Fishman, Joshua A. and Gary D. Keller eds., Bilingual educaiton for hispanic students in the United States, New York & London: Teachers College, Columbia University, 1982.
小金丸幸
Bilingual Education for Hispanic Students in the United States は、1982年 Josehua A. Fishman と Gary D. Keller の編集により、Teachers College, Colmbia University により、ニューヨークとロンドンで発行されたもので、合衆国でのヒスパニックについて書かれた論文を集めた著書である。
序章で Josehua A. Fishman と Gary D. Keller は、1968年にできた合衆国の初等、中等教育の Title VII（バイリンガル教育第７法）について、現状では、ほとんど効率的、効果的なモデルとはなっておらず、また、多文化、多民族を真に評価するアプローチもなく、他のバイリンガル教育との関連がないと、批判的な意見を述べ、政治的プレッシャーの下でつくられたこの不完全な Title VII を改善していく必要を述べている。著者は、ヒスパニックの子供だけでなく、すべての子供に役立つために、読者が改善していく助けとなる本を目指している。
著者は、この著書の目標として、Title VII におけるヒスパニックのバイリンガル教育者のためだけでなく、さらに３つの目標を掲げている。Title VII 関しヒスパニック以外の人にも役立つものにすること、ヒスパニックのことをより知りたいと思っている人すべてに役立つものとすること、ヒスパニックや Title VII に関係なく、バイリンガル教育全般に興味を持つ人に役立つ本にすることである。この目標を達成するため著者は、Jounal of Multilingual and Multicultural Development や、The Bilingual Review 等の雑誌から、歴史、哲学、心理学、社会学、教育の方法論等、また、教えること、習うこと、課程やゴール、政策、実施、成功、失敗、態度等の観点から論文を集めた、と述べている。このようにして集められた２６の論文は、バイリンガル教育を理解する上で、著者が重要だと考える６つの章で構成されている。
１章 Historical Overview では、TitleⅦによって活発になったバイリンガル教育の歴史的概観が述べられ、新しい現象ではないことを示している。
２章 Defining the Goal of Bilingual Education では、バイリンガル教育の異なる目標を定義している。Title VII は英語を母語としない子供に対する英語教育だが、バイリンガル教育と一概に言ってもいろいろあり、「言語の同化」や「母語の維持」、「文化の共存」など異なる観点からの様々なプログラムなどが行われていることを参照することができる。また、言語学者の取るべきスタンスについて書かれた論文もある。
３章 United States Spanish:Issues in Language Diversity and Language Standarization では、コミュニティにおける実際の言語の多様性等を扱った論文を集めている。実際にスペイン語を話す生徒を対象に行われたスペル調査結果が書かれた論文や、教育者が生徒の母語としてのスペイン語の多様性を認識する必要性が書かれたものなどがある。スペイン語を教える、維持する、といっても、「どのスペイン語か」ということを問題視し、論文が集められている。
４章 Attitudes Toward Spanish and Bilingual Education では、バイリンガル教育に対する人々の態度を示すために、人々がスラングを使っているが認識してないことや、親の子供に対する教育観を調べた論文が集められている。
５章 Research on Bilingual Introduction and Assesment では、バイリンガル教育が成果を生み出しているか調べるテスト方法や、実際の調査により効果を及ぼしているか評価し検討している。
６章 How Young Children Become Bilingual では、子供がどのようなペースで、どのようにバイリンガルになっていくかが書かれている論文が集められている。
以上が本の構成で、収められている論文一つ一つは、バイリンガル教育全体について述べたものではないが、どういう教育がどのような目的で行われているかや、実際に行われている研究、調査が具体的に述べられているものが集められ、バイリンガル教育に興味を持ったものが参照できるようになっている。