Rafael Sanchez Mantero, Jose Manuel Macarro, Vera Leandro Alvarez Rey,

La Imagen de Espana en America 1898-1931, Sevilla, 1994.

 

本書の基本的な問いは、「スペインのイメージはどのようなものか」というものである。「現代において、スペイン人がスペインに対して持っているイメージと、スペイン以外の人々が持っているそれは同一ではない。一般的なスペインのイメージはあまりにも簡略化されたものとなっていて、部分的にしか現実を伝えていない固定観念が時と共に作られ、スペインのイメージを歪めている。」こう考えた著者らは、過去の様々な文献から個人や集団の思想史を研究することを通して、それを鏡としてスペインとスペイン人自身を知る手助けにしようとした。彼らの具体的な問いは、「我々スペイン人以外の人々はスペインに対してどのようなイメージを持っているか」「彼らのイメージは我々のそれと同一のものであるか」「そのイメージはいつも同じか、時と共に変化しているか」「国によってスペインのイメージは異なるか」というものである。

この研究は過去の文献を使って展開されており、大きく分けて3種類の文献・資料が選ばれている。それらは研究対象に選んだ各国の小・中学校の歴史教科書、旅行記、新聞や雑誌などの出版物である。これらの資料から、彼らが一番興味深いと考えた1898年から1931年の期間を中心に、スペインのイメージとはどのようなものであったかを、アメリカ合衆国、アルゼンチン、ペルー、キューバ、メキシコ、ベネズエラ、の六カ国の各国別に検討している。

この研究において、扱う時代を1898年から1931年までに限定しているのは、1898年米西戦争によりスペインがキューバとプエルトリコを喪失し、「新大陸」と制度的繋がりを絶った時期以降のアメリカ大陸において、「ヒスパニックアメリカンという民族構成の中にスペインは受け入れられるのか、拒否されるのか」「独立後、新しい共和国でヒスパニックの根がどれほど浸透しているのか」「新大陸それぞれの国がスペインに対して持つイメージはどのようなものか」を確かめることが主な研究の動機だからである。

スペインに対するイメージは良いものから悪いものまで様々であった。ペルーでは、独自の民族性を肯定するための論争が起こらなかったが、スペイン人のものとは明らかに異なるペルーの民族性の探求を指摘した人物がいる。メキシコは、leyenda negraを持ち、状況は他のラテンアメリカ諸国のそれと一致しない。スペイン的なものを拒絶するが、アメリカ合衆国からの自己防衛のためには譲歩することもある。ベネズエラは、独立を正当化することによってスペインの欠点を浮き彫りにしている。それには、leyenda negraが基盤となっている。キューバは、スペインの文化的影響が非常に大きく、独立後スペインと異なる文化の根を探してスペインに抵抗した。アルゼンチンでは、スペイン的な要素の根源的なもの、基本的なものがまだ残っている。それぞれの国内で、アルゼンチンの様に移民が多い場合は、herenciaの一つである言語が一体感を生じさせる役割を果たすことになる。また、それぞれの国で独自のアイデンティティを探す、あるいは明示しようとする何らかの働きが見られたが、メキシコにおいてはそうではなかった。アメリカ合衆国は、アメリカ大陸における利害関係からスペイン的なものを嫌い、従ってラテンアメリカ諸国に対する優越感を抱いている。

しかし、20世紀に入ってスペインのイメージは改善された。その理由として、スペインの情報を世界に伝えることのできるメディアが社会の発展と共に変化し、メディアの重要性がより一層増したことが挙げられる。スペインでの様々な事件に対する報道は批判的なものも多かったが、スペイン的なものが根付いた前述の国々とスペインとは友好関係を保ち続けることができた。自身のイメージを良いものに変化させたという点において、スペインは成功を収めたと言えるだろう。