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地域研究から環境問題を考える〜たふえねが聞く 古川高子特任講師、東城文柄准教授インタビュー〜

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地球温暖化は地球規模で問題視されています。今年の夏は、過去126年で最も暑かったという統計を気象庁がまとめました。気候変動の問題から、さまざまな地域で洪水などの自然災害もおこっています。今回のTUFS Todayでは、環境系学生サークル「たふえね」が、本学で環境に関連した授業科目を開講する古川高子特任講師と東城文柄准教授に、環境問題に関心を持つようになったきっかけや、学生にどのようなことを学んでほしいかなどをインタビューしました。

<座談会参加者>

  • 渋谷(しぶや)さん:たふえね代表。国際社会学部3年。現在はアイルランドに留学中。
  • 水 祥大(みず しょうた)さん:たふえね前副代表。国際日本学部4年。7月にオランダ留学より帰国。
  • 石川 珠希(いしかわ たまき)さん:国際日本学部4年
  • 鈴木 真悠子(すずき まゆこ)さん:国際社会学部 中央ヨーロッパ・ポーランド語2年
  • 三浦 瑠依(みうら るい)さん:言語文化学部ドイツ語1年
  • 古川 高子(ふるかわ たかこ)特任講師:たふえね顧問。世界言語社会教育センター所属。専門は、ヨーロッパ近現代史、社会史。
  • 東城 文柄(とうじょう ぶんぺい)准教授:世界言語社会教育センター所属。国際社会学部、ベンガル語専攻担当。専門は、地理情報システム、南アジア地域研究。

研究のきっかけは?

―――先生のご専門について教えてください。

古川:ドイツ語圏の自然保護に関する歴史研究をしています。

東城:バングラデシュの地域研究と環境問題を扱っています。

―――どのようなきっかけで現在の研究をされることになったのでしょうか。まずは古川先生からお願いします。

古川:私は高校1年生まで、避暑地として有名な長野県の軽井沢で育ちました。すぐそこに森や山があり、自然がとても身近な環境でした。春は山菜採りに行き、秋には栗を拾い、というようなことが日常行われる環境です。東京外国語大学のドイツ語科に進学し、ナチズムやファシズムにとても関心を持つようになりました。ドイツの美しい自然がナチズムの中でどのように生かされ使われていったのか、なぜナチのファシストたちが自然を運動に使ったのかというところから、19世紀末に始まる「ワンダーフォーゲル」(青年運動)に興味が湧き、青年たちが自然を「国民」や「国家」にどう結びつけて考えていたのかを知りたくなりました。学部の卒業論文では青年運動をテーマにし、さらに、修士論文ではナチ・ドイツの国土計画や自然保護に取り組みました。このように、子供の頃から常に、自然保護や、自然と人間と社会の関わり方といったテーマに関心があったのです。

―――何かこれといったきっかけがあったというわけではなく、ずっと親しみ、触れ続けてきた結果、自然とつながっていたのですね。東城先生はいかがでしょうか。

東城:学部は、東京農工大学農学部の地域生態システム学科で環境問題などを学びました。同じ頃、世の中では京都議定書が採択された気候変動枠組条約第3回締約国会議(京都会議)が行われるなど、環境問題がブームになったような時代でした。当時、農工大ではまだ学生の海外調査はそれほど多くなかったのですが、旅行で訪れたバングラデシュが刺激的で、何かそこの研究をしてみたいと思い、大学院は、バングラデシュの地域研究を行なっている京都大学のアジア・アフリカ地域研究研究科に進学しました。そこで、フィールドワークのために2年程バングラデシュに滞在し、農業システムの調査をしていました。調査地は、バングラデシュが独立していく中で国立公園化した森林地帯の住民が不法扱いをされている村でした。当時は、森林減少が現在の気候変動問題のように注目を受けていた時代で、国立公園の管理を強化するなどの取り組みにお金が乗りやすい時代でした。普通の農村社会だった地域に森林があることで、コンフリクト(対立)が起きてくるわけです。その辺りを修士論文のテーマにしました。学部時代に地理情報などを扱ったこともあったので、研究をするなら定量的な分析を取り入れたいと思いました。上から降ってきた政策に、下からの論理を通すには定量的なものを示さないと、なかなか強い力には向かっていけない。ビジネスのプレゼンと同じですね。博士課程では、データや衛星画像を使ってこの100年間ぐらいで森林がどのように減ってきたのかという土地被覆変化の研究と、さらにそれらの地域の住民はどうやって移住してきたのかというような地域研究を一緒にしました。

―――現在は、どのようなテーマの研究をされているのでしょうか。

古川:2020年度末から本学、東京医科歯科大学、東京工業大学、一橋大学とで始めた「四大学連合ポストコロナ社会コンソーシアム」に、少しだけ関わるようになって、理系分野の先生と話す機会が増えました。「環境決定論」という、簡単にいうと良い環境に人間をおくと良い人間になるという思想が19世紀の終わり頃から第2次世界大戦頃まで広がっていたのですが、その後廃れます。ところが、現在、分子生物学ではDNA解析手法が発展して、この思想に新たに光が当てられていることをそこで教えてもらいました。「環境決定論」は、ナチ時代に「ドイツ」民族に良い環境を与えるために、アパートからユダヤ教徒を追い出して、代わりにドイツ人の労働者を住まわせようとしたことに結びつく思想です。現代社会で考えると、お金があれば良い遺伝子を残していけるといった危険な思想にもなり得ます。そこで、この思想に関する研究を進め、現在、東京医科歯科大を中心にした大学院の連携講座では、年に1回、皆でそのことを考えるために話題提供をしています。理系と文系の融合は、環境問題の解決に重要です。データ解析能力と人文学的思考力の両方が必要だと感じています。

―――東城先生はいかがでしょうか。

東城:最初はとても小さい地域のことを調査していましたが、他の地域も横断してみたいと思い、森林GIS(地理情報システム)を使いながら各地の事例をつなげた研究を進めています。農村などの貧困地域では、環境問題だけではなく感染症の問題も深刻なので、そのような研究も増えてきました。それと、最近の気候変動の中で一番人類にダメージを与えている洪水の問題。統計データを見てもぐんぐん増えています。私が研究している地域はもともと洪水が多い地域です。自然のサイクルとして洪水が起きる中でその状況に適応した生活ができてきたのですが、20世紀に入ってどんどん生活が変わっていく中で、複合的にいろいろな要素が混ざって災害が起きています。現地の社会と自然がどのように移り変わっていくのかということを最近の研究テーマにしています。

古川:メディアでは、あらゆる地域のものを集めてきて「あっちこっちで災害が起こっていますよ」という報道をして、危機を煽りますよね。地域によって事情は違うはずなのに、これは大変だと政治が動き、政治が動くと資本も動く。

東城:環境問題を見るとき、本学の強みは、やはり言葉だと思いますね。報道も、現地メディアの言葉が直接わかると、ニュアンスも含めてわかってよいと思います。そしてデータからも見てみる。そういうことができると、東京外大生らしい学びができるのではないかと感じています。

古川:批判的思考力とメディアリテラシーはとても重要です。そして、見極めるためには、多角的な視点、それからその言語の生の声を聞く力も必要なので、英語で媒介された言葉ではなく、その地元の言語で話されているものを読むことは大事ですね。

授業の内容について

―――この秋学期に開講予定の授業について教えてください。

古川:「自然と人間の社会史」というのが授業名で、自然を社会から捉える見方を学び、国民国家と自然環境との関係を歴史的に捉えていこうと思っています。授業を通じて、環境意識、現代社会とそこに至る歴史的過程や諸問題への関心を高めてもらえたらと思っています。シラバスには書かなかったのですが、ぜひ皆さんも読んでほしいのが、斎藤幸平著『人新世の「資本論」』です。現在の環境問題の取り組みに対する批判が書かれている本なのですが、授業では、それに対する私の批判的な考えを取り入れたいと思っています。

―――おすすめの本と言われると良い本に思えてしまうのですが。

古川:とても良い本ですが、その本を読んで批判する目も養ってほしいので、授業で取り入れていけたらと思っています。最初に一読すると、これは実現するのは難しいよね、という感想が出てくるはずです。ではどこが難しいのかという点を、人間と自然、そして実際にどういう歴史があったのかといったことからヒントを得てみなさん自身で考えて欲しいですね。

―――東城先生は「環境保全論」という授業題目の授業を開講されていますが、秋学期はどのような内容を扱っていくのでしょうか。

東城:環境保全や地球環境問題について知識を整理しながら、さまざまなデータを使って環境問題をいろんな角度から見ていきます。数字やデータを見て、直接そこから出てきたもので考えることができる分野です。春学期には、環境問題全般の知識を深めてもらう授業を行っていますが、秋学期では統計をやっていきたいと思っています。例えばフィールド調査で取ってきたデータを、どうやって相手を説得させるデータにできるか、ただ表にまとめてパーセンテージを出すのではなく、そこからどのように情報を引き出すことができるのか、というようなことをやっていきたいと思います。

―――授業を通じて、どのようなことを学生に学んでほしいですか。

東城:本学には、文部科学省が推奨する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」にも対応している「TUFSデータサイエンス教育プログラム(たふDS)」というものがあり、統計学やデータサイエンスの授業なども充実しています。それらも学習に取り入れて、地域を見て、データを見て、自分の頭で考えるような研究ができるようになると楽しいですし、一生ものの趣味になると思いますよ。

古川:自分で関心を持って、その関心を持ったことを突き詰め、同時にそれを多面的に広げていくことは、卒業してからもとても大事な力になると思います。一つ一つの細かな知識を身につけて覚えていくことよりも、さまざまな授業を履修して、いろいろな先生や学生の考え方をたくさん聞いてほしいと思います。

座談会参加学生の感想

水:いろんな視点を持つことは本当に大事だと思いましたし、実際に自分の目で見てみるということこそがキーワードだと思いました。

石川:環境問題を議論する際の前提となるお話が聞けました。また、メディアリテラシーや、大学で必要なことについてのお話も聞けました。ありがとうございました。

三浦:特に印象に残ったのは、文系と理系とのアカデミックインパクトについてです。いろいろと考えさせられることがありました。東京外大生としての強みを生かして、環境問題を考える上でどのようなアプローチしていけばいいのかということを理解することができました。今後勉強をがんばっていこうと思います。

鈴木:環境問題を考える上では、理系の視点も必要だし、自分たちが学んでいる言語という強みを生かすことも大事だなと感じました。私は環境問題を政治的なアプローチから勉強したいと思っているのですが、言語を生かすという点では、首都と地方の格差の解消などにも生かせるということも学べました。

渋谷:多面的なものの見方をしたいなと常々思っていますが、意識していても十分ではなかったりします。今回、先生方のお話を伺っていても、そんなことは考えたことなかったというようなことがたくさんありました。いろいろな人の話を聞いて、いろいろなものの見方があることを知るのはとても重要だと思いました。留学でアイルランドに到着してまだ2週間くらいですが、環境問題への意識や熱量は、日本とはだいぶ違うなと感じています。環境問題への高い関心の渦のようなもの自然と巻き込まれそうですが、一度立ち止まってみて、もう少し他の見方ができるのかなど、100%の賛同ではなくて、賛同の度合いを変えて考えてみることも重要なのかなと思いました。

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