活動報告

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国際日本研究センター主催 講演会&ワークショップ 「沖縄とポスト植民地主義文学――崎山多美と〈シマコトバ〉というバクダン」報告集

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 2021年1月26日‐29日にかけて、表記の企画が開催された。これは大学院国際日本学研究院のJapan Studies冬期集中講義としても開講された。
 講師は崎山多美氏を加えて9人のラインナップとなった。豪華なベストメンバーとなったと考える。大学院国際日本学研究院では、昨年まで植民地主義と戦後東アジアの冷戦体制を扱う集中講義を続けてきた。また、国際日本研究センターでは、東アジア連続講座を開催してきた。こうした経験を踏まえて、この集中講義は、崎山多美という、沖縄文学の最先端を疾走してきた作家をテーマに、崎山氏もお呼びしながら計画されたのである。集中講義であると同時に、作家を交えたワークショップということもあり、参加者は毎回50名に達した。集中講義の内容はつぎのようなものであった。
 全体の基調をなすテーマは「継続する植民地主義」である。これについてはまず共同研究の成果をふまえた沖縄の思想史と戦後史研究の提起を中野敏男氏にお願いした。中野氏は、戦後反復帰論からポストコロニアル研究までの沖縄思想史を俯瞰しつつ、今日の沖縄と東アジアの現在を考えるための視座を提起された。
 続いて戦後沖縄文学史の紹介と論点の提起を大城貞俊氏に、クレオール文学からみた崎山多美論を中村隆之氏に、引き揚げ文学・脱植民地化とホロコースト研究との交差をニコラス・ランブレクト氏にお願いした。そして文化人類学を参照した崎山文学のテクスト読みとして、真島一郎氏から、ラテンアメリカ研究からの提起として高木佳奈氏に、崎山文学とサバルタン・スタディーズとの交差についての報告を友常勉が行った。しめくくりは社会言語学の視点から、野呂香代子氏は、ドイツと日本の状況を参照した慰安婦問題のポリティクスを解読した。
 最終日のワークショップでは、崎山多美氏からそれぞれの報告へのレスポンスと、自著改題、そして『月や、あらん』の一部が、日本語をくいやぶるシマコトバの試みの一例として、朗読された。予想されたこととはいえ、その作品が有している言語実験の背景が読み解かれたのは、一つの事件であった。討議では沖縄文学のみならず、沖縄をめぐる言説や言語実践にいたるまではばひろいテーマが論じられ、高い批評精神と言語実験にみちた崎山氏の文学営為を理解するまたとない機会となった。個々の報告への崎山氏のコメントは、鋭くかつ大きな課題を抱え込ませるものであった。同時代の沖縄の作家たちとの刺激的で鮮烈な関係についても言及された。私たちは私たちの読みの適否を考えながら、作家の言葉が生まれる瞬間に立ち会うことで、背筋に緊張を走らせながら崎山氏のコメントの一言も漏らすまいと耳をそばだてた。その緊張はまだ解けていない。
 私たちの崎山文学の解読はこれを始まりとする。そして果てしない課題を前にしている。これまでの東アジア連続講演会の一環でもあるこの企画は、今後の共同研究のための一里程でもある。この内容をこれから発展させていきたい。最後に、この場を借りて崎山多美氏および講師のみなさまに心から感謝申し上げたい。

東京外国語大学国際日本研究センター長
友常 勉

講演会&ワークショップ報告集は、以下の表紙をクリックすればダウンロードできます。

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