MIRAIプログラムコーディネーターの青井です。
2024年10月に沖縄科学技術大学院大学(OIST)で開催されたリサーチ・アドミニストレーター(RA)協議会の第10回年次大会に参加してきました。
RA協議会は、大学や研究機関における研究活動の活性化を目指し、研究マネジメント人材の育成や体制整備に取り組む組織です。
第10回年次大会では、「まるっとダイバーシティ:多様性の知から異なるバックグラウンドの力をけん引するURAとは」をテーマに、多様な観点からの議論が交わされました。
従来の研究支援は、大型プロジェクトの運営や外部資金の獲得支援など、組織レベルでの研究推進に重点が置かれてきました。
しかし、研究活動の多様化に伴い、個々の研究者、とりわけ次世代を担う若手研究者への支援の重要性が増しています。
中でも人文科学分野は、研究スタイルの特殊性から、既存の支援体制が十分に機能していない現状があります。
本稿では、多文化共生イノベーション研究育成フェローシップ(MIRAIプログラム)で実施している、人文科学分野の博士課程学生を対象としたメンタリング支援の取り組みについて、RA協議会での発表内容をもとに紹介します。
個々の研究者に寄り添う支援のあり方を考えることは、まさに研究の多様性を支えることにつながるのではないでしょうか。
このメンタリング支援の取り組みは、私自身の博士課程での経験に端を発しています。
当時、計画通りに博士論文を進められず、一度は執筆を断念せざるを得ない状況に追い込まれました。
そこから再び執筆を始められるようになるまでに、2年もの時間を要しました。
その経験を通じて強く感じたのは、指導教員以外に研究の悩みを相談できる存在の必要性です。
周囲の先輩や同期は「自分もそうだった」「今は辛いけど、それも一時的なもの」と励ましてくれましたが、そうした励ましだけではどうにもならない現実がありました。
とりわけ人文科学分野では、研究室の独立性が高く、個人での研究活動が基本となります。
そのため、研究テーマの設定から、アプローチの選択、研究プロセスのマネジメントまで、すべてを一人で担わなければなりません。
しかし、これらのスキルを体系的に学ぶ機会は限られています。
さらに近年は、専門分野の細分化に伴って研究室間の壁が高くなり、学生同士での情報共有も困難になっています。
3年での博士号取得というプレッシャーも相まって、かつてよりも研究マネジメントスキルの必要性は高まっているのが現状です。
MIRAIプログラムでは、「聞く」ことを重視したメンタリング支援をおこなっています。
メンターは学生の研究内容に対して直接的な指導や助言をおこなうのではなく、学生自身が研究プロセスを振り返り、次の一歩を見出せるような対話の場を提供することに注力しています。
私は、前職も含めて、これまでに4名の博士論文執筆過程に伴走してきましたが、そのうち3名が目標期間内での論文提出を実現しています。
ここで重要なのは、期間内での提出という結果以上に、学生たち自身が研究の進め方や時間の使い方について、自分なりの解決策を見出していく過程です。
メンタリングの場では、学生たちは研究の進捗状況や直面している課題について自由に話します。
時には研究の方向性に対する不安や、論文執筆に関する迷いを語ることもあります。
メンターである私は、それらの話に耳を傾け、時には質問を投げかけることで、学生自身が状況を整理し、次の行動を考えるためのサポートをおこないます。
印象的なのは、話をしていく過程で、学生たち自身が課題解決の糸口を見出す瞬間に立ち会えることです。
「話しているうちに整理できました」「考えていたよりも、できていることが多いかもしれません」といった気づきの声を聞くたびに、この支援の意義を実感します。
↑RA協議会で発表したポスターの写真
今回のRA協議会年次大会では、本メンタリング支援の取り組みについて多くの共感の声をいただきました。
特に印象的だったのは、人文科学分野における研究支援の必要性が、他大学でも強く認識されているという点です。
自然科学系に比べて支援体制の整備が遅れがちな人文科学分野において、どの大学でも学生たちは似たような課題に直面しているようです。
私自身の経験から始まったこの取り組みは、当初、どこまで学生支援として普遍的な価値を持ちうるのか、確信が持てずにいました。
しかし、教員やURA、そして博士課程での経験を持つ方々から寄せられた反応は、この支援の意義を再確認する機会となりました。
一方で、今後の展開に向けて考えるべき課題も見えてきました。
その一つが、指導教員との関係性の整理です。本メンタリング支援では、研究内容に関する具体的な指示は行わず、あくまでも学生自身による課題解決をサポートする立場を取っています。
現在まで指導教員とのあいだで問題は生じていませんが、支援の範囲と限界を明確にし、より連携の取れた体制を構築していく必要性を感じています。
また、この取り組みをより広く展開していく方法についても手をつけられていない状態です。
個別のメンタリングという形態は、きめ細かな支援を可能にする一方で、支援できる学生数に限りがあるという現実もあります。
今後は、個別支援の質を保ちながら、より多くの学生に届く仕組みづくりを検討していく必要があるでしょう。
私たちのメンタリング支援の取り組みは、まだ発展途上の段階にあります。
しかし、RA協議会での発表を通じて、人文科学分野における研究支援の必要性と可能性を、改めて確認することができました。
博士課程での研究活動は、専門性の追求という側面だけでなく、研究者としての基礎体力を養う重要な期間でもあります。
とりわけ人文科学分野では、研究プロセス全体を自身でマネジメントする力が求められます。
MIRAIプログラムでは、このような認識のもと、今後も学生一人ひとりに寄り添った支援を続けていきたいと考えています。
同時に、この取り組みをより多くの学生に届けられる形に発展させていくことも課題です。
本稿を読んでくださった方々、特に同様の課題意識を持つ教職員の皆様との対話を通じて、人文科学分野における研究支援の可能性をさらに探っていければと思います。
研究の多様性を支えることは、イノベーションの源泉を育むことでもあります。
その実現に向けて、一つひとつの取り組みを着実に積み重ねていきたいと考えています。