第3回MIRAIゼミは、Bグループ企画・進行により、5月25日に実施しました。
『研究の「結果」より「プロセス」に着目する』という視点から、研究活動を「プロセス」として再考する、というものです。 議論の伏線として、デザインという異分野での実践や思想について取り上げていて、とても興味深く聞ける内容でした。
↑ Bグループがテーマを提議中
↑ 順番に発言中
↑ 発言にも熱が入ってきます
以下、Bグループの活動報告です。
1)概要
今回のゼミは、Bグループ(長谷川・宮本)が担当し、「研究をプロセス/プロジェクトとして考え直す」ことをテーマとした。
2)本テーマを扱う動機と問題意識
・前回の第二回MIRAIゼミでは、研究の「結果」よりも「プロセス」に着目する視点を中山先生から提示して頂いた。とても重要な論点であったが、時間の都合により充分に議論を掘り下げることができていなかった。そこで今回のゼミでは、各メンバーの実際の研究に引きつけて「プロセス」としての研究についてあらためて議論することとした。
・また、研究の「プロセス」としての側面を取り上げることで、研究者を現在取り巻いている研究環境を再考するきっかけになるのではないかという意図を込めた。具体的に三点に集約されるような、「生身の人間」を不可視化する今日のアカデミアの力学を念頭に提題を行った。
- 定量化されやすい結果ばかりが評価される。
:特定の専門分野のなかでのアカデミックなコントリビューションだけで測られ、「社会の中で本当に必要な研究なのか?」という根本的な反省をする機会が少ない。
- 研究者の特性や人格が捨象されがち。
:研究は「公平中立」でなければならないのは大前提だが、その大前提が逆に、あらゆる研究が生身の人間によってなされ、社会的にニュートラルではあり得ないという事実を覆い隠してしまっているのではないか。「誰にとって大事な研究なのか?」を問う批判精神をどのように涵養する必要があるのかが根本的に問われている。
- コロナ禍を経て、研究(者)も孤立している
:研究者の立場から見ると、とくに人社系の研究は、人と人との対面での対話が重要なことが改めて浮き彫りになったのではないか。一方、社会の側から見ると、とりわけ人社系の研究がこの危機的状況のなかでもどこか超然とした存在のままで、自分たちの生活には無関係な場所にあるという思いが強まったのではないか。研究プロジェクトをきっかけに新しい関係性を結びなおせるかが、全ての研究活動プロジェクトにおいて問われているのではないか。
3)ゼミ前の課題
より深い議論をするための思考の補助線として、「デザイン」という異分野での実践と思想に関する資料を事前課題とした。デザインは、プロジェクトベースでさまざまな人たちが協働しながら「プロセス」を組み立てていく営みであり、研究者が学ぶべき知恵が眠っているのではないかと考えたためである。
多木陽介「プロジェッタツィオーネに学ぶサステナブルな創造力」
4)ゼミの流れ
ゼミは以下の流れに沿って進めた。
- 14:20-14:40:提題 (長谷川)
- 14:40-15:40:ダイアローグ
- 15:40-15:50:MIRAI補完計画 華麗な鼻笛 (宮本)
- 15:50-16:00:休憩
- 16:00-16:30:総括
【議題】
Question 1:自分の研究を「どのように」社会で活かしたいですか?
Question 2:その際、とくに「誰と」密接に協働したいですか?
5)ゼミを振り返って
今回のゼミでは、研究のプロセスに着目し、誰と協力しながら研究を進め、いかに社会に還元できるか/したいかという問いについて、議論を深めた。
Q1に関しては、以下のような議論があった。
- 研究の分野によっては、社会との繋がりが見えにくい。
・中山先生「研究は社会に生かされないといけないのかという緊張感をもった。課題解
決型の研究に比べて、面白い現状を知る為、世界のありようや視点に着眼する研究は、社会との繋がりが見えにくい。社会が求めるものからスタートし、自分の研究が埋め込めまれないといけないと考えると苦しくなる。」
- 何をもって「社会に役に立つ研究」だと言えるのか
・吉武「この問いには、『そもそも研究は役に立たなくてはならない』という主張が込められており、その前提を自明のものとするのは再考する必要があるのではないか。」
・横山「社会に役立つ、良いとされる社会的価値観の固定化の問題がある。日々現実が変わる中で、研究が社会に貢献できることにも変化が生じ、研究の意義、価値、論理が変わってしまうかもしれない。社会への活かし方のコンセプトは、社会環境において変わる。むしろ、世の中の流れとは違うものが生まれなくてはならないし、そこに取り組んでみたいと思う。」
・小林「今社会に求められているものに違和感を持つ人もいる。その人々のために活動する。マイノリティーの止まり木となれるコミュニティづくりに取り組んでみたい。」
- 研究は特定の人への還元である
・石橋「日本語学習の教材開発やカリキュラム作成を行っており、狭い範囲の研究をしているが、自分を通じて、知識が会社や学習者に伝わる。」
・吉武「自分の研究(フランス語)を話したり、活用したいと思う時は、特定の人を対象にしなければならない。つまり、自分の分野を生かせるのはすべての種類ではなく、一定の種類に限られている。」
- 理論と応用、問題発見と問題解決の間
・國末「コーパスを用いて研究したいと考えている。実際にある形をもとにその傾向を調べ、研究していくスタイルであり、特に話し言葉フランス語の分野に貢献したい。フランス語教育にも、応用可能だと考える。」
・小林「問題発見と問題解決の間に必要なのは、課題共有能力。コミュニティ全体の問題として、当事者意識を促し始めて、解決に向かうことができると考えている。そこで、言語学習や社会問題の解決にゲームの要素を加えて、そのプロセスを可視化したい。」
Q2に関しては、以下のような議論があった。
- 自身の調査協力者や研究対象者と協力しながら研究を進めたい
・石橋「日本語教師や日本学習者などと協力しながら研究を行いたい。加えて、他の言語を研究している研究者や、外国出身の日本語研究者とコラボしたいと思う。文化的背景によって、見方が異なるので、日本語学にもより寄与できると考えている。」
・シュ「やる気がなかなか出ない時の自分と共同したい。また、指導教員と相談しながら、調査対象地域の小学生や教育現場の先生方、政策の決定者と共同し、明らかになった問題を社会に提示し、政策提言を行いたい。」
・小林「既存の教育に関わる人々や学習者との共同を考えている。」
今回のゼミを通じて、研究のプロセスを考え直し、どのように社会と繋がりたいのかを模索するなかで、多様な社会の繋がり方があることを再確認することができた。これからMIRAIで、さまざまな議論を重ねていきながら、実際に共同プロジェクトを企画することで、活動の場を広げていきたいと思う。
【スタッフあとがき】
休憩時間に入る前の時間には鼻笛の講習会(?)も行われ、MIRAI奨学生メンバーの多芸多才ぶりに感動しつつ、子供のように鼻笛に取り組む様子がほのぼのとしていて、楽しい時間となりました♪
鼻笛、奥が深そうーー!
↑ 鼻笛の達人♪
↑ なかなか難しそうです
↑ コツをつかんできた?!