活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

東京外国語大学国際日本研究センター 対照日本語部門主催 『外国語と日本語との対照言語学的研究』第26回研究会 (2018年10月6日)

日時:2018年10月6日(土)14:00 ~ 17:50
場所:研究講義棟 419 号室 語学研究所

14:00~15:00
発表:「なぜ「これやあれや」と言わないか:日本語とジンポー語の並列表現」
倉部 慶太氏(東京外国語大学:言語学、チベット・ビルマ諸語)

15:10~16:10
発表:「英語教育学における課題解決型言語活動の必要性―ドリル・練習からタスク型活動へ― 」
髙島 英幸氏(東京外国語大学:言語教育学、英語教育学)

16:20~17:50
講演:「体言とそれに関る現象への総合的なアプローチの提案」
アルカディウシュ ヤブオニスキ氏(アダム・ミツキェヴィチ大学:日本語学、言語学)

 

倉部慶太氏「なぜ「これやあれや」と言わないか : 日本語とジンポー語の並列表現」
 ジンポー語はシナ・チベット語族チベット・ビルマ語派に属し、ミャンマー北部などで用いられている。本発表は、ジンポー語の並列複合語における構成要素の順序がどのような規則により決定されているかについて論じたものである。ここでいう並列複合語とは、「金銀」のような類義的、あるいは「前後」のような反義的な対語を続けて構成される複合語のことである。

 本発表では、まず早田輝洋氏による対語の音韻階層に関する論考(1977年)に基づき日本語の並列複合語の順序決定要因について紹介を行ない、続いて倉部氏のフィールド調査による豊富なデータに基づいてジンポー語の並列複合語の順序に関する詳細な分析結果を提示した。並列される要素の順序は、日本語では各要素の長さが同じ場合には音韻階層による配列で8割強の説明がつく一方で種々の意味的要因も作用するという。それに対しジンポー語では意味的な要因は各要素の配列には関与せず、要素の短長、要素内の母音の狭広が順序の決定に非常に強く作用する。
加えて、英語やその他の言語についても言及し、並列複合語あるいは類似の現象に見られる順序決定の規則には共通性が見られるが、そのうちどの要因が強く働くかは、日本語では意味的要因が強いのに対しジンポー語では音韻的要因が優位であるなど、言語ごとに異なりうると考えられる。
 並列複合語の語構成が個別の言語にとっても通言語的にも非常に興味深いことが示され、また倉部氏の緻密な研究の成果が、ジンポー語研究のみならず類型論にも大いに寄与することが強く感じられる発表であった。(降幡隆志)

高島英幸氏「英語教育学における課題解決型言語活動の必要性―ドリル・練習からタスク型活動へ―」
 次に、本学大学院総合国際学研究院の髙島英幸氏による、「英語教育学における課題解決型言語活動の必要性―ドリル・練習からタスク型活動へ―」というタイトルの発表が行われた。
 髙島氏は、英語教育において理論よりも実践を重視するタスク活動の概略を紹介された。解説の際には、高校での実際の活動の例を映像を用いて紹介したり、授業で配布する材料を実際に配布されたりして、非常に具体的でわかりやすい解説が行われた。
 高校においてドリル・練習で英語の型を生徒の頭の中に形成させること自体は重要なことであるが、多くの高校の現状はその段階で止まっているのが問題であり、結果が最初からわかっている練習に対して、コミュニケーションの相手が変わると結果も変わるタスク活動が極めて重要であることが述べられた。何を学ぶかに加えて何ができるようになるかとどのように学ぶかを重要視している次期学習指導要領は、課題解決型授業の実践と完全に一致していることも指摘された。
 実際に英語の事例として、現在完了形と過去形の相違点の問題、仮定法と直接法の問題、後置修飾語の語順をいかに定着させるかという問題など、具体的な事例を提示しながらのタスク活動の紹介は非常にわかりやすく興味の尽きない議論であった。発表後の質疑応答においても、現役の高校の教員の方からの質問も出たりして、充実した意見交換が行われた。(三宅登之)

アルカディウシュ・ヤブオニスキ氏「体言及びそれに関連する現象への総合的アプローチの提案」

ポーランドのポズナニにあるアダム・ミツキィエヴィチ大学・東洋学講座准教授のアルカディウシュ・ヤブオニスキ氏は「体言及びそれに関連する現象への総合的アプローチの提案」と題する講演を行った。
 一般言語学では、無変化の語幹(意味形態素・詞)と接辞(文法形態素・辞)の付着により総合的な語形が構成される現象を膠着現象と定義する。しかし、通常膠着語に分類される日本語では、語形の概念自体に関する学術的な関心が依然として乏しいとヤブオニスキ氏は指摘する。さらに、特に体言現象に対しては、形態論上の研究方法よりもむしろ意味論上・統語論上の研究方法が適用される例が一般的であるが、形態論研究の観点から考えるならば、総合的語形の日本語に対して孤立語・分析的語形の文法記述が頻繁になされている状況は、不自然なことであると言う。このような現状に対しヤブオニスキ氏は、意味論上・統語論上の現象は形態上の対立により記述するという立場に立ち、体言の語形の整理を通じて日本語体言現象の体系性を明示しよう試みた。その際、「は」「も」「こそ」なども含む全ての連体格辞を対象として「主格」(ゼロ指標)、「題格」(Nは/なら)、「指格」(Nが/こそ/だけ/ばかり...)、「中格」(Nも/さえ/でも...)など15種の「格」と、それらを実現する約40の「指標」(は、なら、が、こそ、だけ、も、さえ、と、や、など...まで、までに、へ、から、より)をリストアップし、体言語形の全体像を見渡すという方法を提案した。このような方法により、日本語教育への応用や他言語の体言現象との比較に適用する可能性が開けるということも示した。
 講演に対して、「が」「を」「に」などと「は」「も」「こそ」などを一括して扱うことのメリットとデメリットなどについて活発な議論が行われた。(成田節)


倉部慶太氏


髙島英幸氏


アルカディウシュ・ヤブオニスキ氏

ポスター (PDFファイル)

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