2008年台湾立法委員選挙情勢 (その2)

東京外国語大学
小笠原 欣幸

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台湾総統選挙の前哨戦となる立法委員選挙が迫ってきた。現時点での選挙情勢は国民党の勝利が濃厚で,議席と得票率で民進党とどれほどの差がつくのかが焦点である。(2007.12.19記)

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   各党の概況

 2008年1月12日(土)投票の立法委員選挙は,11月20日に立候補受付が締め切られ,候補者が出揃った。選挙は,国民党の大勝,民進党の敗北,小政党は議席獲得困難という流れになっている。詳しくは 全選挙区の情勢一覧を見ていただきたい。

民進党 は,陳水扁政権の2期8年の実績に対する不満が選挙民の間に拡がっているため,全般的に苦戦となっている。加えて,3月から5月にかけての激烈な予備選挙,7月から9月にかけての正常国家決議文騒動,そして10月の台聯との決裂,と選挙本番を前に陣営内部の争いで忙しかった。 党主席を兼任する陳水扁は目標を50議席と定めた。この時点で民進党は過半数(57議席)獲得をあきらめたわけだが,最後の追い込みができなければ40議席を割り込むことさえありえる非常に厳しい状況にある。陳水扁陣営の幹部は,小選挙区制が導入されたからといって一回目から2大政党の1対1の対決パタンになるとは限らない,と選挙が始まる前に語っていた。つまり,国民党と親民党の選挙協力は簡単にまとまらないであろうし,国民党の公認を得られなかった各地の地方派閥候補が無所属で立候補し,民進党が付け込むチャンスは十分あるであろうという見方をしていたのである。しかし,その見方は結果的に外れたようである。 民進党は地盤とする南部でも決して安泰ではない。 陳水扁の故郷である台南県(3議席)でも,台南市(2議席)でも激しい競り合いとなっている。もし台南で議席を落とすようなことがあれば,その衝撃は大きなものとなるであろう。

台聯(台湾団結聯盟) は,議席ゼロとなる可能性が高い。選挙区で一人も当選できないし,比例区でも議席配分の壁である5%の得票率を超えることは困難な見通しだ。李登輝は陳水扁と決別し,台聯を台湾ナショナリズムの立場から中道左派へと急転回させようとしたが,党内をまとめきれず台聯は事実上分裂した。そもそも独立派のシンボルという李登輝のポジションを奪いにいったのは陳水扁である。2006年以降,陳水扁が独立派寄りに軸足を移していったことで李登輝の居場所が圧迫され,そのポジションから追い出された。しかし,だからといって,いきなり党の路線を中道左派に切り替えるといっても党員も支持者も戸惑うだけである。台聯は,小選挙区対策として民進党に選挙協力を再三働きかけたが,協議が進展しないまま選挙に突入することになった。民進党との関係が深い立法委員は,除名されるか離党するかして台聯を去った。李登輝を間近で観察していた人物は,李登輝が高齢にもかかわらず影響力を維持しようとして策に溺れたと語っている。「自爆」に近い状況になったと見てよいであろう。

国民党 は,過半数を大きく上回り圧勝する勢いだ。都市部では知名度の高い現職,地方では選挙区での日常活動をこなしてきた地元密着型候補が有利になっている。4月に新主席に就任した呉伯雄は,予想以上の指導力を発揮し,親民党および無党籍議員との選挙協力を進展させた。呉主席は,馬英九のライバルの王金平を取り込み,馬英九の台湾化路線に不満な勢力をなだめるため,自分で泥をかぶり党内をまとめている。党全体に政権奪回への強い意欲が見受けられる。国民党は一議席でも上積みして,その勢いで馬英九の当選を確実にする考えである。総統選挙で敗れれば国民党は崩壊するというのが,国民党関係者の一致した見解である。まさに背水の陣であるという危機感が党内で共有されている。台南県,台南市,高雄県,屏東県,宜蘭県など民進党の地盤でも議席を獲得できる可能性が出てきており,そうなれば,総統選挙に向けて弾みがつくであろう。

親民党 は,国民党との協議が成立し,選挙区で6名,比例区で4名が国民党公認候補として立候補した。うち比例区の3名は名簿の上位なので当選が確実である。これとは別に,連江県(離島)の1名と原住民選挙区の2名が親民党の名義で立候補している。これは,党主席の宋楚瑜が選挙後を睨んで影響力を保持するための細工である。宋楚瑜は2006年12月の台北市長選挙で惨敗し,政界引退を表明したが,まだあきらめきれないようだ。立法院の定数半減に伴い,会派結成の最小議員数が6名から4名に修正される予定であったが,宋楚瑜が立法院長の王金平と国民党主席の呉伯雄にかけあって3名に引き下げさせた。このため,これら3名の候補が当選すれば,親民党は立法院で会派を持てる。内情を知る人物の解説によると,この3名で何か主導権を取ろうというわけではなく,馬英九が万一落選し国民党がばらばらになった時のために受け皿を作っておくという発想のようだ。馬英九が総統に当選すれば,同じ外省人である宋楚瑜の政治舞台はなくなり,徐々に身を引いていくことになるようだ。

新党 の郁慕明主席も布石を打っている。新党は選挙区では国民党と一体化したが,ぎりぎりになって比例区で独自の候補者名簿を提出した。国民党はかんかんに怒ったが,新党側が,選挙区の国民党候補を全力で支援することを約束して何とか収まった。郁主席のねらいは,馬英九の台湾化路線に不満な深藍選挙民の支持を集め,何とかして5%の壁を突破し,馬英九を牽制するため影響力を発揮したいという発想のようである。ちょうど日本の衆院選で公明党が「選挙区は自民党,比例区は公明党」と訴えているのと同じように「選挙区は国民党,政党票は新党」という訴え方をしている。新制度に対応したこの訴えがどこまで拡がるか観察が必要である。

第三社会党 は,民進党の青年部で活躍した周奕成が離党して立ち上げた。民進党と国民党の両陣営による泥沼の対立に嫌気をさしている中間派をターゲットにしている。しかし,その訴えはまだ拡がっていないようだ。筆者が台湾で話を聞いた限りでは,知識人で関心を示している人はいるが,第三社会党が議席を獲得できると考えている人はいなかった。

台湾農民党 は,高雄県の農會(日本の農協に相当)関係者が中心となって立ち上げた。農産物輸入自由化など農業を取り巻く環境は厳しいので,2大政党に失望した農民の受け皿になる可能性もあると思われたが,筆者が台湾で話を聞いた限りでは,農民党が議席を獲得できると考えている人はいなかった。農村の2つの選挙区を回ってきたが,その選挙活動は感じられなかった。しかし,南部,中部の農會にパイプがあることも事実であり,選挙戦の終盤で訴えが多少拡がる可能性もある。

 議席の見通し (2007年12月19日現在)
民進党台 聯国民党親民党無党籍定数
選挙区22〜27043〜480〜12〜373
原住民区0〜102〜31〜216
比例区14〜16018〜200034
合 計36〜44063〜711〜33〜4113
※『聨合報』と『自由時報』の報道,TVBSの民意調査,関係者の話を総合して筆者独自に算出。
 これは,あくまでも2007年12月19日現在の議席の見通しを示したにすぎない。最後の3週間で情勢が変化する可能性も十分あるし,投票率によってはこの見通しが外れる可能性もある。当選が予想される無党籍候補は選挙区で国民党の支援を受けており,選挙後に民進党に入ることはない。したがって,国民党陣営の議席総数は,国民党,親民党,無党籍の議席を合計した数となる。比例区の得票率については,民進党36〜42%,国民党48〜56%,その他小政党は合計で6〜10%と想定している。台聯,新党,第三社会党,台湾農民党などの小政党はいずれも5%を超えないと想定している。しかし,政党を選ぶ二票制は初めてのことなので,台湾の選挙民の意外な投票行動が現れるかもしれない。例えば,選挙区では候補者に一票を投じ(台湾の投票用紙は記入式ではなく選管の印章を押す),比例区の票は白紙のまま投じる人が多数出てくるかもしれない。変則的な分裂投票である。その場合は,相対的に支持の固い国民党に有利になり,民進党32〜38%,国民党54〜62%というような極端な得票率が出現することもまったくないとは言えないであろう。(2007.12.19記)
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