日新聞とのインタビューのなかで(2026年1月15日夕刊)、AI時代にも必要とされる英語力とは「英語で相手の心を動かす、説得する、つながるといった「場」を作り出す上級レベルの英語力」であると表現しています。
単純な会話にとどまらず、「他者を動かす」ほど高次の言語運用能力は、まず、母語で身につけなければなりません。そのような能力を、さらに外国語でも身につけられれば、皆さんの活躍の範囲は、日本を超えて世界へと広がります。黒川さんは、英語は自分にとって「人生そのものを広げる「可能性の拡張装置」」であったとおっしゃっています。
AIが広範に普及する今後も、人と人が会って話し合う場面、とりわけ国境を跨いで人と人が会って話し合う場面の重要性がなくならないかぎり、外国語を学び、「高い外国語力」を身につける意義は、少しも衰えません。
外国語を学ぶ意義について、もう一点、申し上げます。
言語の習得は、単語の記憶だけでは完結しません。単語は、それが指す対象と一対一で対応しているわけではないからです。少し抽象的に表現すれば、単語の意味は「点」ではなくて「面」であり、その範囲は、ほかの単語との関係によって決まります。名詞でも、その意味には幅がありますが、動詞となると、それが指し示す範囲は、さらに曖昧さを増します。
今井むつみさんと秋田喜美さんの大ベストセラー『言語の本質』(中央公論新社、2023年)に詳しく説明されているとおり、子どもは、試行錯誤を繰り返しながら単語を習得していきます。子どもは、自分の理解にもとづき、適当と思われる文脈のなかで単語を使ってみます。それが目論見どおり正しく他者に通じる場合もあれば、使い方が誤っている場合も多々あるでしょう。このような試行錯誤をとおして、私たちは母語を身につけてきたのです。
このような言語習得のプロセスは、新たな知識の獲得、すなわち研究という知的創造の営みとよく似ているのではないでしょうか。単語の意味と使い方について自分なりの「仮説」を立て、それを試してみて正しいか否かを検証し、正しければ定着させ、誤っていれば仮説を修正する。これは、一般的な学術研究の手順そのものではないでしょうか。少し大袈裟にいえば、私たちは、小さな「発見」を積み重ねながら、言語を身につけるのです。
皆さんが外国語を学ぶプロセスは、子どもが言語を習得するプロセスとまったく同じではないでしょう。皆さんには、すでに母語を習得した経験があり、しかも、子どもにはない知恵があります。とはいえ、皆さんが外国語を学ぶプロセスにおいても、仮説を立て、試行による検証を経て、時には修正を加えたうえで理解を定着させるという試行錯誤が繰り返されるはずです。そのため、皆さんは、おそらく自覚のないまま、外国語の学習をとおして知的創造の訓練を重ねていくのです。
話が長くなりました。まとめに入りましょう。高性能のAIが広範に普及しつつある今日、外国語の習得に多大な時間と労力をかけるのは効率的ではないという意見があります。しかし私は、AIの時代においても、人と人が会って話し合う場面で、人が他者の信頼を得て、他者を動かすために語学力がもつ意義は、少しも衰えないと考えています。そもそも、そのような場面の重要性は、ICTとAIが普及した時代だからこそ、ますます高まっていくのではないかとも思います。
また、外国語を学ぶ意義は、単にコミュニケーションにかかわる技術を身につけられるという点にとどまりません。考えて、試して、失敗して、学ぶという試行錯誤にみちた外国語習得のプロセスは、知らず知らずのうちに知的創造の訓練にもなっているのです。
外国語を学ぶプロセスにおいては、失敗を恐れない挑戦と試行錯誤が欠かせません。外国語学習ほど、何度も何度も失敗を繰り返さなければならない営みはないのではないでしょうか。その同じ挑戦と試行錯誤の反復が、知的な創造に限らず、何か新しいものを創造していく際にも欠かせないのです。トーマス・エジソンが言ったように、失敗こそ成功のもとになるのです。
大学へようこそ。東京外国語大学へようこそ。さっそく本日から、何も恐れず、いろいろと挑戦してみてください。
2026年4月4日
東京外国語大学長
春名 展生
学長式辞(大学院)
(スピーチは英語で行われました)
(日本語訳は準備中)
言語文化学部長 祝辞
(準備中)
国際社会学部長 祝辞
(準備中)
国際日本学部長 祝辞
(準備中)
大学院総合国際学研究科長 祝辞
(準備中)