MIRAI推進室・コーディネーターの青井です。

9月27日に「分野外の人にも伝わる、研究の魅力的な伝え方セミナー」をオンラインで開催しました。

「伝え方」が研究者にとって重要なスキルの一つであることは言うまでもありません。
それに加えて、MIRAIプログラムでは、異分野との共同やアカデミア外での活動に積極的に取り組むことをフェローシップ生に期待しています。

「分野外の人にも伝わる」伝え方は、自分の専門分野の外で活躍していくために、欠かせないスキルと言えます。

今回のセミナーには、本学をはじめ、全国の8大学から、博士課程の学生を中心に30名ほどの参加がありました。

講師にお招きしたのは、株式会社A-Co-Laboの早船真広さん。
研究者のキャリア問題の解決に取り組むA-Co-Laboで研究者と企業とを繋ぐお仕事をされる傍ら、科学コミュニケーターとしても活躍されている、まさに「分野外の人たちとの架け橋」のエキスパートとも言える方です。

※A-Co-Laboのnoteで、本セミナーのレポートが公開されています!

この記事では、ロールプレイングにも参加してくれたMIRAI生の小田千敏さんのインタビューをお届けします。

「魅力的な伝え方」とは、相手にチューニングを合わせていくこと

――今回、小田さんは「研究の魅力的な伝え方セミナー」に参加してくれました。どのような動機で参加を決めたのでしょうか?

小田 「魅力的に伝える」というところに惹かれました。研究を魅力的に見せるのって、やっぱり難しいな、って思っていて。MIRAIを応募するときもそうでしたが、これから研究費を獲得したり、アウトリーチなどで社会に自分の研究を説明していったりする中で、「あ、それ面白いですね」って思ってもらわないと、周りからの協力も得られないし、話を聞いてもらえないから...

――実際にやってみて、どうでしたか?

小田 「魅力的な伝え方」って、「私の研究はこうです」という定型文を使い回すのではなくて、自分のやっていることと相手の興味や関心とのあいだに共通点を見つけ出して、そこにチューニングを合わせていくことなのかなって、思いました。オーディエンスに合わせて発表の仕方を変える、っていうんでしょうか...

――どんなタイミングで、チューニングの必要性に気づいたんでしょうか?

小田 最後のアクティビティで、「特定の相手を想定して考えてみるとしたら、どうしますか」となったときに、自分の研究についての表現が最初に考えたときとちょっと変わったので...

――「自分の研究について、とにかくシンプルに一言で書いてみましょう」というところから、セミナーが始まりましたよね。そのときは、具体的な相手をイメージするということはしなかったのでしょうか?

小田 論文のタイトルみたいに、必要な要素を全部入れて、簡潔に示す感じでした。ちなみにそのとき考えたのが「Worldi Englishesの観点からの日本英語の文法的特徴の記述」でした。

――具体的な相手を想定するとなったときに、小田さんは誰を想定しましたか?

小田 高校生です。体験授業のことをちょうど考えていたので、高校生に自分の研究をどう説明するかな、って...

――高校生に伝えるとしたとき、伝え方はどのように変わりましたか?

小田 「日本人の英語の使い方は、イギリス人やアメリカ人の英語の使い方とは違いが見られます。自分の研究は、それを必ずしも間違っているとは決めつけずに、どうしてそういう使い方をするのか、とか、それによってどういう意味の差異が生まれるのか、という問いを研究してます」――。こんな感じになりました。

――だいぶ説明的になりましたね。使っている言葉も柔らかくなった印象があります。

小田 けっこう具体的にしました。興味がないところを抽象的に示しても、「へー」で終わると思って。

他人の視点を通して浮かび上がる研究の「おもしろポイント」

――セミナーを振り返ってみて、小田さんに今まで足りていなかったのは、具体的にどのようなものだったと思いますか?

小田 今回のセミナーでは、「相手が面白いと思うこと」を「おもしろポイント」と呼んでいました。「要素Aと要素Bとを繋げている点に、自分の研究の新規性がある」、みたいなことだったと思うんですけど... 自分の研究の「おもしろポイント」を、これまで自分でわかっていなかったのかな、と思いました。

でも「おもしろポイント」って、そもそも人に言われないとわからなかったのかもしれません。自分の興味関心に従って研究している人は、「自分はこれが面白いと思うんだ」という熱情があると思うんですけど、私の研究の取り組み方はそうじゃないというか... 異分野の人と話をさせてもらう中で、「それ面白いね」っていうフィードバックがあったことで、「あ、これって面白いんだ」って、「おもしろポイント」が見つけられたのかな。「その文法事象、面白いんですよ」と言っても、文法に興味がない人には全然響かないじゃないですか。だから、そういう客観的と言うか、他人からの視点が必要なのかな、と思います。

――「他人からの視点」というのは、分野外の人に伝えるとなったときに、特に重要になってきますよね。

小田 自分でもいまだに「これ、どこが面白いんだろう」って、たまに思ったりして... 新規性はあるけど、面白いのかな、って...

――デモンストレーションを体験してみて、新しく気づいた自分の研究の「おもしろポイント」はありましたか?

小田 「日本英語」を《文化》として切り取ってもらったのが初めてでした。今までの私だったら、「規範から逸脱した英語の使い方に対する許容度を高める」のような言い方をしていました。許容度が高まると、抵抗感がなくなって、みんなが(英語を)使う。みんなが使うことで《文化》ができる、という見方もできるのかな、と思ったんです。「許容度が高まるんですよ」って言っても、「え?」って思われてしまって、うまく伝わらないかもしれないですよね。

――大学院で専門用語を学ぶと、現象をより解像度高く分析したり話したりすることができるようになりますが、逆に専門外の人にとってはわかりにくくなるということもあると思います。小田さんの話を聞いたときに、専門外の人が、その人なりにどう解釈したのか、というのが、伝え方を考える上でのヒントになるんでしょうね。

他人と話すことで増える「研究の切り口」

――「申請書を書く」といったような、具体的な場面で役立つことを期待して、今回のセミナーに参加してくれたと思いますが、「おもしろポイント」を見つけるというのは、それ以上の意義が小田さんにはありそうですね。

小田 「それを研究してどうなるの?」という問いに、最終的には答えられるようになりたいな、って思います。

――「どうなるの?」というのは、「何の役に立つの?」ということでしょうか? この問いの答えを見つけるヒントは、今回のセミナーで見つかりましたか?

小田 相手のニーズにチューニングする中で、自分の研究意義が見えてくることがあると思います。

――相手のニーズの中のどこら辺に自分の研究が位置付けられそうかな、とか、他の研究がどういう立ち位置にあって、それと比較して自分がどういう位置にいればいいのかな、とか、そういったところが見えてきそう、という感じでしょうか。

小田 自分の研究のことをもっと他人と話さないと駄目だなって思いました。1回も話したことがないような人にも、「こんな研究してるんです」って。そこから「それってどういう意味なんですか」というように会話が広がっていけば、相手にチューニングする練習にもなりますし、どこを面白いと思ってもらえるかを自覚することにも繋がるのかな、と思います。自分の研究の切り取り方を複数用意しておくようなこともできるのかなって。

――確かに、切り取り方を複数用意しておくためには、複数の人に話をしてみて、フィードバック返してもらって、というのが必要になりそうですよね。

相手にわかる言葉で伝える

――小田さんは11月に高校生向けの体験授業を控えています。今回のセミナーで学んだスキルは、どんな風に役立てられそうですか?

小田 体験授業に参加する高校生は、外大を受けたいと思っている人たちなので、ある程度英語が得意で、英語とか語学に片足を突っ込んでいきたいと考えているわけですよね。そう考えてみたら、ここまでは踏み込んで話してもいいのかな、とか、このトピックを出しても眠たくないかな、とか、考えられるようになりました。

あとは、「何の研究をしているんですか」と聞かれたとしたら、定型文で「こうです」って答えるんじゃなくて、「こういうことをやってるんですけど、こういうの興味ありますか」というように、相手の経験に繋げていくように対話にしていくことができそうかなって、思いました。例えば、「日本人の英語を研究しているんですけど、発音で苦労したことはないですか」とか。

――自分の研究を説明する定型文をひとつだけ用意しておくのではなくて、相手に合わせていく、ということですね。

小田 相手にわかる言葉で伝えないと、伝わるものも伝わらないって、最近思うんです。だから、キャッチーなところで最初引っかけるのも、一つのやり方なのかな、って。それで興味を持ってもらって、その知識をベースに、次ここ面白い、次ここ面白いって、リードしていかないと。キャッチーなシラバスを見ると、やっぱり「受けたい」と思うんです。逆に、めちゃめちゃ専門的なことが書いてあると、「ちょっと無理そう」ってなっちゃう。最初からいきなり「ここが面白いんです」って言われても、「興味ないわ」で終わってしまうじゃないですか。

――話の入口を広くして、ちょっとずつちょっとずつ、その場の理解度に合わせてチューニングするような... そこら辺のやり方も、今回のセミナーを通じて、少し掴めたようですね。

小田 今回、デモンストレーションをさせてもらって、自分の研究がどう見えているのかの一例は学ぶことができました。でも、もし参加していた学生同士でペアワークができていたら、「自分の研究って、このくらいの解像度で見えているんだろうな」みたいなことをもっと考えられたかもしれません。また、質問する側の経験をするのも必要だろうな、って思いました。

――ぜひMIRAIでペアワークやりましょう。自主勉強会でもいいと思いますし、ゼミのトピックとしてもちょうどよさそうな気がします。このワークは、いろんな人とやることで、また違った「おもしろポイント」も見えてくると思うので... 手当たり次第やるっていうのもいいと思いますし、1対1でじっくりやるのを何回かやってみてもいいと思います。

※小田さんの体験授業の模様については、こちらの記事でご覧になれます。