今回のイベントでは、映画における女優・女性表象の再考を目的として、日本未公開作品を含む3本のフランス映画を上映しました。この企画のために選んだ映画には、発狂したり、黙り込んだり、殺人を犯したり、誘拐を企てたりと、「狂人」「犯罪者」「怪物」と形容されるであろう女性たちが出てきます。しかし、本当にそうでしょうか。彼女たちは狂人なのか。彼女たちの常軌を逸した行動は面白おかしいものなのか。彼女たちが過ちを犯すのは、本人のせいなのか。そんなことを考える機会になればと思い、イベントを企画しました。

字幕翻訳はすべて竹内が行い、なんとオリジナルの字幕付きで上映しました! 各日上映後には専門家をお招きし、企画の意図に沿ったトークをしていただきました。

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1日目は、日本未公開作であるクロード・ゴレッタ監督『レースを編む女』を上映しました。解説トークを担当してくださった映画批評家の坂本安美さん(東京日仏学院映画プログラム主任)には、「日本語字幕付きで上映されるのは事件」とまで称していただきました。

坂本さんは、多様なインタビューを引用しながら、『レースを編む女』の主演を務めたイザベル・ユペールが、いかにして世界的な女優になったのかを語ってくださいました。劇中の彼女の細かな所作に着目した作品分析にはプロの批評家の技を実感し、主宰の私が思わず感動してしまいました。さらに、坂本さんがご厚意で来場者からの質疑応答・対話の時間も設けて下さり、大変充実した日になりました。

2日目には、クロード・シャブロル監督『ヴィオレット・ノジエール』とジャン・シャポー監督『盗むひと』を上映しました。この日の目玉は、私の研究する作家マルグリット・デュラスがダイアログを書いた『盗むひと』です。日本初公開のこの作品を見るために、朝早くから並んでくださった方もいらっしゃいました。

上映後には、ドゥルーズ研究者の堀千晶さん(早稲田大学ほか非常勤講師)による講演が行われ、作品背景にある「343人のマニュフェスト」について解説していただきました。この宣言が出た当時、フランスでは妊娠中絶が違法でした。そうした状況に異議を申し立てるために、中絶経験の告白をする署名運動が立ち上がったのです。署名には、マルグリット・デュラスやロミー・シュナイダー(主演女優)といった、本作に携わったメンバーも参加しています。堀さんはさらにそこから敷衍するように、当時の時代背景や社会問題、作品構造などを語ってくださいました。来場者の方々からも、作品のコンテクストがよく分かったと好評でした。

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各回120名近くの来場者を迎えることができ、フランス映画を通じて、ジェンダー問題や現代社会における様々な不均衡について考える良い機会を設けられたのではないかと、大変嬉しく思います。上映後には「よかった」「とても勉強になった」「また次もやってほしい」とお声がけ頂き、大変励みになりました。

他方で、実は外大生が(知り合いを除くと)1名しか来場しませんでした......。大学の広報課にも協力していただき、公式ツイッターなどでも情報を拡散しました。学内・図書館にもポスターを貼らせていただきました。しかし、ほとんどの学生は無関心だったようです。正直なところ、ジェンダーや政治といったアクチュアルな問題に、外大生が微塵も興味をもっていないことが悔しくて仕方ありません。

しかし、諦めるつもりはありません。若き学部生たちにも興味を抱いてもらえるよう、今後はさらなる方法を考えて、イベントを行っていきたいと思います。

今回のイベントを実施するにあたり協力して下さった、総合文化研究所、MIRAIプロジェクト、本学職員の皆様と、技術面で助けていただいた稲垣晴夏さんには感謝が尽きません。また、トークを引き受けて下さった坂本さん、掘さん、そして会場運営をして下さったアテネ・フランセ文化センターの皆様にも感謝を述べさせていただきます。

竹内航汰(東京外国語大学博士後期課程)