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福島行ってきました!

いつぞや拙ブログに書いた「ウチでやるかもしれなかった企画」の関連で、28.29日と一泊で福島に行ってきた。企画に関しては西谷ボスのブログに詳しいが、エジプト出身のウード奏者、ムスタファ・サイッドさんのボランティア・コンサートである。ご両親が受けた劣化ウラン弾のために盲目で生まれたサイッドさんは、今年はじめのエジプトの革命の際にはタハリール広場に駆けつけて演奏し、このたびは自費で福島まではるばるやってきたという見事なフットワークのアーティストである。昨晩は東京でライブ&トークがあり、そのスタンスを「そんなご大層な」ものではなく、人間としての義務というか当然のことだという。

伝統的なウードという楽器で伝統的な曲も奏でるが、ジャズやクラシックその他もろもろのパッチワークをほどこした曲も作り、タハリール広場で演奏した曲には、あまりにしばしば乞われるので(BBCの取材もあって、一躍有名になった)、「もう飽きちゃったよ」とさらりと言ってのける明るいキャラだが、革命前のエジプトでは音楽が、社会の矛盾など考えずに過ごしていくための単なる気散じになっていたと痛烈に批判する。音楽というものに対するはっきりした考えがあるのだ(えー哲学を語れってか?と茶化していたが、ほんとうは相当な哲学だ)。福島についても、たくさんのいい人たちに会って、ポジティブな活力をたくさんもらったというが、実は津波の来たところではタハリール広場で感じたのと同じ「死の臭い」をかぎ分け、自然が怒りをあらわにしているのだと思ったという。そして、日本は今ここで根本的に変わっていかなければ、いつまでもグローバル資本主義の金の亡者たちが跋扈するままだと力説するのである。それでも「エジプトの革命だって、まだ始まったばかりだよ」と付け加えるのを忘れない。うーん、勇気もらえるー!

それで、福島である。五大院というお寺のお堂の縁日にひっかけた「までいライブ」(近くに避難してきている飯館村の人々も招待されてきていた)は、土地の人々の暮らしを垣間見た素敵な体験だったが、その後と翌日の午前中は、現地で子どもたちの避難を進める人々や、何度も現地入りしてそれを助けている人々などに会って、話しをうかがった。身を粉にして動き回っている彼らがしばしば口にするのは、その活動をふくめ情報が伝わっていかないもどかしさである。たしかに大手メディアからは、政府のやっていることと個別の被災者の様子、そしてその間にわずかに「反権力」としての「脱原発」の動きがあるような、ないような、ということばかりで、権力とかなんとかはどうでもいいから現実を動かすというさまざまな取り組みは、ほとんど伝わってこない。また彼らがいうには、力を尽くして段取りを進めても、「特定の色(イデオロギーとか宗教とか)がつくから」といわれて、いざ実現の段階でとん挫することも多いそうだ。メディアの問題もあるとはいえ、この国のいわゆる「常識」は、どうしようもないほどに、実のない「中立」幻想に凝り固まっている。今まったなしの死活問題だというのに!

さて、2日目午後には、周辺の村などを車で回るところへ同乗させてもらったが、線量計が「興奮」する避難地域でも、草木は伸び放題で枯れた田畑もあるものの、場所によってはまだ暮らしている人もあり、去った跡形もまだ新しい。ただ車を降りてしばらくみていると、見回りの車が「ここで長く止まってると、尋問されっから」と警告に来る。再び車に戻り、その場所を離れるとやがて線量計の数値がすっと下がるのである。そのときの、なんというかほっとする感覚は忘れがたい(そして数値が急上昇したときのぞっとする感覚は、もっと忘れがたい)。しかし線量のかなり高い場所で、「光ケーブルの工事をしています」という看板のある長い区間、マスクもせず交通整理をするおじさんたちが何人もいた。光ケーブルをひくことは今、そんなに大事なのか?!

サイッドさんも言ったように、わがDNAのいくつかも「影響を受けた」にちがいない。しかし、それがなんだというのだろう。福島のことを前よりも少し深く、理解できたことには代えがたい。行ってみなっせ(なぜか熊本弁)、福島! -ただし子どもと若者は除く

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2011年10月 1日 11:35に投稿されたエントリーのページです。

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