MIRAI推進室・コーディネーターの青井です。

4月24日月曜日のお昼、MIRAI生7名がアジア・アフリカ言語文化研究所に集まりました。
アジア・アフリカ言語文化研究所は、東京外国語大学の附置研究所で、通称AA研と呼ばれています。
MIRAI生を出迎えてくれたのは、AA研所属の研究者・太田絵里奈特任助教。
太田先生が実施したユニークな科学コミュニケーションの取り組みを特別に見せていただきました。

太田先生は、「シビルダイアログ」と題したアウトリーチ企画※を、過去に2回、実施しています。
その開催場所がとてもユニーク。
なんと認可保育園なのです。
これまで研究のアウトリーチと言えば、講演会や書籍などが中心で、その対象は「その分野に関心がある市民」でした。
特に人文社会科学の場合は、どんなに若くても、対象は中高生といったところでした。
ところが太田先生の企画は、保育園を舞台に、在園児や地域の方に広く開かれたものでした。
そこにはテーマに関心がある人ばかりでなく、たまたまフラッと立ち寄った人も集まります。

「最初から興味関心がある人が来るのを待つのではなく、こちらから市民が集まる場に出向いていく」

「知識マウントにならず、対等な立場で対話できる場を創りたい」

ユニークな企画の裏には、太田先生のそんな強い思いが秘められています。

この日集まったMIRAI生は、最初に太田先生から軽く企画趣旨について説明をいただいた後、イベントで実際に展示されたパネルなどを見て回りました。

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各自、付箋とペンを持ち、気づいたことや思ったことがあれば、すぐに付箋に書き留めてもらいます。

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展示パネルを指差しながら、太田先生に質問をしたり、MIRAI生同士で対話をしたりする姿も見られました。

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ひと通りパネルを見てもらった後は、対話の時間です。
付箋のコメントを拾い上げながら、太田先生がMIRAI生に問いかけていきます。

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MIRAI生が付箋に込めた思いを、太田先生は丁寧に掬い上げてくださり、また受け止めてくださいました。
太田先生とMIRAI生の対話を傍で聞いていて、私が大事な論点だと感じたことが3つあります。

(1) 人文科学の価値はどこにあるか

研究を広く伝えようとしたとき、真っ先に「何を」見せるかを考えてしまいます。
しかし、自然科学とは違い、人文科学の対象は目に見える形にすることが容易にはできません。
手に取って観察できる対象や、繰り返し再現できる現象を持たない人文科学は、何を伝えればいいのでしょうか。
そもそも成果を「目に見える形」にしなければ、科学コミュニケーションは成立しないのでしょうか。
答えのない問いについて考える、当たり前を疑う、世界を違った視点から眺めるーー。
そういった人文科学の目こそ、伝えるべき面白さなのではないでしょうか。

(2) 参加者のリアクションに振り回されない

アウトリーチに限らず、企画には必ず受け取り手がいます。
受け取り手を具体的にイメージし、彼らに届くような形や内容を選択し、調整していくことが、企画の成功の鍵を握るでしょう。
しかし、あまりに受け取り手の反応を気にしすぎるのも問題です。
科学コミュニケーションは、その場限りの娯楽を提供するだけのものではありません。
科学の楽しさや価値を正しく伝える、そして科学の世界に引き込ませる。
科学の世界への橋渡しをするのが、科学コミュニケーションの重要な役目のひとつです。
アウトリーチでは、「楽しかった」「面白かった」という反応がすぐ返ってくるとは限りません。
しかし、いつか何かの拍子に急にこの時の経験を思い出すこともあるかもしれません。
目の前のリアクションばかりに囚われず、伝えるべきこと・伝えたいことに妥協しない姿勢を持ちたいです。

(3) 対話の可能性を閉ざしてはいけない

子どもたち、特に「シビルダイアログ」のように、幼児まで対象に含む場合、自分の専門の話をそのまま伝えることは難しいでしょう。
どんなにやさしい言葉でわかりやすく噛み砕いたとしても、興味の対象がそもそも向いていないからです。
しかしそれを「どうせ子どもにはわからない」と切り捨てるのは、あまりに安直です。
太田先生は、幼児でも対等に対話ができることを信じ、「シビルダイアログ」を企画しました。
そしてその信念は、たくさんの子どもたちに確実に届いています。
専門への拘りは、専門への囚われとも言えます。
囚われから解放されたとき、対話への糸口が見えてくるということを、太田先生の取り組みは教えてくれました。

※ 太田先生のアウトリーチ企画の詳細については、以下のサイトをご覧ください。
在園児を対象とした工作ワークショップやおはなし会の他、地域の人がふらっと立ち寄って参加できる展示企画などが開催されました。

より詳細なレポートは、『イスラーム信頼学ニュースレター』で読むことができます。
ニュースレターは、イスラーム信頼学のwebサイト(https://connectivity.aa-ken.jp/)トップページからダウンロード可能です。