チリ革命 (『歴史学事典』)

 

1970年の大統領選で成立したアジェンデ(Salvador Allende Gossens)政権は「社会主義へのチリの道」の名の下に社会主義への合法的、平和的な移行をめざし、企業国有化、農地改革など一連の社会変革政策を推進した。しかし深刻なインフレ・物不足などの経済危機と社会対立の激化を引き起こし、1973年9月の軍事クーデターで政権は崩壊した。

チリ革命は、当初は政府主導の上からの変革だったが、まもなく先住民マプーチェや農民による農場占拠、労働者による工場占拠、都市下層民(ポブラドーレス)による土地占拠などの民衆運動が政府および政党指導部の思惑と統制を越えて進行していった。そのもっとも先鋭な表現は、1972年のコンセプシオン市における人民議会開催と首都サンティアゴなど主要都市の工場地帯における地区労働者連絡組織コルドン・インドストゥリアル(cordon industrial)の結成である。だがこれら工場・農場占拠運動の多くは生産の統制管理のためよりは賃上げなどの経済要求を達成するための手段として推進され、経済危機を加速させた。また生産現場での運動と居住地区での運動との結びつきも弱く、マチスモが強い夫婦間の関係など日常生活のあり方を変えるまでの深度を持たなかった。こうした変化が見られるのはむしろ軍政支配下で都市下層民居住地区(ポブラシオン)において生活防衛のために主婦が作業所、共同ナベなどの小組織を作り出していく過程においてのことである。

チリ革命に関するこれまでの研究はほとんどが政治的分析に偏向しており、米国の介入、政府の政策と与野党間の抗争、人民連合内部の路線対立などが主要なテーマであった。他方、民衆運動に焦点を合わせた研究は非常に少なく、繊維企業労働者の運動に関するウィンの研究、農民運動に関するラブマンの著作、人民権力に関するカンシーノの研究などが目につく程度である。

■関連文献

Boorstein, Edward, Allende's Chile: an Inside View, International Publishers, 1977.

(ブアスタイン著/土生長穂・徳永俊明訳『内側から見たチリ革命』 大月書店,1979年).

Winn, Peter, Weavers of Revolution: the Yarur Workers and the Chile's Road to Socialism, Oxford University Press, 1986.

Loveman, Brian, Struggle in the Countryside: Politics and Rural Labor in Chile, 1919-1973, University of Indiana Press, 1978.

Cancino Troncoso, Hugo, Chile: la problematica del poder popular en el proceso de la via chilena al socialismo, Aarhus University Press, 1988.