Joseph L. Arbena ed., Sport and Society in Latin America : Diffusion, Dependency, and the Rise of Mass Culture, New York: Greenwood Press, 1998.

 

ラテンアメリカのスポーツと社会

西岡志穂  

 

サッカー後進国であるといわれる日本といわゆるサッカーが盛んな地域であるラテンアメリカ。両地域ではサッカーを取り巻く状況はどのように異なるのか。この疑問に対する考察を深めたいと思い、私は「ラテンアメリカのスポーツと社会」というテーマを選んだ。  

今回選んだのは、Sport and Society in Latin America : Diffusion, Dependency, and the Rise of Mass Culture という本である。1984年にClemson Universityでの学会で発表された論文が集められている論文集で、編集者は第一章の著者でもある Joseph L. Arbena だ。1988年にNew YorkGreenwood Press から出版された。構成を以下に挙げる。

 

Acknowledgments

1.Sport and the Study of Latin American Society: An Overview (Joseph L. Arbena)

2.Bicycles, Modernization, and Mexico (William H. Beezley)

3.Forging the Regional Pastime: Baseball and Class in Yucatan (Gilbert M. Joseph)

4.The Case of Soccer in Early Twentieth-Century Lima (Steve Stain)

5.Sport in a Fractured Society: Brazil under Military Rule (Janet Lever)

6.Socrates, Corinthians, and Questions of Democracy and Citizenship (Matthew Shirts)

7.Sport in Revolutionary Societies: Cuba and Nicaragua (Eric A. Wagner)

8. Sport as Dramaturgy for Society: A Concluding Chapter (Robert M. Levine)

Bibliography, Index, About the Contributors

 

1章と8章ではラテンアメリカの近代スポーツを研究していく際の問題点と視点が総括的に述べられており、2章から7章までの各章では具体的な事例について述べられている。 「ラテンアメリカにおけるスポーツと社会との関係は如何なるものなのか。」これが、本書が迫ろうとしている問いである。  

1章と8章を通して、スポーツの学問的研究の乏しさが訴えられているが、そのうえで、1章において本書の目的は次の4つにまとめられている。ラテンアメリカのスポーツ研究 に有用な原典を明らかにすること。ラテンアメリカの近代スポーツについての情報を広げること。ラテンアメリカにおける他の歴史過程をスポーツを用いてどう解釈するかを示すこと。そして、地球規模でスポーツを理解し、より正確な理論を構築するために、ラテンアメリカのスポーツ経験から例を挙げること。以上である。

1章と8章では、スポーツ研究に際して沸き起こる疑問点が多数挙げられているが、これらの疑問点は、スポーツ研究を進める上で有効な視点となるだろう。

次に、この論文集の議論の中で中心的な部分を占めるサッカーについて取り上げられた4章、5章、6章についてみてみたい。  

これらの3章はその議論の切り口が全て異なっている。4章においては、「サッカーは民衆の自己表現手段か、それとも社会の統制手段か」という議論がなされており、5章においてはブラジルにおいてサッカーは国民を統合する役割を果たしているという主張がなされている。そして、6章においては、ブラジルのコリンシャンズというクラブチームで起こった "Corinthian Democracy"という運動を取り上げ、サッカークラブ自体が政治に直接的な影響を与えた過程が述べられている。  

3つの論文の主張はときに相反していると思われるが、敢えてこのように切り口の異なる論文が集められていることにより、読者は多角的な視点を得ることができるだろう。