2001115

 

2001年度概算要求に関するアンケートへの回答

高橋正明

 

 

 

T.改革のための議論は、現在のカリキュラムの批判的な検討の上になされるべきである

U.前回の改革案は地域・国際講座でのアンケート(2000年2月実施)が土台となった

1.地域・国際講座ではどのようにして改革案づくりを進めたか
2.講座での議論を通じてどのような現状認識に達したのか
3.講座としてどのような改革の方向性を打ち出したのか

V.前回の概算要求における改革案はどのような精神で貫かれていたのか

W.提案

 

来年度の概算要求については地域・国際講座の組織検討委員会から独自に提案があると思いますが、前回の概算要求案の作成と文部省との折衝に関わった者としてその経験を少しでも生かしていただきたく個人的に若干の提案を行いたいと思います。

 

T.改革のための議論は、現在のカリキュラムの批判的な検討の上になされるべきである

改革案の作成にあたっては、何よりもまず外大における現在の教育体制の批判的な検討から出発すべきです。大学教育の現場でわれわれが直面している問題・矛盾は何なのか、現在の教育体制にどのような欠陥があるのか、そうした点を批判的に検討する作業を真剣に行って初めて、地に足をつけた形で改革の展望を描くことができると確信するからです。

その際、何よりも重要なのはカリキュラムについての検討だと思います。というのも、カリキュラムにこそ、われわれの教育方針、教育理念が具体的な形をとって表現されているはずだからです。入学してきた学生に対してわれわれは何を提供するのか、彼らにどのような教育を授け、どのような能力を身につけて卒業していって欲しいと考えているのか。そうした教育方針、教育理念は抽象的な言葉によってではなく、何よりも具体的なカリキュラムの形でもって提示されていなければならないはずです。

ですから、われわれがどのような方向で改革すべきかを議論する際には、まず現在のカリキュラムの批判的な検討から出発すべきです。現行のカリキュラムにはどのような教育方針が込められているのか、そうした教育方針はカリキュラムの中でどれほど明確かつ整合的に提示されているのか、学生たちはそうした意図をどれほど理解して科目を選択しているのか、学生は本学に何を期待しそしてまたその期待がどれほど満たされているのか等々、なによりもまずこれらの点について組織的に検討すべきです。そうした作業なしにいくら立派な改革案をあれこれ考え出しても、それは結局砂上の楼閣以外のなにものでもないでしょう。改革の名の下に、日常の教育活動とは切り離されたところで(築いては崩れる)楼閣づくりに精力を注ぐというのでは、結局のところ最後に残ったのは疲労感、徒労感だけという結果になりかねません。さらにそちらにエネルギーを奪われて教育研究活動が疎かになるのでしたらそれこそ本末転倒です。

上記のような点検作業は本来、教育機関としての大学が自らの当然の課題として日常的に行うべきはずのものです。しかしわが大学においてはどうだったか。この点についてはここで指摘するまでもないでしょう。一言でいえばまったくの無政府状態だったわけです。組織的にカリキュラムを検討し、立案し、遂行する責任主体はどこにも存在していませんでした。その集約的、象徴的な表現があのゴッタ煮のような『履修案内』と『授業科目概要』です。

要するに、本当の意味での自己点検と改革の努力を結びつける、というきわめて当たり前の(しかしなぜか実行されているとは言えない)原則を貫くことです。自己点検であれ、改革であれ、これをもっぱら外圧としてのみ受け止めて対応するのではなく、われわれの日常の研究教育活動の一環として位置づけてやっていくという基本姿勢をまず確立することが必要ではないのか。これがこの数年間の「自己点検」作業と「改革」論議を見ていて痛感することです。

以上を踏まえて、早急に以下の作業に着手することを提案します。

(1) 各講座において、現行のカリキュラムを検討する作業に直ちに入る。その中で、現行体制の下で改善可能な問題と、組織再編を必要とする問題とを腑分けする。[1]

(2) 組織再編を必要とする問題の解決にあたってはどのような解決方法が適切であるのかを検討する。これが改革案策定の基礎作業となる。

(3) 長期的な観点から以上のような作業を恒常的に行うために、各講座においてカリキュラム委員会、組織改革検討委員会を設置する。

 

U.前回の改革案は地域・国際講座でのアンケート(20002月実施)が土台となった

1.地域・国際講座ではどのようにして改革案づくりを進めたか

前回の改革案づくりの土台となったのは、昨年2月に地域・国際講座のメンバーを対象に行ったアンケートです。具体的には以下のような手順を踏みました。

(1) 214日、講座メンバー全員にアンケートへの回答を要請する。

(2) 223日、アンケート結果を集計し(「地域・国際講座所属教官へのアンケート結果」)、これを叩き台に講座会議で議論する。

(3) 講座会議で出された議論を論点別に整理した文書(「地域・国際講座会議(223日開催)で出された主な意見」2000225日)を作成し講座メンバーに配布する。同時に、同文書と第一回アンケート集計結果に関して二回目のアンケートを行う。

(4) 228日、高橋が「組織再編構想案」を学部・大学院改革推進委員会に提出。

(5) 36日、地域・国際講座の組織再編構想検討グループが「組織再編構想案の基本概念」を学部・大学院改革推進委員会に提出。

 

2.講座での議論を通じてどのような現状認識に達したのか

こうしたアンケートと議論を通じて、地域・国際講座では次のような現状認識で一致しました。

(1) 95年改革によって旧語科は7課程3講座に統合再編されたが、課程は半ば形骸化しており、講座も機能していない。実質的に旧語科中心の運営となっている。

(2) カリキュラム編成を貫く原則が不在であり、体系性、有機的連関性、整合性に欠けている。また開講科目が歴史に傾斜しすぎるなどバランスを欠いており、学生の要求に応えきれていない。

(3) 教官自身、自分の担当する授業が講座(コース)全体の中でどのように位置づけられるのかについて明確な認識がない。それゆえにまた学生の科目履修においても十分な指導ができていない。

(4) 学生は、体系的なカリキュラムも有効な履修指導もないまま、何をどう選択したらいいのか分からずに、意識の上で専攻語に縛られながら適当に科目を組み合わせているだけとなっている。

 

3.講座としてどのような改革の方向性を打ち出したのか

以上のような現状認識を踏まえ、講座として「地域」と「分野」を軸とした体系的、有機的なカリキュラムを編成し、学生に対する履修指導態勢を確立すること、また講座主導の運営体制をつくりあげていくことが合意されました。そのために、講座内部に、現行制度の枠内でカリキュラムの改善を図るためのカリキュラム検討WGと、現行制度の枠内では解決不可能な問題を克服する道を探る組織再編構想検討WGが設置され、活動を開始しました(両WGはその後、講座内の常設委員会に改組されます)。

講座の組織再編構想検討グループは改革案の基本原則をまとめ、36日、学部・大学院改革推進委員会に提出します(文書「組織再編構想案の基本概念」200036日)。その主要な内容は以下の通りです(なお、「教官定員基礎単位」のアイディアなど、その後の議論で削ぎ落とされた論点は省略します)。

(1) 入試の一括選抜で合意が得られない場合には、言語・情報課程[学部]と地域文化課程[学部]に分ける。[2]

(2) その場合、言語・情報課程[学部]においては現行通り専攻語別に、地域文化課程[学部]においては一括選抜方式をとる。

(2) 地域文化課程[学部]においては、「地域と分野のマトリックス」に基づいて、体系的で有機的連関をもったカリキュラムを編成する。

(3) カリキュラム編成にあたっては講座単位のカリキュラム委員会、全学規模のカリキュラム委員会がこれにあたる。

この段階で、講座の検討グループの案が複数学部を絶対的な前提としていなかったことに注意してください。そうではなく、存在する問題点を解決するにはどのような方向性が望ましいのかという形で問題を立て、学部を区分するのか否か、また区分する場合には単位を「学部」にするのか「課程」にするのかはあくまでも二義的な問題であると考えていました。

 

V.前回の概算要求における改革案はどのような精神で貫かれていたのか

昨年の概算要求において提示された改革案はしばしば「二学部案」と呼ばれてきました。しかし上で見たように、改革案策定の過程で地域・国際講座のWGが提起した改革案はもともと複数学部を絶対的な前提として構想されたものではありませんでした。また49日の教授会で最終的に承認された改革案についても、その実現のためには学部分割が絶対条件であったわけではなく、その基本理念は一学部複数課程の形でも十分実現できるものでした。改革案が二学部案としてまとめられたのは、一つには複数学部制を打ち出していた野間案、亀山案との調整を図るためであり、また中嶋学長が複数学部制への改編を強く要望していたためです。

文部省との折衝の中で、文部省が複数学部制にきわめて否定的であることが明白となり、昨年の改革案は実現に至りませんでした。[3] しかしこれによって改革案が全面否定されたとは考えません。というのも上述のように、もともと複数学部への分割が改革案の中核ではなかったからです。折衝の中で文部省側は、改革案で出された考え方を、複数学部への分割によってではなく、カリキュラムやコースの再編によって実現できないかと提案しました(文書「概算要求のための折衝に臨んで」200071日)。それは十分に可能であると考えます。

ここで昨年の改革案の中身をもう一度確認しておきたいと思います(文書「学部組織改編に関する提案」2000419日を参照)。

(1) 現在の単一学部を、言語・情報講座と総合文化講座を主体とする言語・文化学部と、地域・国際講座を主体とする地域・国際学部に分ける。

(2) 言語・文化学部は言語・情報課程と総合文化課程に分け、学生は出願時に選択する。地域・国際においては、学生は入学後に地域(学部前期)とコース(学部後期)を選択する。

(3) 入試について、言語・文化学部では専攻語別に行い、地域・国際学部においては一括選抜とする。

(4) 大学院の国際交流コースを廃止し、代わって、高度職業人養成のための「間地域コミュニケーションコース」を学部・大学院一貫コース(5年制)として設ける。

「まず複数学部ありき」と考えるのでなければ、この改革案の実質的な中身は、複数学部に分けなくても十分実現可能なはずです。この案の「実質的な中身」とは、

(1) 現在の7課程を廃止し、言語・情報、総合文化、地域・国際の三区分に再編改組する。

(2) 地域・国際においては一括選抜とする。またコース設定や科目履修においても「専攻語」に基づく区分は行わない。

(3) 高度職業人養成のための「間地域コミュニケーションコース」を設ける。

新たな改革案もこうした原則の上に構想できるはずだと思います。

 

W.提案

以上を踏まえて、以下の提案を行います。なお、いまだ最終的な結論に至らず議論の余地がある問題については論点を提示するだけにとどめました。

1.一学部制とし、「言語・情報」、「総合文化」、「地域・国際」の3課程を設ける(課程名はいずれも仮称)。現行の7課程は廃止する。

現行の課程は、その編成原理を曖昧にしたまま、かつての言語による区分をただ7つに束ねただけのものである。その結果、次のような問題点が生まれている。
(1) 課程の運営に当たっては、現実には個別言語(専攻語)中心の運営となっており、課程会議、課程代表は形骸化している。

(2) 明確な統一的原理に基づいたカリキュラム編成が困難になっている。性格がきわめて曖昧な「地域科目」は矛盾のもっとも顕著な表現である。また欧米の三課程の場合には課程の区分が言語を軸としているため、地域原理が犠牲となっている。言語を軸に「欧米第一課程」と「欧米第二課程」に分けられたため、ヨーロッパにおいてはドイツとフランスが、米州においては北米と中南米が別課程に分断されてしまった。

以上の問題の解決のためには、明確な原理に依拠した複数課程へと区分、再編成する以外にはない。

ただし、カリキュラムの編成にあたっては課程間の区分を絶対化するのではなく、相互の柔軟な連携、乗り入れを確保すべきであろう。

2.いくつの課程に分けるのか、それぞれの課程の性格は何か、についての合意を早急に実現させる必要がある。

「二学部案」においては、学部としては「言語・情報」と「総合文化」を一つにした上で、その内部で二つの課程として分ける、となっていた。しかしこれはあくまでも妥協の産物であったと言える。複数学部ではなく単一学部内の複数課程として再編改組する場合には、現在の「総合文化」を独自の課程として立てることができるだろう。つまり、単一学部の中に、「言語・情報」、「総合・文化」、「地域・国際」の三課程が存在する形となる。

ただし、どのような課程をいくつ立てるかという問題は、外大の基本的な教育理念、教育方針と密接に関わる問題である。それぞれの課程の存在意義がどこにあるのか、またその基本的な教育方針が何であり、どのような教育を学生に授けていくのか、どのような人材として社会に送り出していくのかなどの点について明確で統一的な合意がなければならない。[4]

このように最終的な課程の数と性格づけについては今後の検討次第だが、現行の3コースをそのまま3課程へと移行させるのが一番現実的ではないかと思う。

3.入学者選抜の方法は各課程単位で定めることとする。「言語・情報」と「総合文化」は言語別、「地域・国際」においては一括選抜とする。[5]

4.各課程の学生定員をどうするか

現在の後期課程における学生の進学者数を踏まえて決定する。具体的には1:2:4となろう。

5.教官組織と定員をどうするか。

基本的に少なくとも二つの選択肢がありうるのではないか。この点は事務当局と詰めるべきである。

(1) 学部全体で一つの教官組織とする。これによって定員管理が柔軟に行える。ただし、95年改革からの逆行となる点で問題がある。

(2) 現在の3講座の区分を維持する。この場合には、教官組織と学生組織が重なるという問題、教官の定員管理が難しくなるなどの問題がある。

いずれにせよ、学生定員に見合った形で教官の人事配置も見直していく必要がある。現在のように、後期課程における学生のコース選択に大きな偏りがあるにもかかわらず、3講座の教官定員がほぼ同数であるという不均衡は是正していかなければならない。

6.高度職業人教育(大学院との一貫制)をどうするか
昨年の改革案を踏襲する。すなわち、大学院の国際交流コースを廃止し、代わって、高度職業人養成のための「間地域コミュニケーションコース」を学部・大学院一貫コース(5年制)として設ける。


[1] 「時間がない」という理由づけは成り立たちません。第一に、上で述べたように、改革案策定のためにはそもそもこうした作業が本来不可欠なはずだからです。また第二に、やろうと思えば短期間でもある程度の成果を上げることが可能だからです。不十分な形ではありましたが、昨年度、地域・国際講座ではこの作業を2月後半に10日ほどの期間で行いました(Uの1を参照)。

[2] この時点でWGは、現在の総合文化と地域・国際が合同して地域文化学部[課程]を構成することを想定していました。

[3] 小生は、折衝後、沓掛学部長からの要請に応じて「概算要求のための折衝に臨んで」(200071日)と題する文書を学部長に提出しました。小生の受け止め方はそこに書かれている通りですが、折衝参加者の一部にこれとは異なった認識があるようです。今後の議論を生産的な形で進めるためにも、当日の折衝参加者全員から文部省側の反応をどう受け止めたのかを述べてもらいわれわれの認識を一致させる必要があると思います。

[4] 地域・国際課程については、昨年の改革案で次のように規定されている。「地域・国際学部(仮称)の基本的な理念は、「世界」(グローバリゼーション、世界市場、開発、協力、共生、環境、ジェンダー、紛争、民主主義、人権、コミュニケーション)と「地域」(地域、民族、エスニシティ、文化、宗教、言語)の両者を対象に、これらを有機的に結合したカリキュラムを構築し、学生に提供していくことにある。それゆえに、1.入試選抜は可能な限り広い枠で行い、2.カリキュラムの履修にあたっては地域と地域言語を一度はくぐり抜け、3.特に学部後期において「世界」と「地域」、「社会」と「文化」を柔軟に連関させた体系的カリキュラムを提供することで、個別地域を踏まえながらもこれに限定されることなくグローバルな視野を持った「国際教養人」を養成することをめざす。」

また、カリキュラムの編成原理については次のように述べられている。「言語を除くすべての授業科目を、「地域」(a. 広域・共通、b. 東アジア・東南アジア・オセアニア、c. 南西アジア・アフリカ、d. ヨーロッパ、e. 南北アメリカ)と「領域」(a. 政治・経済、b. 社会・文化、c. 歴史)のマトリックスからなるカリキュラムへと一元化して配置し、学生はこのマトリックスの中で自らのコアを定めた上で、配置された科目を体系的に履修するものとする。なお、諸「地域」、諸「領域」間の区分は固定的なものではなく、あくまでも準拠枠である(縦軸(=地域)と横軸(=領域)からなる座標平面と言ってもよい)。さらに各地域と領域を越えた横断的、縦断的な講義題目を共通科目として設けることで「世界」と「地域」を連関させたカリキュラムを構築していく(地域・国際講座のカリキュラム検討WGは具体例として、「例えば、地域共通講義として、『地域研究総論』に替えて、『ヨーロッパにおけるナショナリズム』とか『東アジアの宗教事情』などの講義題目が考えられるだろうし、また専攻共通科目としては、『現代世界とジェンダー』とか『歴史学研究の基本問題』などの講義題目が考えられるだろう」としている)。すでに地域・国際講座ではこのWGが、現制度の枠の中で本原則を最大限追求したカリキュラムを2001年度からの実施を目指して作成中であり、学部改編後の「地域・国際研究コース」のカリキュラムもその発展、延長上に設計されることになる。」

ただ、課程内にどのような履修コースを設けるかについては完全な合意がない。これまでのところ、(1) 地域別、(2)「地域」と「国際」に区分、(3) 「実践的コース」と「国際教養コース」に区分など複数の選択肢が提起されている。今後、講座内でこの点を集中的に論議する必要がある。

[5] ただしこの点について「地域・国際」の内部で完全な合意が存在しているわけではなく、複数のコース別に募集選抜すべきだとの意見も存在している。この点も講座で早急に詰める必要がある。