MIRAI4期生の米村です。
2025年度外語祭期間中の11月24日に特別授業を担当しました。
この記事ではその様子をレポートします。
私の専門は北陸方言、特に石川県能登半島の七尾市で話される方言の調査・記述です。
石川の方言は「あの~」と語尾がゆれる「ゆすり音調」や共通語の「の」の代わりに「ガ(ン)」を使う(「ここで何しとるガン?」)など、多くの面白い特徴を有する方言です。
特別授業を担当することになる前から、こうした面白い方言を扱う研究の魅力をどうやったら伝えられるだろうかとずっと考えてきました。
専門的な知識をそのまま並べるだけでは、初めて聞く人にとって理解は難しいし、何より面白くありません。
そこで今回は、まだ本格的な研究に触れたことのない人にも伝わる形を目指して、専門用語をできるだけ避けながら、話を組み立てました。

方言は「直す」もの?----言語を文化として見る

方言を専門としない後輩や親に事前に講義資料を読んでもらいました。すると、
「そもそもここがわからない」
「この言い方だと専門用語に聞こえる」
といった率直な指摘をたくさんもらいました。
この過程で、「方言」という言葉の感覚の違いに気づくことができたのは、大きな収穫でした。
世間一般では「標準語と違う言い方=方言」という認識がありますが、方言研究ではそうした語彙的な差異だけを「方言」と呼んでいるわけではありません。
私たちは、その地域で話されている1つの「言語」のシステムをとらえるために研究をおこなっています。
地元を離れると、方言を「直す」という人がいます。
しかし、方言は"乱れ"でも"劣った言葉"でもありません。
それは、その地域で育まれてきた文化そのものです。
標準語 vs 方言という単純な構図では語れないほど、方言のシステムは多様で豊かです。
もし方言を「一つの文化をもつ言語」として見直してみたら、きっとその面白さや美しさがもっとよく見えてくるはずです。

外国語大学で「方言」の話をするということ

講義をすると決まった当初は不安もありました。
「日本国内の方言の話をしたところで、外国語大学を訪れた人たちは興味を持ってくれるだろうか」
「専門外の参加者には、自分の研究分野の話は退屈なのではないか」
――そんな心配もありました。
けれども実際に授業をしてみると、参加者のみなさんは驚くほど熱心に耳を傾けてくれました。
質疑応答も活発でした。特に印象に残った質問をひとつ紹介します。
| AIやデータが充実しているのに、なぜフィールドに行くの?
これは本当に鋭い質問でした。
私の答えはとてもシンプルです。
「少なくとも七尾方言のデータはどこにもないから」。
AIはここ数年で大きく進歩しましたが、方言への対応はまだ不十分です。
専門家による方言特化のAI研究もありますが、対象は限られていますし、七尾方言は含まれていません。
また、方言データを自発的に残そうとされる市民の方がいらっしゃる地域もありますが、残念ながら七尾市にはそういった取り組みは見られません。
もし私が今、七尾で調査をしていなければ、七尾方言はどこにも記録されないまま、共通語化によって静かに消えていくかもしれません。
だから何よりフィールドに行って、現地でインタビューをして、データを残していく必要があるのです。
それがフィールドワークの意義であり、価値です。

研究は、机の上だけで完結しない

高校生の頃の私は、文系の研究とは「本を読み続ける仕事」だと思っていました。
もちろん文献研究は大切です。
しかし実際には、現地に行って人と出会い、直接話を聞き、そこから新たな知を切り開いていくことも研究の大きな柱です。
時には雑談から、新たな研究のテーマが見つかることもあります。
私はもともと修士課程まではフィールドワークとは無縁の分野にいました。
私がフィールドワークによる研究に興味を持ったのは、MIRAI推進室主催の宮古島ワークショップに参加したことがきっかけでした。
大学や家の中だけでは絶対に知り得ないことが、外の世界には無数にあります。まだ誰も知らない学問的発見もありますし、地域の方と話すことで、その土地の言語や文化への思いが直接伝わってきます。
このときの感じたときめきこそが、今の私の研究を支えています。
今回の講義が、日本の方言、さらには世界中の言語の調査・記述に興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。