私は世界言語社会専攻博士後期課程のシュ・ショウショウと申します。中国の河南省出身です。

 4 年前に来日して研究生として本学で研究を開始し、その後は博士前期課程で比較・国際教育学ゼミ(岡田昭人教員)に在籍して教育学や異文化理解などの専門知識を学びました。

 修士論文は「中国の小学校における食育の現状と課題 ―日本の事例を参考にして―」というテーマで執筆しましたが、修士論文のテーマをさらに深く研究したいという希望から、本学の世界言語社会専攻博士後期課程に進学しました。MIRAIの1期生として採用され、今年は2年目になります。

日本語から日本に出会い

 私は中国河南省の農村で生まれ育ちました。小学校時代は当地の方言で生活し、中国語の標準語は聞き取れたものの、あまりしゃべれませんでした。中学校から中国語の標準語を話せるようになり、必修科目である英語を初めて触れました。

 英語の先生は隣近所の人であったこと、また英語と中国語の文法が近いこともあり、その時から英語に興味を持つようになり、高校時代まで、普段のテストや高考(日本のセンター試験に相当する)でも、英語は好成績を維持できましたが、英語以外の科目は普通であり、特に理系の科目は非常に苦手でした。そのため、大学に進学したら、理系の専攻ではなく、文系の専攻を選択しようと考えました。

 大学と専攻を決めた際に、英語は得意科目であったため、ほかの外国語を専攻としたら良いかと思い、また、志望校の外国語専攻は英語と日本語しかなかったため、大学の専攻は日本語学科を決めました。

 しかし、この決断には家族や友達から反対の声もあったので、私は様々な情報を調べ、何とか反対された方々を説得しました。日本語をゼロから勉強し、最初は本当に不安でしたが、二人の日本人の先生を代表に、先生方々からは丁寧にご指導いただき、たくさんの人たちに支えられて、日本語能力試験N1に合格することができました。また、大学での4年間のうちに、総合日本語や日本文学、日本語視聴説などの授業を履修し、様々な課外活動にも参加したことから、日本文化への理解と関心を深めました。

 このようなことから、大学3年生から日本に留学しようと思い、申請や手続きなどを行い、2018年春学期の研究生として留学を実現できました。

研究テーマのきっかけ

 周知のとおり、中国は「食文化」の伝統と歴史がある一方で、近年ではフードロスや飲食をめぐる小中学生の健康問題、小中学校における食品安全問題などが深刻化しています。私は幼少期から実生活の中でこうした食に関する問題に常に関心をもっており、高校時代から「食育」という概念を明確とは言えませんが、意識し始めました。

 農村部の中学校から都市部の高校に進学したことで、学習環境や生活環境が大きく変化しましたが、激しい受験戦争の中、身の回りの事件から栄養を考慮した食生活の重要性が認識されました。また、大学食堂のフードロスや大学生の朝食欠食などの問題も実際に見られました。こういったことは常に記憶に残っています。

 日本に留学してから日常生活はさらに変化しましたが、その中で新しい食生活を経験し、ゼミで「食育」という言葉を初めて聞き、「食育」の定義や日本の食育政策、取り組みなどをネットで調べ、深く興味を持つようになりました。自分自身の経験を振り返りながら、中国における食育はどのような状況にあるのか、どのような課題があるのかなどの問いがありました。そこで、日本の食育経験を参考にし、中国の義務教育における食育の現状と課題を研究テーマに設定しました。

食育研究の試み

 前述のとおり、近年中国だけでなく日本や先進諸国では、朝食欠食、過食・飽食による肥満問題、食糧不足など、特に子どもの食と健康をめぐる諸問題が深刻化しています。こうした諸問題に関しては国際機関である世界食糧計画(WFP)やユネスコをはじめ、各国のNGO や NPO が持続可能な発展(SDGs)の到達目標に掲げ、率先してその解決に取り組んでいます。また、研究テーマである食育は「教育学」分野だけではなく、「栄養学」、「医学」・「環境学」など複合的分野からの分析が必要となります。

 修士論文は「中国の小学校における食育の現状と課題 ―日本の事例を参考にして―」というテーマで執筆しましたが、博士後期では、中国の義務教育における食育の必要性及び実施状況に焦点を当てて、比較・国際教育学の方法論を軸に、学際的な視点からの分析を試み、今後の中国国内外の食育における基礎研究に貢献することを基本的な目標とします。また、中国の義務教育段階での食育の全面的な実施・推進に積極的な役割を果たすことでケーススタディとし、ひいては世界の青少年の食生活に関わる諸問題の改善策を提示したいと考えています。

終わりに

 現在の中国では、食に関する法律や政策などはまだ未整備であり、現時点までに、中国の限られた地域、例えば上海、天津などの地域の小中学校では飲食についての教育が始まっているものの、義務教育における食育も十分に浸透していない状況です。このような現状を踏まえ、今まで培った知識や研究力、分析力などを活用し、社会に少しでも貢献できることを願っています。

 現在の学業や研究に際して、私は様々な問題に直面しています。まず、言語の問題があります。日本語が母語でない、特に博士論文執筆を求められる留学生にとっては、学術的な日本語の習得は必須です。この点に関してはMIRAIという場を通じて自身の日本語能力の向上を図りつつ、学術的な日本語をチェック・推敲できる能力が得られるように努力していきます。

 また、コロナの影響により、現地調査が困難となっています。MIRAI ゼミやメンター制度を通じて、専門領域を超えた学問交流、新しい研究視座の獲得などを志向しながら、これからの研究に適用できる方法論や分析手法を会得し、研究を進めて参ります。

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写真:修士課程卒業式