AA研の歴史的資料「浅井・小川台湾原住民資料」を国家図書館(台湾)へ寄贈:記念式典とシンポジウムを開催
2026.06.22
2026年6月19日(金)、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)において、台湾の先住民族言語に関する歴史的資料「浅井・小川台湾原住民資料」の国家図書館(台湾、略称NCL)への贈呈を記念した式典およびシンポジウムが開催されました。本行事は、1930年代から日本人研究者が心血を注いで収集した貴重な「知」を台湾へと「帰還」させ、日台の学術交流の新たな象徴とするための重要な節目となりました。
今回寄贈された資料は、小川尚義、浅井恵倫、土田滋ら日本人研究者が1930年代から40年代にかけて収集した、台湾諸語(フォルモサ諸語)に関する極めて貴重な一次資料群です。その規模と内容は圧倒的で、約400点のフィールドノート、2万2,000枚を超える単語カード、そして1万4,000点以上の写真や音声レコードを包含しています。特に、17世紀から19世紀の契約文書である「新港文書」の写しや、既に絶滅してしまった言語の記録は、言語学・民族学において世界的に類を見ない重要性を持つものとして知られています。
特筆すべきは、これらの膨大な資料を散逸させることなく、次世代の研究に資する形で体系化したAA研の長年の取り組みです。AA研では2000年度より、元所長の三尾裕子名誉教授(現・慶應義塾大学教授)を代表とする共同研究プロジェクトを立ち上げ、四半世紀近くにわたり分類・整理、および電子化作業を継続してきました。三尾名誉教授を中心とした緻密な分析とデジタルアーカイブ化への尽力により、歴史の闇に埋もれかねなかった貴重な記録が、現代の研究者が利活用可能な学術資産へと再生されました。
寄贈式典では、AA研の野田仁教授が司会を務めるなか、まずAA研の近藤信彰所長が主催者としての開会の辞を述べました。これを受け、受贈側を代表してNCLの翁誌聰代理館長から、資料の受け入れに対する深い謝辞が表されました。また、来賓として台北駐日経済文化代表処の周學佑副代表が登壇し、祝辞とともに日台の長年にわたる学術的絆への期待を語りました。その後、資料目録と感謝状の交換が行われました。
式典の締めくくりとして、「浅井・小川台湾原住民資料」の共同研究プロジェクトの代表として、長年にわたり本資料の整理・分析に中心的な役割を担い、尽力してきた三尾名誉教授から、「The Ogawa–Asai Materials: History and Organization(小川・浅井資料:背景とその整理)」と題し、本資料が辿った歴史的背景と、今日に至るまでの整理作業の歩みについて詳説しました。
休憩を挟んで開催された記念シンポジウム「Japanese Contributions to Taiwan: Perspectives from Formosan Linguistics(台湾への日本の貢献―台湾原住民言語学の視点から)」では、台湾中央研究院の李壬癸(Paul Jen-Kuei Li)博士が基調講演に登壇し、初期の日本人研究者による言語学的な貢献を高く評価しました。続く研究発表では、柴田海氏(台湾中央研究院)、月田尚美氏(愛知県立大学)、落合いずみ氏(旭川市立大学)、今西一太氏(S.I. Co., Ltd.)の4名が登壇しました。最後は再び李壬癸博士による閉会の辞をもって、盛会のうちに幕を閉じました。
日本と台湾の長年の学術交流を経て実現した今回の寄贈は、貴重な資料が本来の故郷である台湾へと帰還し、それを活かした次世代の研究を発展させていくための新たなスタートとなります。