MIRAIプログラムコーディネーターの青井です。
11月4日に富士通研究所の中尾悠里さんをお招きし、MIRAI生に向けたキャリア講演会を開催しました。

大学の内側だけでは得られない視点

今回の講演は、博士後期課程の学生向けに今年度から開講されている「グローバル人材育成ゼミ」の一環としておこなわれました。
ゼミではキャリア・ポートフォリオ作成などを通して、学生が自身のキャリアを多面的に考えるきっかけを提供していますが、大学の内側だけでは出会える職種や価値観に限界があります。

今回中尾さんにお越しいただいたのは、大学や研究コミュニティでは接点を持ちにくい企業の研究者の視点に触れてもらうためでした。
中尾さんは富士通研究所に在籍しながら東京大学大学院博士後期課程で科学技術論を専攻され、AIを中心とした情報技術を研究されています。

理系と文系を何度も行き来してこられた中尾さんのユニークな経歴は、こちらのnoteで詳しく紹介されています。

理転文転を繰り返した結果、どちらも諦められずに情報系研究員をしながら人文社会系の研究室で社会人博士を始めた話

違和感を信じる力:キャリアの羅針盤としての「直感」

講演の中で中尾さんは、ご自身が分野の転向を繰り返してきた背景に「直感的な違和感」があったと語られました。
それは、以下のような、研究や勉強を続ける中で不意に訪れた「これは違うのではないか」という問いでした。

  • 歴史的な事件をコンピュータ上で本当にシミュレートしきれるのか?

  • 非生産的な批判ばかりが学会の議論であっていいのか?

  • 「誰かの役に立つ」システムを開発する裏には、専門家の無自覚の傲慢がありはしないか?

中尾さんは、その小さな違和感を決して見過ごさなかったのだと言います。
居場所への不満が大きく膨らむ前に、より良い世界を求めて動き出す。
その軽やかさのベースには、自分の直感を信じる姿勢があるように思いました。

直感は、筋道立てて説明することが難しく、時間が経てば経つほど理性的な自分によって「根拠の乏しい思いつき」として退けられがちです。

しかし、たとえまだうまく言葉にできなくても、直感的に感じたことにはそれなりの理由があるものです。
理屈が整うのをただ待つのではなく、そのとき感じた違和感に従い思い切って動いてみることで、新しい道が拓かれることを、中尾さんのキャリアは教えてくれます。

「どうやるか」より「やるかやらないか」

講演後の質疑応答では、異分野越境についての質問が寄せられました。
もちろん、まったく知らない分野へ飛び込み学び直すには相当な努力が必要です。
しかし中尾さんのエピソードは、「どうやるか」よりも「やるかやらないか」の決断のほうがずっと本質的だということを示唆しています。
その決断は、自分の内なる声が指し示す方向を信じられるかどうかにかかっているのかもしれません。

今回の講演は、キャリアを「情報収集の問題」としてのみ捉えるのではなく、「自分の声にどう向き合うか」という問いとして立ち返る大きなヒントを与えてくれました。

直感に耳を澄まし、次の一歩を踏み出す勇気について、参加したMIRAI生とともに私自身も深く考える時間となりました。

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