総合科目 地球規模での人の移動 (移民・移住・ディアスポラ)

レポートに対する講師のコメント

 

松本講師
上田講師
安村講師
石橋講師

 

 

以下、レポートに対する講師のコメントを紹介します。特記したもの以外は、返却されたレポートに書かれていたものです。

 

松本講師 (この松本講師からのコメントはコーディネーター宛に送られてきたものです)

以下の点について考えながら採点してみました。土田先生との間のバランスに関しては不安ですが…。(学生の運、不運ということでしょうか)

・「調べてあるだけ」というレポートは量が多くてもあまり高い評価はしない。

・「考える」意図がみられるレポートを評価する。

・「講義内容をふまえていないレポートは原点の対象ということだが、「講義内容をふまえる」の意味が必ずしも学生に伝わっていないのではないか。たとえば、「ここで語られなかったユダヤ系や日系移民はどうだったのか」という問題提起は「ふまえていない」といえるのかどうか。 ― という疑問から、アイルランドやスウェーデン系移民以外をテーマにしたレポートも同等に扱いました。

・今後のレポート課題に関して気づいたこととして ― 参考文献名を書くことを学生に周知させる必要があるのではないか、と思いました。

 

上田講師

●もっとあなたの意見を聞かせて下さい。

●あなたの考えも書いて下さい!

●もう少し自分の意見を出すようにしてみて下さい。

●もう少し自分の意見を書いて下さい。

●きれいにまとまっていますがもっと自分の考察を書くようにしてみて下さい。

●上記のことについて、あなたの意見や感想は?

●テーマを絞った議論展開を心がけてみて下さい。

 

安村講師

教科書、概説書をさらにようやくしても面白いレポートにはなりません。最低限2冊の概説書を、ヒトの移動という観点から比較し、2人の著者の見解の相違をあぶり出していくことから、あなた独自の問題が見えてくるはずです。(7点)

●自分なりの関心があるのは分かりますが、それを広げ、深めて行くにはやはり関連する本を読み、複数の研究者の論点の相違を明らかにしていく必要があるでしょう。総合科目でそこまでやるのは負担になるでしょうが。(0点)

●私の講義以外の本も参照せず、講義の内容の《誤解》に基づいたレポートになっている。そのような軟弱な地盤の上に人類の歴史についての考察をおこなっても、説得力がない。(0点)

●話が15世紀から現代、黒人や日本へのでかせぎにまで及び、何があなたにとって興味深いテーマなのかが分かりません。それはまた、この科目の全体構成の中で私の担当した3回分、そのうち特に本論である2回分の講義がどいういう位置を占めているのかを、あなたがきちんと理解していないからでしょう。(4点)

●インディオの劣等性を否定するというのがレポートの趣旨なのでしょうが、ヒトの移動が生んだ諸問題という講義の主題とはずれてしまっています。ポトシについての本は読んだようですから、そこで語られている事実とメキシコのケースを比較することもできたはずですが。(7点)

●講義の内容をただ要約したのでは不可、という採点の原則は、初回の講義で高橋正明先生から伝えられているはずですが。要約としては出来はいいのですけど… (0点)

●最近日本でもはやりのクレオール論に注目しているのはいいのですが、レポートの内容そのものは教科書的なものにとどまっています。(6点)

●植民地時代と現代をこれだけの紙数でまとめようとするのが、そもそもムリがあります。それと、本でかかれていることを、あたかも自分の意見であるかのように書いてしまうのも問題です。(6点)

●複数の概説書を読み、自分なりに問いを立てようとした努力は評価できます。ただ、他人の書いたことを利用する際には、自分なりにきちんと理解し、消化した上で、どこまでが他人の意見でどこからが自分の考えなのかを明らかにする必要があります。今回はその作業が足りなかったようです。そのため、たとえば文化という用語の使い方に一貫性が欠けることになってしまってます。(6点)

●メキシコ文化がメインのはずのレポートで、カリブ海や北米の事例にしか事実上触れていないのでは、お話になりません。このやり方では、導入部を入れかえれば10本分のレポートが出来上がってしまいます。(0点)

●講義の内容以上の中身がないのではレポートを作成した意味がありません。(0点)

●網野徹哉氏か斎藤氏の論文を利用されたのだと思います。しかし、彼らの意見をそのまま自分の意見のように書くのはいけないことですし、安村の講義との関連が言及されていないのも問題です。(8点)

●これでは単なる感想文です。レポートとはいえません。自分で調べる作業が不可欠です。(0点)

●講義の内容をくり返し、自分の根拠のない感想を付け加えるだけではレポートとはいえません。(7点)

●講義の内容との関連が全くないのと、他人の書いていることを自分のオリジナルであるかのように書いているのが問題。(7点)

 

石橋講師

総合科目「地球規模での人の移動(移民・移住・ディアスポラ)」

(A) 石 橋の授業では、これまでの科目全体の流れからは外れた事例をとりあげ、人の移動の 多様性を認識してもらおうと意図した。レポートを読むかぎり、この基本的メッセー ジは多くの受講生に伝わったようである。

(B)  授業で提示されたデータについて、誤解・勘違いにもとづいて論を展開する学生が すくならからず見うけられた。講義における教師の説明技術の拙さに起因する可能性 もあるが、レジュメを見直せば正しいデータを得ることが可能な項目も多かった。講 義内容のように、あらかじめ用意されたデータを受容し、理解するという基本技術の 不足している学生は、この点を自覚的に反省し、スキル・アップを目指してほしい。

(C) 学生のレポートのテキストにおいて、以下の情報が明確に分離されておらず、渾然一 体、混沌としているものが比較的多かった。

1.データ

1.1 信頼するにたるもの

1.2 疑わしいもの

2 筆者の主張、意見

2.1 根拠のあるもの

2.2 根拠のないもの

これらの書き分けが可能になるためには、「主」「客」を分離して認識する醒めた目 と、つねに情報の質を吟味する批評眼が必要である。今後のさまざまな授業や、大学 の外における知的実践を通じて、このような「態度」「構え」「生活習慣」を養って ほしい。

(D) 課題のルール・オブ・ザ・ゲームからまったく外れたレポートが、全体数の一割弱程 度見られた。大学において訓練される知的インプット/アウトプットの実践や、その 先に想定される実社会における知的プロフェッショナルの仕事においては、内容の優 劣以前に、まず与えられた課題・依頼内容・業務目的に則していなければ評価の対象 にならない。題意を外したアウトプットに評価者が目を通してくれるのは、受講生が 「修行中」であり、教員は「コーチ」だと認識しているからに他ならない。これが、 もし「プロの仕事」であれば、題意を外した仕事は、読まずに歿にされる。

(E) 石橋の授業は、90分のうち45分は音楽をプレイバックしたのだが、演奏や音楽の内容 について言及するレポートは意外なほど少なかった。多くの学生にとってカリブ海の 音楽は馴染みがなかったのでしょうか?それとも音楽を文章化することは難しいとい うことなのでしょうか。たんなる感想文を提出する課題だったら、もっと音楽につい て話題にする受講生が増えたのでしょうか?

(F) 授業のあとで、次のような質問が寄せられ、その場では答えられませんでした。レポー トでも考察した人が何人かいましたので、私からの当座の説明をいたします。 「これまでの授業で、言語はマイノリティ集団を自他共に認識する指標として極めて 重要だと習った。実際に北米のエスニック状況を観ると、まさにその通りである。し かし、ベネズエラのグアヤナ地方に移民した英語圏の移民は2世代目からスペイン語 化し、エル・カジャオの街も多言語社会から単一言語社会に移行した。なぜこのよう なことがおこったのか」

これに対する答えは、

(1)多くの社会で、マジョリティ集団とマイノリティ集団に境界を意識させる指標と して言語が有意である事例は多い。しかし、それはすべてではない。

(2)マイノリティ集団がマジョリティ集団に「同化」することをのぞむ場合は言語で あれ、宗教であれ、マジョリティ側のそれを選択することもある。あくまで、事例に よってさまざま。北米の民族状況からすべての社会のマイノリティ状況を説明するモ デルは得られない。

(3)ベネズエラ社会の事例にそくして、説明を求めるなら、「混血」の名の下に国民 統合をはかる国家の政策があり、移民社会の側(グアヤナ地方の英仏語話者)でも、 マジョリティ側に溶けこんだほうが得だったということだろう。その背景には、国家 が石油レントを再配分するという20世紀ベネズエラの経済・社会構造がある。 一方、グアヤナ地方の英仏語話者より、後の時代にベネズエラにやってきた移民たち は多様なバイナショナル・バイカルチュラル集団を形成し、クリオージョ層に溶けこ んでいないと考えられている。これの状況にはいくつかの説明が考えられる

(a)たんに、移民世代が若いから。いずれカジャオのカリブ系移民のようにクリオー ジョ層に溶けこむ

(b)石油ブーム(1920年代)移行到来した移民は、数が圧倒的におおく、出身地ごとに まとまりやすかった

(c)石油ブーム終焉後(1980年代)、再配分のパイが小さくなったため、新移民2世、 3世達は「マイノリティ」として境界を維持し、北米的な「アイデンティティの政治 」によって資源を獲得する必要が生じている 以上

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Jun Ishibashi, Ph.D. Assistant Professor Utsunomiya University Faculty of International Studies Department of International Cultural Studies tropico@attglobal.net (home) tropico@cc.utsunomiya-u.ac.jp (office)