ラテンアメリカの女性 ― ボリビア、ラパスにおける家事労働者 ―

Gill, Lesley, Precarious dependencies: gender, class, and domestic service in Bolivia, New York: colombia University Press, 1994.

樋口統子

 

ラテンアメリカの女性がどのような生活をしているのかを知りたいと思い、ワシントンD.C.のAmerican Universityで人類学を教えているLesley Gillの著書Precarious Dependencies : Gender, Class, and Domestic Service in Bolivia (New York: Columbia University Press, 1994. Pp.175)を選んだ。

多数の貧しい先住民と少数の富裕な白人という居住地も人種も職業も異なるラパスの二つの世界を結びつけるものとして家政業をとらえることができると筆者は考えている。1930年から1980年代後半までの家政婦と雇い主の関係について調査することにより、階級とエスニシティの異なる女性がジェンダーをどのようにとらえてきているかを考察することがこの研究の目的である。方法としては裁判記録、新聞記事、インタビューを用いている。また、できるかぎり多くの様々な方法で社会生活に参加したことが研究に役立ったと筆者は述べている(序章)。  

1952年のボリビア革命以前、地方に住む多くの先住民農民が生活の糧を得るためにラパスに移り住んだ。家政業は先住民女性が生きていくための経済的手段であっただけでなく、上流階級の婦人たちが優雅な生活をするためにも重要であった。先住民家政婦は、ジェンダー、エスニック、階級といった要素のすべてにおいて最下位に置かれていた。家政婦との契約を遂行しない雇い主もいた(第一章)。  

革命はボリビア社会を徐々に変化させた。家政業は教育を受けていない地方出身の先住民が就ける唯一の職であったが、革命後の教育・商業機会の拡大とともに、移民女性たちは家政業を一生の仕事だとは捉えないようになった(第二章)。  

革命後の移民増加に伴う家政婦の増加がラパスにおける女性観を変化させた(第三章)。  

1970年代と1980年代の経済危機により、主婦であった女性たち自らが家庭外で働いて給料を得るために家政婦を雇う場合もみられるようになった。(第四章)。

移民女性は職を求めているだけでなく、買い物をしたり人と出会ったり田舎の家を出たいという理由から都市に魅力を感じ、ラパスにやってくる(第五章)。

革命後、専門知識を持たない家政婦が増え、雇い主は移民女性を家政婦として育て上げるために家事だけでなくさまざまな価値観を教え込むのに苦労している(第六章)。  

自らの抱える問題解決のために労働組合や宗教へ加入する家政婦もいる(第七章)。

書評としては、筆者がなぜボリビアを取り上げたかについて触れられていないこと、第七章の宗教についての記述が唐突であること、研究史について触れられていないためこれまでの研究との比較ができないこと、序章において目的として掲げた問いに対する答えが示されていないため全体的にラパスで家政婦として働く移民女性史で終わってしまっていることは残念だが、女性たちに対するインタビューが数多く引用されており、彼女たちがどのように感じているのか、についての具体的イメージを持つことができることは評価できる。  

ボリビア以外の国々の女性たちについてもどのような生活をしているのかを知りたい。