※ この記事は、2022/5/30に研究事務所ILOLiのnoteで公開された記事を再構成しています。

MIRAI推進室コーディネーターの青井です。
2022年11月から今のポジションに就いている私ですが、着任前の半年間だけフリーランス研究者をしていました。
個人研究事務所ILOLiを立ち上げ、学術スキルのセミナー講師や科学コミュニケーターとして活動していました。
フリーランス研究者時代にセミナーで話したことなどを今後このブログで随時公開していこうと思っています。

今日はまず半年間の活動の中から、科学コミュニケーションサークルUTaTanéさんとの共同制作展示企画について、
紹介します。

2022年5月14・15日の2日間、東京大学・本郷キャンパスで「第95回五月祭」が開催されました。
そこに言語学を題材とした企画を科学コミュニケーションサークルUTaTanéさんと共同で出展しました。
彼らとの共同企画はこれで4度目。
しかし対面でのイベントを企画するのはこれが初めてでした。
過去2年間は、コロナ禍のため、オンラインでの開催のみだったためです。

UTaTaneさんと共同制作したのは「みるみるオノマトペ」という展示でした。
2021年度「第72回駒場祭」でも展示した企画ですが、このときは完全オンラインの開催でした。
今回はこれを対面ワークショップとして作り直してリニューアルしました。

「みるみるオノマトペ」とは?

「みるみるオノマトペ」は、「音象徴を可視化し、参加者同士の対話を促す展示」として企画されたものです。
UTaTanéさんとは、これまでもオノマトペを題材としたオンライン展示企画を共同制作していて、
この「みるみるオノマトペ」が3作目になります。

※これまでのコラボレーションや「みるみるオノマトペ」の制作意図などについては、こちらの動画で発表しました。

「みるみるオノマトペ」のために私が書き下ろした「音象徴」のコラムから、音象徴を説明した箇所を引用します。

「クラムボンはわらったよ。」「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」

これは宮沢賢治「やまなし」の冒頭の一節である。
小学校の国語の教科書にも掲載されていることもあって、宮沢作品の中でもとくに有名な作品の一つだ。
二匹の兄弟蟹と父蟹の親子を描いたこの短い童話は先の印象的な会話で始まる。
注目したいのは「かぷかぷ」という表現だ。
みなさんはこの「かぷかぷ」からどのように笑っている様子を想像するだろうか。
わたしには「可愛らしいけど、少し憎らしくもある」ような笑い方が思い浮かぶのだが、いかがだろうか。

「かぷかぷ」は宮沢賢治が生み出したオノマトペだ。
宮沢作品にはこのような独特なオノマトペが多用されていることでよく知られる。
彼が創作したオノマトペは宮沢作品の描き出す独自の世界を作り上げる魅力の一つとなっている。
不思議なのは、宮沢賢治が創作したオノマトペが何を表現しているかを私たちは知らなかったはずだ、ということである。
わたしたちは「かぷかぷ」という言葉に「やまなし」を読むまで目にしたことがなかったはずなのだ。
それにもかかわらず、作品の中で「かぷかぷ」という表現があれば、わたしたちは何かしらの笑い方のイメージを思い浮かべることができる。

初めて出会う表現であるにもかかわらず、その言葉から何かしらのイメージをわたしたちが掴み出すことができるのは、なぜだろうか。
その謎を解く鍵が音象徴である。

オンライン展示から対面ワークショップへ

「みるみるオノマトペ」は、当初オンデマンド型企画として開発されました。
オンデマンド・バージョンの「みるみるオノマトペ」の特徴は、次の通りです。

    1. オンラインで会期中いつでも・どこからでも参加できる
    2. シンプルな操作で参加できる:音声(オノマトペ)を聞いて、
      イメージに合う色・形・感情(顔文字)を選択する
    3. 選択した結果を一覧することができる

今回、対面ワークショップ用に仕様を変更するにあたり、以下の修正を加えました。

    1. ワークシートを用意し、そこにイメージに合う「顔文字シール」を貼る。
      ワークシートには「顔文字シール」を貼るだけでなく、コメントを書いて、
      イメージを具体的に表現することができる。
    2. ワークシートを「感情マップ」上にマッピングする。
      「感情マップ」は、Atlas of Emotionを参考に作成し、「喜び」「恐れ」
      「悲しみ」「怒り」「嫌い」の5つの感情からなる。

オンラインでは、オノマトペから形・色を選ぶアクティビティもありましたが、
今回の対面では感情(顔文字)に限定しました。
その代わり、「感情シール」を105種類用意することで、選択肢が大幅に増えました。
これによって、選ぶ面白さが生まれ、またより柔軟な選択が可能になりました。
それでもピッタリくる顔文字がない場合は、自分で描くこともできます。

また、オンラインでは、参加者が選んだ顔文字を順番に並べて掲示することしかできませんでしたが、
対面では空間上に参加者が自由に掲示する仕様になりました。
これによって、どの顔文字を選んだか(あるいは描いたか)だけでなく、それをどこにマッピングするかにも、
参加者のアイデアやイメージが反映することができるようになりました。

マッピングの結果から何が見えてくる?

今回は「ワクワク」「ワシャーワシャ」という2つのオノマトペを取り上げました。

※「ワシャーワシャ」については、こちらのコラムで解説しています。

「ワクワク」はよく知られたオノマトペとして取り上げました。
参加者のほとんどがその表す意味もすでに知っているため、当然ながら、マッピングの結果は「喜び」に偏っていました。

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一方、「ワシャーワシャ」は参加者の多くが聞いたことがないオノマトペだったのではないかと思います。
マッピングの結果も、「ワクワク」と比べ、特定の感情への偏りはなく、全域的に分布していると言えます。
あえて言えば、やや「喜び」に偏っているように見えますが、これは参加者が「ワクワク」と無意識に
対照してしまった影響(つまり何かしらの類似性を読み取ってしまった結果)もあるかもしれません。

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「ワシャーワシャ」に関するコメントを感情ごとにいくつか拾ってみましょう。

    • 《喜 び》 心がかき乱されるくらい嬉しい感覚?、最大の愛情表現、
            ほっこり・すべてを受け入れる笑み、頭の中がいろんな
            情報で混乱する感じ
    • 《悲しみ》 痛いよー・きもちわるい〜・ヤダー
    • 《嫌 い》 頭の中がモヤモヤしている
    • 《恐 れ》 マジでやばい!みたいな感じ、かき乱される感じ、
            もんもんしている・追い込まれちゃう
    • 《怒 り》 爆発しそうという気持ち、気持ちが毛羽立っている感じ

私が特に興味深いと感じたのは、感情としては異なるものと結びつけていながら、
共通するようなイメージを掬い取っているようなコメントが見られることです。
例えば「掻き乱される」というコメントは、「恐れ」にも「怒り」にも「喜び」にも見つけることができます。
これが何を意味するのか、即座に理解することはできません。
しかし、オノマトペから感じ取った具体的なイメージが共通していても、それと結びつく感情は人によって
異なってくるという事実は、音象徴という現象の複雑さを物語っているように感じます。