ご卒業おめでとうございます!(2017年度卒業式・学位記授与式)

2018.03.26

2018年3月26日(月)、2017年度卒業式・学位記授与式がアゴラ・グローバル(プロメテウス・ホール)において行われました。午前に行われた第1部では外国語学部16名、言語文化学部347名、午後に行われた第2部では国際社会学部336名、大学院博士前期課程112名、大学院総合国際学研究科・地域文化研究科博士後期課程の10名が卒業・修了し、学位を授与されました。
立石博高学長式辞


平成29年度卒業式 立石博高学長式辞

この4月1日に、社会人として広く世界に向けて巣立っていく外国語学部卒業生の皆さん、同じく言語文化学部、国際社会学部卒業生の皆さん、また、さらなる学究の意欲に燃え、大学院進学の道を選ばれた皆さん、そして、大学院博士前期課程、後期課程のそれぞれで学位を取得され、新たな歩みを始めようとする皆さん、皆さんの新しい門出を祝い、東京外国語大学長として、餞の言葉を述べさせていただきます。

 今日、外国語学部を卒業される皆さん、そして言語文化学部あるいは国際社会学部を卒業される皆さんのなかには、海外留学などのために留年されたかたもおられると思いますが、4年で卒業されるかたは、2014年4月に入学されています。その入学式で、私が皆さんにお話ししたことを覚えていらっしゃるでしょうか。

 この入学式式辞のなかで私は、本学の英語名称が《Tokyo University of Foreign Studies》であることを心にとめておいていただきたいとお願いしました。そして、21世紀グローバル社会の諸課題に応えるために「外国研究Foreign Studies」にいそしんで、人文学、社会科学、自然科学、応用科学の諸学問領域を横断する「総合知global knowledge」を身につけていただきたいと力説しました。というのも、グローバル社会ではローカル(地域社会)とグローバル(地球社会)の課題が密接に絡みあっており、総合的かつ地球俯瞰的な視野をもつことが不可欠であるからです。

皆さんが、4年間あるいは5年間の本学での学びを通して、卓越した言語運用能力とコミュニケーション力を身につけられ、現代社会のさまざまに錯綜する複雑な仕組みを分析し、物事を的確に判断する力をもっていると自負されることを願ってやみません。今日から社会に巣立つ皆さんが、「総合知global knowledge」を駆使されて、地球社会のさまざまな課題に果敢に取り組む、地球市民Global Citizenとして活躍されることを心より期待します。

ところで、いま日本社会では、人口減少や高齢化が進行するなかで、産業技術イノベーションの必要が声だかに唱えられています。しかし、イノベーションが目的化されてしまい、肝心の、私たちや私たちの子供たち、孫たちを含む、人びとの暮らしや生活をどのようなものにしていくのかという根本的な課題が置き去りにされるきらいがあるように思えてなりません。このことは、今の日本社会の「人文学Humanities」軽視の風潮とつながっているのではないでしょうか。

本学は、時勢に翻弄されて、第二次大戦中の1944年4月には、語学力を即実践に活かすという時代的要請のなかで、修業年限3年の東京外事専門学校へと改変されるに至りました。さらに、多くの学生を学徒出陣として戦場に送り出しました。その一人、瀬田万之助さんは、死の直前に次の言葉を遺しています。「あたら青春を、われわれはなぜこのようなみじめな思いをして暮らさなければならないのでしょうか。若い有為の人びとが次々と戦死していくことはたまらないことです。」

このことは悔やんでも悔やみきれない事実であります。

そして今、私たちが忘れてはならないのは、1930年代から悪化していった時勢に抗いながら多くの「人文学Humanities」の徒を本学が養成していたという事実です。具体的な例をひとりあげましょう。皆さんもご存じの、多くの教科書に掲載されている童話「ごんぎつね」の作者である新美南吉です。彼は、1932年から1936年の4年間東京外国語学校英語部文科に在籍して、いまだなお人文学の息づいていた本学で学生生活を送り、さまざまな感性豊かな作品を書き上げたのでした。そのなかには、1935年5月に著された、私の好きな「でんでんむしの 悲しみ」という幼児童話もあります(*自筆原稿はカタカナ)。「悲しみは だれでも もって いるのだ。 私ばかりでは ないのだ。 私は 私の悲しみを こらえて いかなきゃ ならない。」

しかし、忍び寄る戦争は、彼の作品にも影を落とします。そのひとつが同じ頃に書かれた「ひろった ラッパ」です(*自筆原稿はカタカナ)。

まずしい男が、「自分も戦争のある所へ行って、りっぱなてがらをたて大将となろう。」と思い、各地を訪ね歩きます。そして、あるとき、むちゃくちゃに踏みにじられたお花畑のなかでラッパを見つけます。彼は勇ましく「とて とて とて と/ それ それ いそげ/ せんそうへ」とラッパを吹いてまわります。しかし、あちこちの村に残っている人びとには、戦争のために畑を荒らされ、食べるものもなくなっていたのです。そこでこの男は、元気を出して畑で働き始め、「とて とて とて と/たねをば まけよ/ むぎのたね」とラッパを吹くことになったのです。やがて、「まいた種から芽が出て、野原いちめんに麦の実る時がやってきたのです。」

もちろん、現実の国際政治は複雑です。しかし、私たちひとりひとりが、平和を希求するという人文学Humanitiesの精神を堅持する姿勢を持ち続けることこそが、「自国ファースト」の風潮が強まる現代の状況の中で求められているのではないでしょうか。

 社会に巣立つ皆さんには、本学で身につけたインターカルチュラルな姿勢を活かして活躍していただきたいと思います。「自分の国」「自分の文化」を大切にするとともに、「他者の国」「他者の文化」をも同時に大切にしていただきたいのです。どうか、皆さんが、国民Nationの壁、文化Cultureの壁を乗り越えて飛翔し、地球市民Global Citizenとして活躍されますよう願っています。

さて、最後にひとつお願いがあります。皆さんが学生生活を過ごした母校である東京外国語大学との「絆(きずな)」をこれからも大切にしていただきたいということです。国立大学をとりまく環境は、国全体の財政状況の悪化のなかで、ますます厳しさを増しています。本学は日本のグローバル化を牽引する大学として、真のグローバル人材、すなわち「多言語グローバル人材」の養成事業に取り組んでいます。皆さんには、「東京外国語大学と連携し、外語大ブランドをともに高めていく」同窓会組織である東京外語会の活動に加わっていただき、2023年を目途とする「建学150周年基金」事業に協力し、さまざまな支援をしていただきたいと思います。

2023年の東京外国語大学を想像してみてください。1873年(明治6年)の建学の年から150年目の本学の姿です。OB・OGの皆さんからの篤い財政的支援と人的支援に支えられて、本学は「地球社会化時代における教育研究の拠点大学」、つまりグローバル・ユニバーシティーとなり、このキャンパスで日本人学生と世界各地からの留学生が、「文化の壁を乗り越えて」ともに学び合い、切磋琢磨していることでしょう。私たち教職員もがんばりますので、卒業される皆さんも母校を末永く支援してくださいますよう心より願っています。

以上、皆さんのご活躍を祈念して、学長の式辞とさせていただきます。

2018年3月26日  国立大学法人 東京外国語大学長 立石博高

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