宮古池間島WSのブログ第3弾です。今回の担当は小田です。

私は普段社会言語学を研究しています。池間島でも社会言語学的トピックに関心を持って聞き取りを行いました。今回聞き取りを行うことができたのは60~90代の男女4人です。

宮古島の北西に位置している池間島では、琉球諸語のひとつである宮古語池間方言(本文中では単に「方言」)が話されています。宮古語は日本語と同じ祖語をもつものの、相互理解は難しく、別の言語であると位置づけられています。ユネスコの分類では、現在では消滅の危機にある言語とされています。

今回の聞き取り調査は標準語を通して行われていますが、WSの雰囲気が少しでも伝わるように、この記事では協力者のことばをできるだけそのまま引用しています。

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                     池間島の宮古島まもる君

初めに小中学校のころに方言札があったかという質問をしました。70~90代の3人は方言札があったと答え、その思い出を語ってくれました。共通して、学校で方言を喋った人に「方言使用者」の札をかけ、かけられた人は次に方言を喋った人を見つけては札をかけるといった内容でした。

『小学校、中学校の頃には方言札というのがありましてね、足を踏まれたり、頭たたかれたり何かすると「アガー」、方言で「あー痛いよ」ということだけど、すると方言札をぶら下げられる、「アガー」って言っただけでね。そのころの黒板には、何月何日何曜日と書いて、そのそばにはもうだいたい「標準語励行」と書かれていました。』(80代男性)

今や遠い昔の記憶なのか、笑いながら話してくれる人もいました。子供たちのうちではわざと方言を言わせて札を掛ける一種の遊びと化していた面もあり、それに男女差があったことも伺えました。

『昔はね、面白かったよ(...)自分の札をハカそうともうわざと足をけったりね、「アガイ」とね、「痛い」と言うとあんた方言使ったからもう札を掛けなさいと。女の子っちょはあんまりしなくて、男の子たちは大雑把さーね、だから』(90代女性)

昭和30年代ごろに小学校に通った方は、方言札はなくなっていて覚えがないが、学校での方言使用は注意されたと教えてくれました。

『私から4,5歳上あたりは持ってたかもしれないですね、方言札を。私は覚えがないですね。(...)私たち(の世代)は島の年寄と同じようにきれいに島の方言は使えません。片言片言は使えますけど。きちんとして、方言の敬語だったりね、目上の人に対する言葉遣いだったり、そういうことはもうほとんどできないですね。出てくるのはもう標準語。』(60代女性)

方言について話を聞いていくうちに、宮古語池間方言と標準語に対するそれぞれの思いや考えも少し垣間見ることができました。

特に興味深かったのが方言に対して標準日本語の呼び方です。「標準語」に加えて、多くの人は「共通語」という言い方をしていました。他にも「やまとの言葉」という言い方もありました。「やまと」というのは沖縄から見た本土の呼び名です。他にも他県から嫁入りすると「やまと嫁」、本土の大学を「やまとの大学」と呼んでいました。島と区別して本土を指す言葉があるところに、島ならではのアイデンティティを感じ、「やまと」育ちの私は新鮮に思いました。

方言札の例にみられるように公の場で排除されてきた歴史もある方言ですが、話者にとっては「池間民族」の誇りと愛着が詰まっていることばであると感じられました。

池間島の郷土文化をよく知り、執筆活動も行われている男性は、「(育ててもらった)明治生まれのおばあの方言が僕の方言ですね」と誇らしげに話してくださいました。子供のころ方言札をさげることも恥ずかしいと思うことはなかったそうです。

70代の男性。「方言のことよく聞いてたおばあが亡くなったんで、もう(方言で分からないとき)聞く人がいなくなった」と話す姿は悲しげでした。70代は方言が話せる世代では若い方だと言えます。この方は学者の方言調査にたくさん協力されていて、私たちが方言について質問したときもとても嬉しそうな表情をしていました。方言札について聞いた後にぽつりと言った言葉が印象に残っています。

「それが今ではあっちゃこっちゃでもう方言を残そうとしてるよね。そういうことを考えるとこれ文部省が間違っていたのかなって、そういう感じになる。」(70代男性)

また、方言と共通語の両方が大事であるという意見もありました。

「近頃どんどんどんどん(方言を)勉強しようという風になってきてると思うんですけど、ただ方言って、方言でしか味わえない雰囲気もあるんですけど、あまりにも言語領域が小さいですよね、方言はね。(...)だから方言を使っていたら、今のように私たちのように大学まで行けるような生活はできなかったと思います。やっぱり共通語が学力にはすごく大きな影響を与えたと。(...)だから方言が全てというような今の方言の取り扱いには、あんまりね。そうじゃない、両方の良さをやっぱり知らないと。(60代女性)

この方は小中学校の国語教員として勤められたため、その経験ならではの考えであるように思いました。

池間島WSでの聞き取り調査や島の方との交流を通して、方言と、そしてその方言に対する島の方の思いに触れることができました。方言札が使われていたこと。琉球諸語が日本語の一方言ではなく別の言語であること。知識として知ってはいたものの、今回直接話を聞くことでより理解が深まったように思います。

では次回の体験記ブログもお楽しみに!

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宮古本島の道の駅でみつけた言語景観「おごえ!」

(MIRAI3期生 小田千敏)