日本学術振興会
21世紀COEプログラム


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史資料収集



日印協会所蔵の戦中期南アジアに関する資料の保存・公開について

報告者 松本脩作
大東文化大学非常勤講師
21世紀COE「史資料ハブ地域文化拠点」アドバイザー



財団法人日印協会は1903年に創設されて以来日本とインド間の関係促進の民間組織としての長い歴史を持っている。その活動の中でも1940年代前半は戦時体制下の激動期であった。この時期に日印協会調査部が行った調査活動の一部が、焼失を免れて残っていることがわかった。協会事務所は空襲による火災に見舞われ大きな被害を受けたといわれる。残された資料は疎開され戦後事務所に無事回収されたものか、またはなんらかの理由で焼失を免れたものであろうと考えられる。それらは印刷物20タイトル、原稿14タイトル分、および書類と外部の印刷物、の3種類に大別することができる。

この資料を日印協会と当プログラムの共同事業として、35ミリ・マイクロフィルムに撮影し、保存をはかるとともに、日印関係史研究のために広く公開することになった。そのための作業が完了し利用が可能になったので、以下に概要を紹介し、関心を持つ方々の利用を歓迎する次第である。

第二次大戦が始まって以来戦時体制下でインド及びその周辺地域についても各種の調査研究活動が展開された。多くの研究機関、団体、個人が動員されたが、日印協会の場合は主として陸軍参謀本部との関係が主であったと思われる。その活動の全体像は今となっては不明であり、残された資料が全体の中でどのくらいの割合を占めるのかについても謎である。しかし今回公開された資料は、これまでどの図書館でも所蔵が確認されていないものであり、日印関係史研究のための一次史料として役立つものと期待される。

大型の段ボール箱2個分ほどの資料はおおよそ次のような内容である。

(1) 印刷物。謄写版またはガリ版印刷のもので20タイトル。地誌がその大部分を占めるが、主要なタイトルは以下の通りである。「印度農業問題」(早川直瀬著)、「ハイデラバッド藩王国」、「印度各州郡名及藩王國名表」、「オリッサ州の産業と市場」、「ビハール州の産業と市場」、「アッサム州の産業と市場」、「聯合州郡別調査」、「印度回教徒ノ政治的位置」、「印度人の日常生活」、「ラッカディヴ諸島」、「印度人姓名考」、「印度ニ於ケル共産黨ト其将来」、「印度民族と種姓制度」、「ベンガルデルタ」、「インド人名録」、「事變前後ノ印度事情」など。

(2)原稿。14タイトル。そのほとんどが財団法人日印協会の名前が入った200字詰め原稿用紙に書き込まれたもので、印刷されるにいたらなかったものと推測される。執筆者が明記されている場合と不明のものがある。「印度貨幣金融制度調査 ヒルトンヤング委員會報告書」、「印度の金融問題」(L. C. ジェイン著)、「セイロン記事」(沼野英一著)、「チベット生活二十年」(D. マクドナルド著)、「印度の回教徒」など。

(2) その他の資料、書類綴りなど。インド国民会議派日本支部が神戸で1930年以後刊行した雑誌「Voice of India」は日本国内ではその存在が確認されていない。ニューヨーク・パブリック・ライブラリーが不完全ながらセットを所蔵していることが知られている。その35ミリマイクロフィルム版は東京外大附属図書館とアジア経済研究所図書館に所蔵されている。今回の残されたものの中に1935年12月号(インド国民会議派創立50周年記念号)の実物が1冊含まれていた。本文の大半は英文・邦文併記、豊富な写真が収録されている。数多い写真は日本におけるインド独立運動に関する貴重な映像資料になると考えられる。

「参考書類綴り 昭和31−34年」は戦後のものであるが、蓮光寺住職望月教学氏「ネタジ・チャンドラボース氏の遺骨に就て」(昭和32年7月25日付)のように珍しい文書も見られる。これは遺骨を預かるにいたった経緯とその後の経過をまとめたものである。

上記の原資料は中性紙の箱に収めて日印協会に保存されている。それを撮影した9本の35ミリフィルムは、ネガティブ版が日印協会に、ポジティブ版が東京外国語大学に保存され公開されている。原本は紙の劣化が相当に進んでいるので、損傷をこれ以上に招かないためできるだけマイクロフィルムを利用するのが望ましい状態にある。日印協会に現在マイクロフィルムリーダーがないので、当大学の機器とフィルムを使用して内容に接近するのが便利であろう(COE事務局保管、電話問合わせ先:042−330−5540)。原本で確認をしたい方は財団法人日印協会(東京都中央区茅場町2−1−14 スズコービル2階 電話:03−5640−7604)に問合わせていただきたい。

詳細なリストは「史資料ハブ 地域文化研究」第8号(9月発行予定)に掲載予定。