私は本学博士後期課程でフランス語の話し言葉について研究しています。
同じ言語でも、書き言葉と話し言葉では、それぞれに違いがあり、特徴があります。特に、話し言葉では、話し手の相槌や言い直しなどの表現を分析の対象とすることができるため、話し手の思考のプロセスが垣間見えることがあります。人間が話をする際には、事前に書き上げた原稿を読み上げる場合を除いて、話しながら内容を考え、適宜修正を加えて、話を進めていきます。書く場合には、推敲することができますが、話す場合には話してしまったら消すことはできないので、話し言葉を分析してみると、発話者が何を起点に話を修正したのか、何を目的に話を変えたのか等の事情について、言葉に基づいて分析、考察することができます。

また、話し言葉でも話される場面や世代に応じて、その特徴に違いが生じます。日本語を例にとってみると、場を繋ぐ言葉には、「あのー」や「えー」、「なんか」といった表現がありますが、「なんか」を使うのは比較的に若い世代であり、「あのー」を使うのは年配の世代であることが最近の研究でも明らかにされています(原田、2021)。こういった話し言葉の使われ方の違い・変遷を分析してみると、言語の実態は、文法書に記されているものよりずっと複雑であることが分かります。

私自身、フランス語を最初に勉強した際に、文法書や授業で言われていることを理解しても、実際の言語運用の際には、それでは説明のつかない事象に多々遭遇しました。言語研究を始めてからは、学習者が分からないことの背景には、フランス語の知識の習得の問題のみならず、母語の影響、社会・文化的な違いなど様々な要因が関係しているのだと考えるようになりました。可能ならば、当時のモヤモヤしていた自分に教えてあげたいです。

研究に際しては、話し言葉コーパスを利用しています。フランス語の話し言葉コーパスには、Corpus d'Étude pour le Français Contemporain (CEFC) や Enquêtes Sociolinguistiques à Orléan (ESLO) などインターネット上に無料で公開されているものがあります。コーパスでは言葉の用いられ方が、多くのデータによって示されます。私が博士前期課程に在籍していた時は、なかなかフランスに渡ることができませんでしたが、世界中からアクセスできるコーパスのお陰で、日頃からフランス人の会話を聞き、分析をすることができました。

こういった話し言葉の資料を有効に活用できるよう、現在、コーパス分析の技術を上げるため、統計学やプログラミングの勉強を進めています。どちらかと言えば苦手な分野ですが、その分、ちょっとしたプログラムでも上手くいくととても嬉しく、達成感を感じます。苦手なことに取り組みながら、研究に対する粘り強さを養っていきたいです。

参考文献・コーパス

原田朋子 (2021) 「日本語の発話における談話標識の一考察 : テキストマイニング手法と目視による分析を通して」『同志社大学日本語・日本文化研究』18, 1-27.

Corpus d'Étude pour le Français Contemporain (CEFC) <https://repository.ortolang.fr/api/content/cefc-orfeo/11/documentation/site-orfeo/home/index.html>(最終アクセス 2022/07/30)

Enquêtes Sociolinguistiques à Orléan (ESLO)< http://eslo.huma-num.fr/>(最終アクセス 2022/07/30)

(K)