MIRAI推進室の久納です。

ここ数年あちこちで見られるようになった「イノベーション」という言葉ですが、仕事として日々考えていたりすると、色々と思うことも多くあります。
今回は、既にみなさん耳タコでお腹いっぱいだと思われる「イノベーション」について、頭の整理も含めて書いていこうと思います。

イノベーション・・・色々ありますよね。様々な業種の様々なところでイノベーションの{結果}を享受しているものと思います。

以前、Notion①の記事でも書いたところではありますが、仕事一つを取っても、紙のみ→電卓→ワープロ→PC→タブレットと、仕事で使うツールのイノベーションがあったからこそ、今の仕事のやり方があるわけです。

コミュニケーションツールもそう。手紙→電話→携帯電話→スマートフォン(チャットツール含む)と、ツールのイノベーションによってコミュニケーション方法が様変わりしました。

どこでも耳にするということは、日本の社会全体がこのような「イノベーション」を求めている、正確には世界的イノベーションが日本から多く発生することを望んでいる、ということだと思います。

2022年度、東京大学の名誉教授である西垣通先生にご講演を賜りましたが、その中で私にとって非常に興味深いことがありました。

「日本の社会は、クローズドシステムには強いがオープンシステムには弱い。」

なるほど。確かに企業の不具合で携帯が1日使えなくなるだけで、電車が10分遅れるだけで叩かれるこの社会。「どこに落とし穴があるかわからない」ものではなく、{完全に作り込んだものを出す}ことを考えなければ、会社の信用問題に発展します。

対称的に、(実際にそれが要因だと言うには理論不足かもしれませんが・・・)ATMが止まるのは当たり前、電車は時間通りに来ないのが常識である諸外国において、AIやクラウド型のシステム・サービスなどの「Web上の新技術」は発展していきました。

※ネット界隈ではよく言われることですが、Webの過渡期に*Winnyの制作者を逮捕してしまった(=犯罪を意図して作られたわけではないオープンシステムを作った人が「違法的に使った」人よりも悪いとされた)ことが、日本のWeb後進を後押ししてしまったのではないでしょうか。筆者はこの考えに同調しています。
*Winny:ファイル交換ソフト。2000年代初頭、違法性の高いファイルの交換が行われていたことが問題となっていた。

ここで問題なのは、国民性・・・もっと言えば民族的特徴であるかと思います。どんなにグローバルな世の中になれど、国的・地域的・民族的な土壌はすぐには変われないでしょう。だからこそ、{文化}というものがあり、最悪のケースではそれが対立してしまい争っているわけですから。

オープンシステムに強い国になるために、「日本国民のみなさん、もっとおおらかになりましょう!!」と言ったところで、携帯が1日使えなくなったりATMが止まってお金を出せなくなったら、みなさんどう感じますか?どう行動しますか?
(もちろん、日本の国民性が悪いと言いたいわけではありません。お金を払っている以上ミスを許さないという国民性は、金を払う側からすると信頼性に繋がりますので。)

日本でイノベーションが生まれない大きな理由は、ここにあるのではないでしょうか。

クローズドイノベーションで凄いものが生まれないとも限りませんが、「三人寄ればなんとやら」のように、現時点ではオープンイノベーションのほうが遥かに何かを生み出す確率が高いでしょう。しかし怖くてなかなか足を踏み出せない。特に大企業ではそのような傾向が見て取れると感じます。

イノベーション創出人材とは、「利益を独占せず」「他人に歩み寄れ」「少しのミスは気にしない」、そのような人なのかもしれません。土壌を変えることは難しいですが、そのような人材が増えて結果を残していけば、日本でも何かしらのイノベーションが生まれるのではないでしょうか。

現在、イノベーションと結びつけてAIが盛んに取り上げられていますが、前述のイノベーション創出人材は「AIを使ってなにかをする」のではなく、その先を見据えた新しいもの/ことを創る・考えることができる人間でなければならないと、筆者は考えています。なぜならば、ChatGPTによるAIイノベーションは既に起きてしまっているからです。そのため、これからイノベーションを「創出」するのであれば、様々なジャンル・分野の専門的知識を、レオナルド・ダ・ヴィンチの脳のようにシナプスで繋げる必要があり、今以上のオープンイノベーション体制を作る必要がある、と考えます。

もちろんAIについては今後も使う・考えることをやめてはいけませんが、さらにその先に行くためには(=イノベーション創出人材を育てるためには)、AIとの掛け算だけではなく、AIを含む、現在我々が享受しているイノベーションの産物そのものの概念や、それが生み出したものを言語化することでイノベーションの種を蒔き続ける人がキーパーソンになる、そんな予感がしていますし、それは人文社会科学系研究者の役目であると思いますし、そうでないと、*イノベーションのジレンマに陥ってしまうことになるでしょう。
そのような未来が来ないことを期待します。
*イノベーションのジレンマ:イノベーションを起こした後、その技術の発展に固執し、新技術に乗り遅れてしまうこと。