伊藤隆志 (20013月卒業)

 

@ Susan Lobo, 1982, A House of My Own: Social Organization in the Squatter Settlements of Lima, Peru, The University of Arizona Press

A Felix M. Padilla, LATINO ETHNIC CONSCIOUSNESS: The Case of Mexican Americans and Puerto Ricans in Chicago

B Geoffrey Fox, HISPANIC NATION: culture, politics, and the constructing of identity, The University of Arizona Press, 1997

 

@ について

ペルーの首都リマの都市化に伴って、周辺に不法居留地区が群生していく歴史をまとめている。主人公は農村(高地)から都市に移住してきた人々である。著者スーザン・ロボは不法居留地区で行った現地調査をもとに彼らの生活、文化、そして経済活動更には精神性、価値観という領域にまで踏み込んで記述している。

フィールドワークが行われたのは1964年から1974年までで、この時代の都市化を分析するに有効な助けとなる書であろう。特に彼女のミクロな視点は私が読んだ三冊の中で群を抜いているものと感じられる。

農村からの(単なる移住者ではない)移民者達が、家族の絆、そして地区の絆を結び、強化し、しばしば新しい価値観を生み出しながら、都市という世界へ入り込んで行ったことを彼女は「積極的適応(positive adaptation)」と結論した。この彼女の概念は、国境を越えた移民、アメリカ大陸を例にとれば、中南米から北米への移民という現象を考える時にも通用し得るだろう。

A について

シカゴにおけるメキシコ系移民とプエルトリコ系移民の歴史、特に政治的な組織運動を中心に扱っている。この言わば二つの共同体が一つのアイデンティティまたは民族意識(ラティーノ)を形成していく過程を分析している。

著者はラティーノという民族意識が生まれた理由を、彼らが共通の言語を持っているという内的な事実と、彼らがアメリカ社会で生きて行く中で被ってきた(教育や労働の中での)不平等な環境という外的要因の二つに求めている。

B について

本書の中でフォックスは、フィールドワーク、具体的には全米のあらゆる分野(新聞、雑誌、ラジオ、そしてスペイン語のテレビ番組といったマスメディア、国と地方の政治、労働組合とその他の共同体組織、芸術など)を代表するヒスパニック・アメリカンの指導者または有識者に対して行ったインタビューと、多数の一次資料または既存の研究書をもとにヒスパニック・ネイションに対して総括的な分析をしている。

アメリカ社会が白人・黒人の二つの世界で成り立っているという現実の中で、その狭間で中南米からの移民達が自己の拠り所として、想像(イメージ、Image)による共同体を作り出していると著者は考え、ベネディクト・アンダーソンの唱えた「想像の共同体」を現代に上手く適応させて論じ、その中でImage makerとしてヒスパニックメディアを捉えたりしている。

彼は、ヒスパニック・ネイションをアメリカというシステムの外にあるもの、または外国からやって来たもの(alien)とする議論を批判している。彼が本書を書くにあたり、その基本に据えたコンセプトが「ヒスパニック・ネイションをアメリカというシステムの中に存在するものとして捉え直そう」ということであり、この点にこそ本書独自の持つ存在意義があると言える。

本書の結論は「ヒスパニック・ネイションとはアメリカという国のシステムの中で生まれたものであり、彼らヒスパニック・アメリカン達は、あくまで、アメリカという国の中に、あるいはそのシステムの中に適応する中で、ヒスパニックなるアイデンティティを作り出してきた」ということである。

私はこの3冊を通して、一番印象に残った概念が1冊目のロボが唱えた「積極的適応」である。これは、1冊目を除いては出てこない概念ではあるが、2冊目はさて置き、最後の本の一つの大きな流れの中に、この「積極的適応」という移民に対する捉え方が見え隠れするのだ。なぜなら、ヒスパニックもしくはラティーノというコミュニティがアメリカ合衆国というシステムの中に存在するという著者の考え方それ自体、移民者達がアメリカ社会に積極的に適応したと捉えていることの証しであるからだ。