「ポルトガルがマカオに残した記憶と遺産
―『マカエンセ』という人々―」 (2/6ページ)
内藤理佳(上智大学)
1. マカエンセ (Macaense, 複数形Macaenses) とは
2. マカエンセの歴史と現状
3. マカエンセの未来
4. マカエンセの伝統文化
4.1 祭礼行事
4.2 伝統料理―マカエンセ料理
4.3 ポルトガル語系クレオール語 ―パトゥア語
<「2. マカエンセの歴史と現状」続き>
【中国返還以前のマカエンセの社会的(伝統的)地位】
① 支配層…ポルトガル人 中国語(広東語)を話さない
② 中間層…マカエンセ ポルトガル語を母語とし、中国語(広東語)の会話を話す中級公務員職・警察官・弁護士・法務官などの職業、「東洋のポルトガル人という中国系一般住民に対するエリート意識
③ 被支配層…中国人 ポルトガル語を話さない
・中国・ポルトガル両国における政治・社会体制変換期(中国:辛亥革命・中華民国成立・太平洋戦争・マカオ事件、ポルトガル:王政廃止・サラザール独裁体制・民主革命)を経て、中ポ国交樹立(1979)の際にマカオは中国領であることが確認され、中葡共同声明(1987)により中国返還(1999)が決定。マカオにおけるポルトガルの存在が次第にその重要性を失っていく。
・第二次世界大戦前の香港・上海への移民、1974年ポルトガル民主革命、1999年返還の時期に、多数のマカエンセがより安定した生活を求め海外に移住。
【中国返還後のマカエンセの現状】
・中華人民共和国澳門特別行政区基本法(マカオ基本法)第42条
「マカオのポルトガル系住民の利益はマカオ特別行政区によって法律の範囲の中で保護される。彼らの文化的慣習と伝統は尊重されるべきである。」
⇒ 返還後、一見してマカエンセの文化と伝統は返還以前よりもしっかり守られているように見えるが、実際はどうなのか?
<教育面>
・社会の第一言語となった中国語(北京語)の修得が最重要となる。
⇒マカエンセには不利
・ポルトガル語は返還後も公用語だが、社会生活上は英語のほうが重視されている。
<出自面>
・マカオ在住マカエンセの大多数がポルトガルと関係のないマカオの中国人と結婚。
・海外移住者(ディアスポラ)が多数派
⇒二世・三世はマカエンセとしてのエスニック・アイデンティティやマカオへの愛着を失いつつある。
<精神面・文化面>
・中国化が進み、次世代にマカエンセとしてのエスニック・アイデンティティを伝えようとする意識を持たず、必要性も感じない者が20代以下の若い世代に増加。
<社会面>
・カジノ産業の自由化(2002年)による大好況を迎え、短いスパンで社会情勢が変化。返還後50年間は民主主義・資本主義の継続が保証されているが、中国化が急速に進行。ポルトガル国籍のマカエンセが中国籍に変更する義務はないが、三権のトップ・管理職は中国籍であることが義務付けられている。職業選択においてもポルトガル籍より中国籍のほうが有利。