本文へスキップ

 東京外国語大学「日本専攻」の歩み

2. 留学生課程の時代

目次
留学生課程の発足
留学生課程の授業
東京外国語大学「日本語学部」設置の議論



1964年授業風景


・留学生課程の発足

 文部省は、1960年3月、東南アジア・中東諸国からの留学生を主たる対象とする3年制の留学生課程を本学と千葉大学に設置します。 留学生課程は文科(定員90名、各年次30名)・理科(定員180名、各年次60名)に分かれ、本学には文科が置かれました。また別科時代の反省に立ち、留学生課程には専任教官と事務官が配置されます。 この専任教官の配置は「留学生教育の根幹をなす日本語教育は、片手間の仕事では効果が期待できず、言語学的にも心理学的にもいかに大きい仕事量を有するかがようやく認識されてきた結果」 (『特設日本語学科の構想と問題点』1969年3月)であり、専任教官を中心に留学生に対する日本語教育や教材開発の検討が進められていきます。
 また専任教官が配置され、カリキュラムなど内容の充実が図られた一方、留学生課程では制度上の課題も現出します。留学生課程は3年間での日本語と基礎学力の教育を前提としていましたが、 進学先となる各大学が専門教育を始める時期はそれぞれ異なり、各大学は受入れ開始の学年や学期についてそれぞれの別々に要求を出しはじめ、 結果として留学生は課程修了の1年~3年までのばらばらの時期に各大学に進学することになります。また課程修了後に「現代語を中心としてより深い研究を希望する留学生」の進路となる学部・学科がないという 問題点や、留学後から3年間に亘り留学生だけで教育を受けるという隔離教育に近い体制が、留学生の日本語能力向上に適しているかとの批判も生まれ、 留学生課程を軸とした留学生受入れ体制は制度上の見直しが迫られます。

・留学生課程の授業

 留学生課程の性格は、日本の大学の教養課程に相当するもので、1年次には日本語教育を中心とした授業が、2-3年次には大学学部の前期二か年に該当する授業が行われ、 「大学設置基準」に定められた諸科目(一般教育・外国語・体育・専門基礎)を履修し単位習得をした留学生は各自の専攻に従い他大学の後期専門課程に進学できました。 留学生課程では3年間の教育により日本語能力・基礎学力ともに、可能な限り日本人学生と全く同等のレベルまで引き上げることが目標とされていました。
 1年次には年間800時間以上の日本語と高等学校程度の基礎科目(文科は社会科が中心)、外国語(英仏独)が課され、留学生の日本語能力と基礎学力の養成が目指されました。 2年次には年間320時間以上の日本語と、人文科学系・社会科学系・自然科学系の3系列からなる一般教育科目、体育の履修が、3年次には200時間以上の日本語と専門基礎科目の履修が順次課され、 専門教育に必要な知識と日本語の習得が図られました。また日本語の教科書は、初年度は国際学友会のものを主教材としていましたが、2年次以降は授業内容に合わせ教官作成のものが使用されました。

(表2)留学生課程カリキュラム (『東京外国語大学留学生課程規程』(1960年)より作成)


(画像をクリックすると拡大表示されます。)

留学生課程教授会(1965年4月2日) 一年生授業風景(1967年4月)



・東京外国語大学「日本語学部」設置の議論

 高度経済成長期を背景に、留学生受入れ体制の一層の強化が叫ばれるなか、1965年8月外国人留学生の日本語教育に関する調査研究会議は文部省に対して「日本語教育の改善充実に関する方策について(案)」 を答申します。そこでは、「海外における日本語、日本事情等の学習熱の高まり」に対応するべく、日本語教育に関する調査研究や教材作成を一体的に担う「日本語教育センター」の設置が提言されます。
 学内においても、この動向を受け1966年金田一春彦教授が中心となり「日本語学部設置準備委員会」が設置され、「日本語学部設置計画案」が作成されます。計画案では日本語学部の目的は 「日本語と日本語を基底とする日本文化を研究教授すること」とされ、その設置の趣旨として、海外における日本語・日本事情に関する研究・教育の隆盛に伴い、日本留学を希望する外国人が増加していること、 日本語教師の早急な養成が求められていること、そして日本研究の専攻を希望する留学生と日本語教師を志す日本人学生に対して学士号を取得できる学部(学科)の設置が求められていることなどが挙げられました。 また計画案は1966年度中に概算要求と設置申請を行い、1967年度の発足を予定していました。しかし、この新学部設置案は全学の同意を得られず、見送られます。
なお当時「日本語学部」の名称の候補には「国際学部」もありましたが、「学生の人種が多様であることを意味するにとどまり、実質的な根拠に欠ける」として廃案となりました。


【資料:日本語学部設置準備委員会記録 (1966年2月18日)】
 昭和四十一年二月十八日に開催された委員会で審議された事項は次のとおりである。なお、資料として、日本語学部設置計画案、組織図、学科目編成表が配布された。
1 学部の名称
 日本語学部とする。新学部設置の趣旨と外国語学部との関連を主たる理由とする。
 英文としてFaculty of Japanese Studiesの語を使用する。
 なお、国際学部の名称に対しては、学生の人種が多様であることを意味するにとどまり、実質的な根拠に欠けることが指摘された。
2 日本語学部の目的と趣旨
 日本語学部は、日本語と日本語を基底とする日本文化を研究教授することを目的とする。
 設置の趣旨は次のとおりである。
(1)海外では日本に関する研究が盛んである。とくに外国語としての日本語並びに日本文化の諸領域に亘る専門的な研究が試みられている。この目的の下に、日本留学を希望する外国人は逐年増加の傾向にある。 海外のこの要望に応える為、こゝに日本語学部を設置する。この趣旨を裏付ける為、海外の大学に設けられた日本研究の講座等に関するデーターを蒐集すべきことが指摘された。又、外国人で演劇部門専攻者が増加しているとの報告があった。
(2)日本語教師の養成は急務である。外国人の日本語によせる学習意欲が旺盛であるのにひきかえ、国内及び国外における日本語教師は質的にも量的にも甚しく不足している。 日本語教師を早急に養成して上記の需要に応えるため、こゝに日本語学部を新設する。
(3)上記二つの要請は、日本語と日本語を基底として日本文化の研究教授を目的とする特別の学部における教授により満たすことができる。
 外国人留学生の日本語教育に関する調査研究会議(会長 鳥養利三郎)の文部省調査局長に対する昭和四十年八月三十日付「日本語教育充実に関する方策について」は次の如く報告している。 「日本語、日本事情等日本研究の専攻を希望する留学生に対して、学士号を取得できる学部(学科)を速やかに大学に設置すること」。又優秀な日本語教師を志す日本人学生にも、 同様に学士号を取得させることが求められる。この要望に応えうる学部は目下のところ設置されていないから、こゝに日本語学部を設置するものである。
(4)上記の目的は、言語及び外国事情(地域研究)の研究教授につき実績と伝統とを有する東京外国語大学で行うことにより実現されるから、本大学に日本語学部を設置するものである。



入学オリエンテーション(1964年) 外語祭留学生展示会場(1967年度)
河口湖見学(1965年7月13日-17日) 昭和42年度卒業式・修了式(1967年3月16日)


前ページへ 企画トップへ戻る 次ページへ

バナースペース

東京外国語大学文書館

〒183-8534
東京都府中市朝日町3-11-1

TEL 042-330-5842
FAX