日本学術振興会
21世紀COEプログラム


21世紀COEプログラム
(文部科学省)


東京外国語大学
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史資料収集−研究担当班



近年、日本においてもオーラル・アーカイヴズに対する関心が高まり、さまざまな研究や実践がなされつつある。しかしながら、イギリスにおけるブリティッシュ・ライブラリーのナショナル・サウンド・アーカイヴやシンガポールにおけるオーラル・ヒストリー・センターなどを想起すると、人々の声を資料として残し、後に生きる世代に伝えていこうとするシステムの構築については、まだこれからの課題といってよい。
本COEプロジェクトのオーラル・アーカイヴ班は、アジア・アフリカにおけるオーラル資料の存在形態を調査・確認しつつ、資料収集をおこなっていく。同時に研究面では、アジア地域を主要対象とし、さらに必要に応じてその外部の地域も含めた広域的な関係性のなかで、20世紀を生き抜いてきた人々の多様な声を聞き取っていくことを目指している。とりわけ、20世紀の激動の中を生き抜いてきた市井の人々の「語る声」、「語ろうとしない声」をすくいあげていくことを目標とする。
まず具体的にはオーラル・アーカイヴ所蔵機関とその現状についての予備的調査をおこなう。関係地域の諸機関と交流しつつ、口述資料についての情報・資料収集をおこない、それを索引化し公開する。その後、対象地域から受け入れている本学留学生の協力も得ながら、実際の資料収集を積極的に進めていく。また同様の関心をもって活動している国内外の個人やグループ・機関に呼びかけ、ネットワークづくりも試みる。
 大学院学生・若手研究者を含む研究プロジェクトでは、「移動」をキイワードとして調査研究をおこなっていく。20世紀のアジア・アフリカ地域を対象として、「人・モノ・情報」の「移動」を核として、調査・研究を進めていくことにする。戦争や革命(独立)、体制移行の激動を体験した人々、またその変化のなかで交易に携わっていた人々などから聞き取り調査をおこなう予定である。
なお上記の方針を遂行していくためには、オーラル・アーカイヴズ自体に関する多角的検討が不可欠である。例えば、「オーラル・ヒストリー」あるいは「ライフ・ヒストリー」と表現される方法については、民俗学・歴史学・社会学・文化人類学など、さまざまな分野で多様な試み・研究がなされてきている。民俗学の「聞き取り」・「聞き書き」は記述史料を中心とする歴史学を意識しつつ、口述資料の有する豊さや可能性を追求してきたものといえよう。歴史学でも「戦争の記憶」やジェンダーの視点からのアプローチがなされつつある。また社会学でも「オーラル・ヒストリー」「ライフ・ヒストリー」という方法にもとづく研究の蓄積があることはいうまでもない。
オーラル・アーカイヴ班としては、上記のような「オーラル・ヒストリー」の多義性を踏まえたうえで、学内外のさまざまな分野で実際にオーラル資料を用いて研究を行なってきた方々を招いての研究会を継続的に行なっていきたい。オーラル資料収集に際しては、聞き取る側とその対象との関係性が常に問われており、さらに聞き取った後の「声」の保存、その方法、公開方法などについても十分な配慮が必要であり、この点についても研究会活動の成果を活かしていきたい。



1. 初年度はアジア(日本国内を含む)を中心とする諸機関でのオーラル・アーカイヴの状況、つまり所蔵資料の内容やその公開方法などについて調査し、その結果を公開する。その後、漸次各地域の諸機関に出向き、協力・連携しつつ、入手可能な資料の収集・保存そして公開につとめたい。
2. 隔月ごとを目安として、オーラル・アーカイヴズに関心を寄せ、また自らの研究にそれを用いてきた学内外の研究者による報告研究会を開催予定である(すでに第2回研究会を開催)。この研究会は、学生・大学院生さらには学内外の研究者に開かれた研究会とする。このような研究活動と並行して、すでにオーラル・アーカイヴズの在り方について取り組んでいる諸機関、グループそして個人と連携し、そのネットワーク化を目指す。
3. オーラル・アーカイヴズ調査研究プロジェクトは、大学院学生・若手研究者の研究促進を意識しつつ、「移動」というキイワードにもとづき、具体的計画を設定し、適宜現地での聞き取り調査を実施していく。そして順次、その成果を公表・公刊する。目下、計画中のものは以下のものであるが、今後、さらに拡充していく予定である。
3- 1.ネパールのカトマンズ盆地におけるネワールの人々のなかで、ネパール・チベット交易に携わった経験者に対して聞き取り調査を実施する。1959年のチベット動乱以前と、ある程度交易が復活した1980年代以降とについて、複数の人々から経験に基づいた話をうかがい、そのテープを起こし、翻訳・分析をおこなう(担当予定者 Purna R. Shakya、石井)。
3- 2.カンボジア・ベトナムなど東南アジアにおける政治体制の激変のなかで、それを受けとめた人々の受容の在り方・意識などについての聞き取り調査をおこなう。具体的には、カンボジアにおいて同年生まれの一般女性への聞き取りなどを継続して実施する予定である。また、ベトナムでの調査も実施予定である(担当予定者 寺内、今井)。
 
なお、総括班で計画中の「ベンガル史資料オーラル・アーカイヴ・プロジェクト」とも連携・協力していく。