1.あなたが未来館で得た気づきや発見3つ

  • 他の科学館での展示内容や実践されている科学コミュニケーションは自然科学分野であることがほとんどだが、未来館では哲学や認知心理など人文系の要素を取り入れようと試みていたこと。また自然科学分野であっても、分野横断的に扱っており、学問分野ごとの展示区分にはなっていなかったこと。学問分野というのはある意味アカデミアの都合であって来館者には関係のないことであるため、コミュニケーション相手である来館者に寄り添った見せ方が重要だろう。

  • 未来館では二人の科学コミュニケーターと知り合ったが、いずれも同世代で自分と同じように科学コミュニケーションへの熱意をもって現場で働かれている方であったこと。科学コミュニケーションの必要性を実感している方は予想以上に周囲にも多く、彼らを巻き込んでいくことで実践の範囲を拡大していけそうだという可能性を感じる。

  • 科学コミュニケーションの効果測定は難しいこと。何をもって科学コミュニケーションが成功したとするのかという基準を判断することは難しく、究極的にはその後の個々人の日常生活で科学への関心や関わり方に変化があるかどうかを追跡することが必要だが非現実的ではない。科学コミュニケーションは日常(の疑問)から出発して日常に還元していくことが最大の貢献だと考えているが、それゆえに目に見えない要素が多く単純な成功失敗で語りづらい部分がある。

2.あなたにとっての科学コミュニケーションの意味・価値

 元来科学は哲学のなかの一分野であり、自分と世界のあり方を捉えるものとして人々に開かれたものであった(少なくとも排他的ではなかった)が、科学と技術が結びついて科学者が職業技術者のような役割になってくると科学の細分化・専門化が進み、科学と科学者の排他性・閉鎖性が高まってしまった。科学コミュニケーションは、人々の手から離れてしまった科学・科学者の存在を再び人々の元に近づける行為だと考える。また科学者の専門性が高まったことで市民との間の結びつきや信頼関係が薄くなっていると思われるが、科学者も市民のひとりであることを考えるとすなわち市民間に分断が起きていると言える。科学コミュニケーションはその分断を埋めるためにも意味を持つものだと思う。

小林真也(D3:日本語教育学)

コーディネーターからのコメント

「学問分野の細分化はアカデミアの都合であって、来館者の興味関心とは関係がない」という指摘が非常に鋭いですね。
科学コミュニケーションと言うと、こちらが何を伝えたいかを真っ先に考えてしまいがちですが、相手が何を知りたいと思っているのか、何に興味を持っているのかということに想像を膨らませておくことがまず必要であることを気づかせてくれる一文でした。

科学コミュニケーションの効果測定については、先日開催したツアーの振り返りでも取り上げたいトピックでした。
日常から出発して、日常へと帰るサイクルが科学コミュニケーションの根幹だとすると、どのような問いを持ち帰ることができたのかを質的に評価することに目を向けてもいいのかもしれません。

「科学コミュニケーションは、人々の手から離れてしまった科学・科学者の存在を再び人々の元に近づける行為」とは、ゲーミフィケーションを専門とし、ゲームクリエイターとしての側面も持つ小林さんだからこそ辿り着いた意味づけですね。
MIRAIのみなさんには、自分の研究をどう伝えるかという狭い視野で捉えるのではなく、社会的な文脈の中で科学コミュニケーションを位置づけてほしいです。