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引用しないこと

引用しないこと、出典を示さないことは、
学術論文では、厳に慎まねばなりません。

でも、その周縁にある、学会の予稿集、
雑誌記事、一般書籍では、
そこまで厳しく律せられていません。

我が恩師、故千野栄一先生は、
数々の言語学の啓蒙書を書かれました。

要所要所に、貴重な書誌情報を書かれたり
していましたが、どうしても突き止められない
項目が少しく残っています。

それに含まれるのが、異化と自動化という用語です。

原語のチェコ語では、それぞれ、
異化はaktualizace(アクトゥアリザツェ)、
自動化はautomatizace(アウトマティザツェ)
となっています。

異化とは、言語に関していうと、
単語を新たな組み合わせで使ったり、
新たな意味で使ったりすることによって、
聞き手(読み手)に、ある種のショックを
起こさせることによって、
強く意識させるということです。

古くは、コピーライター糸井重里が
西武百貨店の広告で使った「おいしい生活」。

当時は、まだ、「美味しい」が、口に入れるもの
以外に使われることは稀で、それゆえ
異化の効果をもたらし、大ヒットしました。

しかし、20年以上経った今では、
(というかもうかなり以前から)
「美味しい」を、口に入れるもの以外に
使うことは増えていて、「おいしい生活」も
もう新鮮さも、異化の効果もありません。
これが、自動化です。

--

そこでなのですが、この異化と自動化という
用語は、プラハ学派あたりで使われていたというのは
わかっているのですが、誰がどんな論文・著書で
書いたのかを突き止められずにいます。

千野先生ご存命中なら、教えてもらえたことでしょう。
今でも、千野先生直近の方々にお尋ねすれば
わかるかも知れません。

あるいは、チェコの言語学者に尋ねればわかるかも
知れません。

他の様々な事柄に関しては、正確、不正確を問わず
情報を与えてくれるインターネットも、
この事柄に関しては、役に立ちません。

日本語で、「異化、自動化」と調べても、
全然関係ないことがヒットするか、
あるいは、関係ある記事でも、千野先生を
引用しているものがヒットするぐらいです。

チェコ語、aktualizace、automatizaceで
検索しても、何もわかりません。

また、それらを英語化した、actualization、
automatizationも、ダメです。

どなたか、ご存知の方がいらっしゃったら、
こっそりとお教えいただけませんでしょうか?<笑>

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ところで、引用しないこと、出典を示さないことは、
学術論文では、厳に慎まねばならないけれども、
学会の予稿集、雑誌記事、一般書籍では、
そこまで厳しく律せられていないと冒頭に書きました。

とある、○○語学「界」においてなのですが、
学術論文よりも、予稿集、雑誌記事などの
書き物の多い方がいらっしゃって、
やはり、誌面の都合上、引用がとっても少ないのです。

研究者は、それでも、自力である程度
他のつてを辿って、調べることもできますが、
研究者でない、市井の人々
(例えば、その言語の話者)のなかには、
それらの記事に書かれている様々な概念が、
その書き手の発案によるものだと思っている
場合が少なくないと聞き及んでいます。

ちょっと危ないことだなと、危惧しております。

追記:その後の展開を以下にご覧ください:
/blog/ts/p/tanana/2009/07/post_30.html

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2009年7月11日 13:02に投稿されたエントリーのページです。

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