• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

Research Activities研究活動

研究プロジェクト

カラハリ・コエにおける言語と音楽の相互関係:クリックとポリリズム

中川裕(東京外国語大学大学院総合国際学研究院)

【研究課題】カラハリ・コエにおける言語と音楽の相互関係:クリックとポリリズム
【研究費の枠組み】日本学術振興会科学研究費国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(課題番号18KK0006)
【研究期間】2018年度~2022年度
【研究代表者】中川裕(東京外国語大学大学院総合国際学研究院)
【研究分担者】高田明(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科) 松平勇二(兵庫県立大学国際交流機構)
【研究目的】

 本研究は、カラハリ狩猟採集民 (通称ブッシュマン) の「歌」を対象にして、言語学・音楽学・人類学の学際的手法を用いる多層的な精査をすることによって、(i)言語と音楽の相互作用は彼らの歌にどのような構造的特徴を生み出しているか?(ii)彼らの歌の構造的特徴は奏者の側からどのように認識されているか?(iii)彼らの歌の構造的特徴は大人から子供にどう伝承されるか?という3つの問題に解答を与える。そして、未だに謎に包まれた「ブッシュマン音楽」のベールを剥ぐことを目指す。この目的を果たすために、言語学(コイサン言語学)と音楽学(民族音楽学)と人類学(音楽人類学・社会相互行為の人類学)の3学術領域から、フィールドワークを手法とする専門家が参加する国際共同研究プロジェクトを遂行する。

 本研究は、カラハリ狩猟採集民の歌の組織的な資料収集を行い、歌がもつ多次元的で多層的な構造を解明する。歌は歌詞がもつ言語学的次元における多層構造と、旋律と律動がもつ音楽学的次元における多層構造とが、平行的・交差的に絡み合う。この複合的構造を包括的に解明するため、言語学的・音楽学的な分析概念装置を駆使する分析方法論も完成させてゆく。そして、通文化的特異性であるリズム特徴の理解に焦点を当てて、言語と音楽の相互作用がもたらす構造的特徴に関わる次の問題に解答を与える:(i)言語的構造はどんな音楽的リズムの形成に関与するか?(ii)音楽的構造はどんな音韻論的リズム (歌特有の音韻構造) の形成に関与するか?

 この言語学的・音楽学的な目的とともに、次の人類学的な目的も設定する。第1に、調査者自らが奏者に合流して演奏経験をする能動的参与観察により、歌の構造的特徴が音楽奏者の側にどのように認識されているかを探求する。第2に、大人が子供に向けて発する子守言葉の歌的要素とそれに対する子供の反応を社会的相互行為として分析し、歌の構造特徴の無意識の伝承と子供における歌の萌芽を探求する。

 本研究は次の4つの学術的意義をもつ。(i)ブッシュマン音楽がもつ通文化的に珍しい特徴を記述する民族音楽学的な実証的貢献。(ii)リズム的特徴の解明のために、言語がもつ音韻特徴に着目し、言語と音楽が相互作用を活性化する歌を考察するという調査デザインの新規性。(iii)子守言葉の歌的要素に着目し、子供が発達早期に晒される言語・音楽的リズムと歌の萌芽を探る方法論的な独創性。(iv)音楽演奏に調査者が自ら参加することを通して演奏者の視点を探る能動的参与観察法という新しい民族誌的手法の導入。

科研データベース
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18KK0006/