これまでの研究

本プロジェクトへ至る経緯

 藤縄は科学研究費補助金の研究課題として近年、単なる命題構成素に留まらない「所有」概念の作用を追求してきましたが、その過程で Kuroda (1972) によって導入された複合判断・単独判断が、「利害関係」や「疑似動作主性」にまで解釈を広げ得る日・独語のさまざまな「所有」表現間の対応関係を決定する鍵となっているとの手応えを得ました。そこで Marty の著作に当たってみたところ、彼は決してKuroda (1972) のように2種類の異なる主語を想定しているのではないこと、むしろ西欧伝統の「主語」の相対化を指向していること、その際、述語的諸概念のうち「存在」を単独判断の基礎として特に重視していること、意味・形式間のミスマッチの可能性(「疑似複合判断文」)も自覚していることなど、Kuroda (1972) からは読み取れなかった Marty 言語理論のさまざまな特色を発見しました。この発見からの展開として、2015年に田中がミュンヘンの研究者チームと企画した「国際言語学サマースクール」でドイツ語命令文・希求文の分析案を披露したところ、日独語における指示と述定の問題に取り組んできた田中も、言語哲学に造詣の深いミュンヘン・チーム Abraham & Leiss も、広範に問題意識を共有することが判明しました。
 以来、藤縄・田中とミュンヘン・チームは相談を重ね、同じく意味と形式の関係に強い関心を寄せ、「日独言語学サマースクール」2011年次開催にも携わった吉田および言語哲学分野でも実績のある室井の賛同を得られたことから、語用論に携わる2名の有望な若手研究者・筒井と大喜を加えて体制を強化し、本格的な国際共同研究として本研究を企図しました。
 藤縄と田中は国内外の学会・研究会(一部は本研究の他のメンバーも同席)で構想を紹介し、ミュンヘンチームと複合判断・単独判断を主要テーマとする論集 Tanaka/Leiss/Abraham/Fujinawa (eds.)(2017) を Buske 社から出版しています。2018年12月には、オーストリア言語学会でのAbraham の主催するセッションにLeiss ・藤縄・田中・室井が参加しました。

本プロジェクトに関連する業績リスト

これまでの主な共同プロジェクト

  • 科研費基盤 (C) 15K02471「状況の主体的位置づけとしての所有概念とその言語的実現に関する日・英・独語比較研究」(2015-17) (代表者:藤縄)
  • 科研費基盤 (C) 23520497「ヴァレンス拡大とその形態統語論的実現に関する日・英・独語間の語彙意味論的比較研究」(2011-13) (代表者:藤縄)
  • 科研費基盤 (C) 24520470「直示と指示・照応の面から見たドイツ語指示表現の研究」(2012-14) (代表者:吉田)
  • 二国間交流事業「動詞カテゴリの構造と機能についての日独対照研究」(2012-13) (代表者:吉田)
  • 科研費基盤 (C) 16K02656 「「『経験』と『知識』に基づく文法」構築のための機能類型論的国際共同研究」(2016-18) (代表者:田中)
  • (公財)俱進会研究助成金「日独言語学共同研究」(2015) (代表者:田中)