朝鮮語は母音・子音のそれぞれの数が日本語より多い。日本語と朝鮮語の間で最もかけ離れているのがこの発音の点であろう。
次に、そうした単音を表す字母を組み合わせて、1音節分で1文字になるように作られている。例えばㄴ[n]という子音字母とㅏ[a]という母音字母を組み合わせると나[na
ナ]という開音節を表す1文字ができあがる。また、나[na]の下にさらに[n]を表すㄴ{n}という終声字母を加えると난[nan]という閉音節を表す別の1文字ができる。このように<子音字母+母音字母>あるいは<子音字母+母音字母+子音字母>というように、必ず組み合わせて1文字を表わす音節文字なのである。この点がハングルの第2の特徴である:
初声 中声 終声 ㄴ [n] + ㅏ [a] → 나 [na] ㄴ [n] + ㅏ [a] + ㄴ [n] → 난 [nan]なお、音節の頭に子音がない音節の場合には、子音字母を書く位置に、子音がないことを示す「ㅇ」(イウン)という字母を書くことになっている:
初声 中声 終声 ㅇ [子音ゼロを示す] + ㅏ [a] → 아 [a] ㅇ [子音ゼロを示す] + ㅏ [a] + ㄴ [n] → 안 [an]
平仮名は日本語の母音の位置を表す。狭い[e エ]と広い[ɛ エ]の区別はソウルでは既になくなりつつある。
[ja ヤ]や[wa ワ]など、半母音[w][j]と母音の組み合わせも母音字母を基本に一画つけ加えたり、母音字母どうしの組み合わせで表す:
아 [a] → 야 [ja] ㅗ [o] + 아 [a] → 와 [wa]
子音は表の通りである。音節の頭、つまり初声ではp、t、k、tʃに平音・激音・濃音という3つの系列があることが特徴的である。発音記号では一般に、激音には[h]という記号、濃音には[?]という記号を肩につけて表す。無気音である平音は語頭では濁らない無声音だが語中では濁って有声音となる。いわば語頭で清音だった音が語中では濁音になるわけである:
기자 [kidʒa キジャ](記者) 자기 [tʃagi チャギ](自分)
同じ기という文字が語頭では[ki キ]、語中では[gi
ギ]と濁っているし、자の文字を見ても同様だということがわかるだろう。
上の/ㄱ/の[k]という無声音と[g]という有声音、/ㅈ/の[tʃ]と[dʒ]はそれぞれ朝鮮語話者にとっては同じ音と認識されているわけで、日本語話者が清音と濁音を別の音と認識しているのと大きな違いがある。なお、朝鮮語では語頭に有声音(濁音)が立つことはない。
激音は有気音で、激しい息を伴う。濃音も濁らない無気音でかつ声門に著しい緊張を伴う音である。声門閉鎖音と呼ばれる。濃音と激音は語頭でも語中でも基本的に音は変わらない。平音・激音・濃音の例を見てみよう:
平音 바 [pa パ] 激音 파 [pha パ] 濃音 빠 [?pa パ]いずれも日本語母語話者には同じ「パ」という音に聞こえてしまうのである。
濃音빠[?pa パ]は日本語の促音を含む「やっぱり」の「っぱ」の部分に翌トいる。同様に따[?ta タ]・까[?ka カ]・짜[?tʃa チャ]・싸[?sa サ]は「やった」「はっか」「ぼっちゃん」「あっさり」の「った」「っか」「っちゃ」「っさ」に似ている。
sには平音と濃音がある。sの平音は語中でも有声音化せず、息を伴うのでその性質は激音的である。[i][j]の前では[s][?s]は[ʃ][?ʃ]となる。
/ŋ/は語頭には立たず/r/も外来語以外では基本的に語頭に立たない。
音節末の子音、即ち終声に[p][t][k][m][n][ŋ][l]の7種類の音が立ちうる点が日本語と大きく異なる点の1つである。閉鎖音[p][t][k]は閉鎖するだけで破裂しない音なので聞き取りが難しい。さらに、聞き取りにおいては[n][ŋ]の区別は、日本語母語話者にとっては非常に困難である。
初声に[p]、中声に[a]という組み合わせで終声のみが異なる例をハングルと発音記号で示す:
밥 밭 밖 밤 반 방 발 [pap] [pat] [pak] [pam] [pan] [paŋ] [pal] ご飯 畑 外 夜 クラス 部屋 足
終声字母には初声の字母と同じものを用いる。終声に立つ音は7つだが、文字表記上では上のようにㅌなどの激音字母、ㄲなどの濃音字母も用いられる。
밤 [pam パム] + 이 [i イ] → 밤이 [pami パミ 바미] 夜 ...が 夜が
先の例で、밖[pak]を박と書かずにわざわざ濃音字母ㄲで書いているのはこの終声の初声化などを考慮してあるからである:
박 [pak パク] + 이 [i イ] → 박이 [pagi パギ 바기] 朴(姓) ...が 朴が 밖 [pak パク] + 이 [i イ] → 밖이 [pa?ki パッキ 바끼] 外 ...が 外が
눈 [nun ヌン] (眼) 눈 [nu:n ヌーン] (雪) 돌 [tol トル] (満一歳) 돌 [to:l トール] (石) 말 [mal マル] (馬) 말 [ma:l マール] (ことば) 이 [i イ] (歯) 이 [i: イー] (二)
ただしソウルの若い世代では事実上音素としての長母音はなくなっていると考えてよい。[nun ヌン](眼)と[nu:n ヌーン](雪)の区別などは学校教育で学んでかろうじて維持されているようなもので、ほとんどの単語の母音の長短は意識されていない。なお、살그머니[salgɯmɔni]~[salgɯmɔ:ni](こっそり)や음매[ɯmmɛ]~[ɯmmɛ:](もー:牛の鳴き声)のごとく、擬声擬態語などには強調のために第二音節以降でもまま長母音で発音されもする単語がある。
日本語のような高低アクセントはなく、英語のような強弱アクセントもない。なお、中期朝鮮語には高低アクセントがあり、単語ごとにアクセントが決まっていた。
朝鮮語では特に音節末の音の変化が激しい。例えば밖[pak パク](外)と만[man マン](...だけ)が結合した밖만(外だけ)は[paŋman パンマン]と発音されるが、このように音節末の口音は鼻音の前で必ず同化して鼻音化する。また신[ʃin シン]+라[ra ラ]は 신라[ʃilla シルラ 실라](新羅)と発音されるように、ㄴ[n]+ㄹ[r]はㄹ+ㄹ[ll]と発音される。この現象は流音化と呼ばれている。朝鮮語ではこうした音の交替が激しく、ハングルは表音文字とはいえ、しばしば書いてあるとおりには読まないという結果をもたらす。
文字は縦書き・横書きの両方が可能である。韓国においては新聞や一部の書籍を除いて横書きが主流であり、共和国では1955年以来全て横書きが用いられている。表記する際には、単語と単語の間は分かち書きをし、文末には「.」「?」「!」などを用いる。語尾(いわゆる助詞の類は語幹につけて書く。
なお、一部の学者たちによって풀어쓰기[プロッスギ]と呼ばれる試みもなされた。これはハングルの字母を組み合わせて音節単位で表記するのではなく、字母をそのままローマ字のように横に並べる表記法である。「풀어쓰기」をプロッスギしてみると「ㅍㅜㄹㅇㅓㅆㅡㄱㅣ」」(ph-u-r-ɔ-?s-ɯ-g-i)のようになるわけである。