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 東京外国語大学「日本専攻」の歩み

1. 留学生別科の時代

目次
留学生別科の発足
留学生別科の授業



・留学生別科の発足

 1952年、サンフランシスコ平和条約の発効により国際社会に復帰を果たした日本では、政財界・教育界を中心に東南アジア諸国に対する教育・技術援助の一環として留学生受け入れの必要性が叫ばれます。翌年9月、文部省は留学生受け入れの現状を把握するため、国公私立大学などに対して「海外からの留学生受け入れについて(照会)」を行い、留学生を入学させる場合の教育方法、受入の時期や手続きなどを調査しました。そして1954年4月国費外国人留学生制度を発足し、留学生の受入れ体制の整備を始めます。
 同年6月、文部省調査局より本学に対して「国費外国人留学生制度により東南アジア諸国から来朝する留学生の受入れについて(依頼)」があり、本学においてパキスタン、ヴェトナム、カンボジア、セイロン、インドネシア、フィリピンの6か国11名の留学生に対する日本語教育の依頼がありました。これを受けて本学では、9月の開講に向け準備が進められます。
 同年7月、「東京外国語大学留学生別科規程」が制定され、「我が国の大学に入学せんとする諸外国の留学生に対し、日本語を教授し且つ我が国諸般の事情を知らしめることを」目的とする留学生別科が発足します。留学生別科は修業年限1年、学生定員30名と定められ、日本の大学への入学を希望する国費留学生を中心に、大学入学前の予備教育として1年間の日本語教育を施しました。
 留学生別科1954-59年の6年間に、学んだ学生は115名でその出身は世界25か国に及びました(再入学者を含めると124名)。入学資格は、国費外国人留学生を原則としていましたが、私費留学生あるいは他国政府の委託生も受け入れていました。
他方で、留学生別科には学生間の日本語学習意欲や基礎学力、来日時期に著しい開きがあり、留学生の進学先となる各大学からも日本語能力・基礎学力の一層の向上が求められるなど課題が山積していました。そのため、予備教育の充実を図る制度改革が進められます。


・留学生別科の授業

 留学生別科に入学する留学生には、来日前の日本語能力は全く要求されない一方で、1年後には進学先の大学で日本人学生と同様の授業を受けることになっていました。そのため、授業時間は日本語18時間、日本事情2時間、演習8時間の週28時間に及び週28時間に及び、3学期制で夏季・冬季休業は約2週間、春季休業は約3週間と短く、1年で徹底した日本語教育が行われました。
 第1学期は、日本語の日常会話能力の確立を目標に、「最初に二週間、日常会話の主要語句・文型、発音、文字、正字法について入門的教育を与えた後、会話・読本購読の集中的訓練に入」り、教科書は長沼直兄編『Basic Japanese Course』などが用いられました。第二学期は読解力の増進を目標に、読本の外に「種々の文体や表現を含む若干の副読本や抜粋のプリントを併用する一方、当用漢字・文法について、より体系的な集中的学習」がおこなわれました。第三学期には「読み・書き・話し・書きとる能力の平均的綜合・完成」を目指し、「理数関係の学術用語・学術的表現や文体についての練習」を進めました。(佐藤純一「留学生別科の現況」『学報』第17号 1958年10月1日)
 他方で、留学生別科には専任教官の配置はなく、授業は学部教員による兼務と非常勤講師により担われました。日本語教育を専門としない教官が週28時間に及ぶ授業数を兼務することは大きな負担であり、1959年の概算要求において留学生別科専任教授が求められるなど、専任教官の不在は別科の重要課題となっていました。


(表1)留学生別科のカリキュラム(佐藤純一「東京外国語大学における日本語教育の概観」(文部省『外国人に対する日本語教育』1960年)より作成)




    
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