日本語教育と日本語研究のはざまで

東京外国語大学 大学院総合国際学研究科 国際日本専攻 博士後期課程 石橋裕子

私は日本語教師として働きながら、30代後半で東京外国語大学大学院総合国際学研究科に入りました。日本語教師になったのは、ボランティアの日本語教室がきっかけでした。そこで外国の方に日本語を教えたときに、全くと言っていいほどうまく教えられなかった経験から、「日本語」を勉強し始め、日本語教師になりました。現在は、日本語学を専攻し、「~たら」「~れば」などの日本語の条件文について研究しています。

普段私たちは、無意識に日本語を使っていますが、日本語を外国人(日本語学習者)から見てみると、日本人(日本語母語話者)からは見えなかったものが見えてくることがあります。学習者からは、「『明日旅行に行きますか』と『明日旅行に行くんですか』の違いは何か」「どうして『私は日本語が話しにくいです』と言えないのか」と言った疑問のように、普段日本語を無意識に使っている私たちには思いも寄らない疑問がぶつけられます。こういった、日本語を学ぶ人たちの視点から出発し、研究を経て日本語の新たな姿を発見し、その成果を再び日本語教育の現場に還元できるのが日本語学・日本語教育学の面白いところだと思っています。

しかし、日本語については、実は今も議論が続いているテーマがたくさんあります。参考書を漁っても、自分で考えてみても、なかなかはっきりとした答えが見つからず、学生の質問に「これとこれは大体同じです」とか、「これは客観的で、これは主観的な言い方です」とあいまいな説明をするしかない悔しさを感じている先生も少なくないはずです。

そうはいっても、日本語教師は多忙です。教える項目について調べ、授業を組み立て、教材を作成し、授業が終われば宿題チェックとテストの採点に追われる日々の中で、毎月、毎年新しく積み上げられていく研究をチェックして、授業に取り入れていく暇はなかなかないのが現状です。

私は数年前から、そういった現場の日本語教師の方々が、どうしたら日本語学の研究に簡単にアクセスでき、新しい研究成果を授業に取り入れられるかを考えています。現在は日本語教育サービスを提供する会社で、文献や用例を調べて先生たちをサポートする仕事をしています。将来的には、研究で培った知識を活かしつつ、研究者や大学の教員という立場にこだわらずに必要なところに教育の機会と知識を届けられる人材になるべく、研究者と社会をつなぐプラットフォームとしてのMIRAIから、その挑戦をしていきたいと思います。

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モンゴルで馬に乗る筆者。日本語教師の仕事で3年間住んでいました。

#プロフィール 千葉県生まれで、山と田んぼに囲まれて育つ。 小さいころから好奇心が強く、親からはよく「知りたがり」と言われていた。 高校時代の1年間のアメリカ留学を機に日本の外に興味を持つと同時に、外から見た日本に関心を持ち、日本の文化である着物を集め始める。(ときどき自分でも着る。)

#関心事  好奇心は日本文化や日本語だけに向けられているわけではなく、世界、とくにアジアの言語や文化にも及ぶ。モンゴルにいたときに知ったカザフ族の伝統的な刺繍やモンゴル民謡などにも魅力を感じている。モンゴル語と日本語の類似性や相違点にも関心を持っている。その他、持続可能な暮らしや浄瑠璃などの語り物、デザインなど、様々なものに幅広く好奇心を寄せている。

#性格・性質 一度気になると調べなければいられない性質で、何かを調べている最中に更に他の気になることが出てきてしまい、作業がなかなか進まない。人とのコミュニケーションが好きで、情報交換や議論を重ねながら新たな発見をすることや、何かを作ることに楽しさと喜びを感じる。逆に、黙って1人でコツコツ調べたり、作ったりすることは苦手。

好きなこと・もの:カフェでまったり、考えること、おしゃべり、犬をモフモフ、夜の散歩、推敲、民族衣装、ココナッツ、チョコレート、柴犬

苦手なこと・もの:人込み、列に並んで待つこと、湿気、低気圧、大音量、走ること、アルコール、カフェイン