活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

東京外国語大学国際日本研究センター 国際シンポジウム「次世代に向けた日本研究の可能性―ポーランド・ロシア・ウクライナ―」 (2018年2月17日)

日時:2018年2月17日(土) 13:30-18:00
場所:東京外国語大学 府中キャンパス アゴラ・グローバル3F

「ポーランドでの日本研究」マイヤー・スタニスワフ ヤン 助教授(ポーランド・ヤギェロン大学)
「ロシアでの日本研究( 仮)」ウェインベルグ・ナジェージダ 准教授(ロシア・イルクーツク国立総合大学)
「ウクライナでの日本研究( 仮)」<Skype 経由>アサドチフ・オクサーナ 准教授(ウクライナ・キエフ国立大学付属言語学院)
「学生の立場から」 アガタ・クリコフ氏(ポーランド・本学大学院博士後期課程)

国際シンポジウム「次世代に向けた日本研究の可能性―ポーランド・ロシア・ウクライナ―」

 本センターでは2018年2月17日(土)国際シンポジウム「次世代に向けた日本研究の可能性―ポーランド・ロシア・ウクライナ―」を開催した。これは2009年に設立されたセンターのこれまでの活動から2016年度に第2期を迎えた、今後に向けての方向性を具体化したものである。
 本センターではこれまでさまざまな活動を行ってきた。年間10本以上のシンポジウム、研究会、そして毎年のジャーナルをはじめとする刊行物の発行などに加え、毎年夏には海外の第一線の研究者を招いた「夏季セミナー」を2012年度から開始し、2013年度からは国内外の大学院生による研究発表のワークショップも開催している。この成果を反映させたものとして、夏季セミナー参加大学を中心とした「日本語・日本研究コンソーシアム」も2016年度に結成した。また、海外の日本語教育、日本研究を行っている大学の調査を行っており、その成果を「日本語教育事情調査」としてセンターのホームページで紹介している。その数は2017年度末現在で33カ国、地域の77大学に及んでいる。さらに、2011年度から毎年博報財団からの海外の研究者の受け入も行っており、これまでに13名の研究者を特任研究員として受け入れてきた。これら、海外の日本語教育、日本研究を行っている諸大学との交流を大切にしてきた。
 一昨年度第2期を迎えるにあたって、新しい方向性を開拓し始めている。一つの方針としては、これまで夏季セミナーを中心とした交流は日本研究の盛んな主に東、東南アジアの国が多く、コンソーシアムはそれらの大学が中心となっているが、この対象を広げる試みを行うことになった。今後はロシア東欧、中南米、アフリカ諸国との交流を深める計画がある。これまでは日本語教育、日本研究の盛んな近隣の国を中心にしていたが、これからはそれほど知られているわけではないが、現在活発に日本研究の行われている地域の諸大学とも交流していきたいと考えている。今年度はその第一歩としてロシア東欧地域との交流を深めるべく、これまでに受け入れてきたロシア東欧地域の研究者を招いて、その地の日本語教育、日本研究の動向を報告してもらうことになった。今後これらの大学にもコンソーシアムに参加してもらい、日本語教育、日本研究の輪を広げていきたいと思っている。
 これまでの日本語教育事情調査でわかってきたことであるが、ロシア、東欧地域では日本に関心が深く、日本語教育、日本研究が活発に行われている。本学は全世界からの多くの留学生を受け入れているが、この地域から毎年優秀な学生が送り込まれているという事実もそれを裏付ける。今回はその状況を踏まえ、これまで博報財団からの研究員として受け入れてきたロシア、東欧地域の研究者に、それぞれの地域の日本語教育、日本研究について報告してもらった。
今後は本学、本センターの強みを生かして、語学教育を基礎にもつ地域研究、日本語教育研究の蓄積、日本と諸地域との比較対照の視点からの日本研究を進め、日本語日本研究コンソーシアムの拡大、教材開発、遠隔教育などへの発展を考えていきたい。

「ポーランドにおける日本学の状況と将来の展望― ヤギエロン大学日本学科を例にして ―」
 スタニスワフ・マイヤー氏(ヤゲェロン大学日本学科准教授)

 かつてはポーランドにおける日本研究は文献をもとにした文学が中心であったが、近年は状況は変化している。ポーランド国内で日本語日本学関係の専攻を持つ大学は5大学だが、日本語教室は全国におよそ20箇所あり、日本語を学ぶ人も一定数存在する。その中で古都クラコフにあるヤゲェロン大学では1987年の日本学科新設後、2004年ポーランドのEU加盟、ボローニア制度の導入に伴い日本学学部、大学院制度が導入された。日本学科は1学年定員が25~30名、これまでに博士号取得者を8名出している。3年間の学士課程では日本語の他に、文学、文化、日本学などの授業が行われている。2年間の修士課程では日本語の他、文学、日本語学、翻訳の授業が行われているが、修士課程進学者が少ないこと、また、文献学以外の歴史などの研究が難しいことが問題点である。

「ロシアにおける日本語教育」
 ウェインベルグ・ナジェージダ氏(イルクーツク国立総合大学付属人文・外国語・メディアコミュニケーション大学准教授)

 ロシアでは17世紀の日本人漂流者による日本語教育に始まる長い日本語教育の歴史がある。近代になってからは1870年からサンクトペテブルグ大学で日本語専攻が始まっている。現在約40大学に日本語日本学専攻があり、日本語に加え、言語学、東洋語言語学、日本語学/技術、経済学、歴史学などが専攻としてたてられており、そのほか、技術や経済系の大学でも日本語を教えるようになってきている。その中でモスクワ国立総合大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本語学科で学生数140名、教師17名を擁している。現在、ロシア全土で日本語関係の卒業生が約400名おり、その専攻は言語学、日本語学、日本語通訳、東洋語言語学、国際コミュニケーション、地域学、教育、社会言語学などと多岐にわたっている。日本語学習状況について調査した結果、日本語教育課程では話す練習・会話のスキルが重視されるようになっているほか、日本語教育はオンライン教育の方向に進んでいることがわかった。

「ウクライナにおける日本研究の現状と課題~将来の発展の継続を目指して~」
 アサドチフ・オクサーナ氏 (タラス・シェフチェンコ記念キエフ国立大学言語学院極東・東南アジア言語文学科准教授)

 ウクライナの日本語学研究と日本文学研究は、日本語教育機関の発展よりはるか以前から行われてきた。ウクライナにおける日本研究は、日本語学、日本文学、日本語教育学など多くの分野にわたっている。日本文学では『古今和歌集』、村上春樹の作品、昔話などのウクライナ語への翻訳もあり、研究も進んでいる。日本語教授法に関する研究はまだ余りされていないが、今後は進むものと思われる。現在はキエフ国立大学では日本語、日本研究の学位は「外国語文献学」の中でのものとなっており、主に東洋言語学者養成となっているが、今後は東洋学者の他にも、東洋言語プラス他の分野での知識を持つ専門教育につなげていく必要がある。これによって広範囲に興味を持つウクライナ人学習者も増えていき、さまざまな分野で日本研究も活発に行われるようになるであろう。

「学習者の立場から」
 アガタ・クリコフ氏(本学大学院総合国際学研究科後期課程学生)

 日本のアニメをきっかけとして日本文化に興味を持ち、ポズナンのアダム・ミツキェヴィチ大学で日本学科に入学し、卒業後日本に留学した。当時日本語日本学科を持つ大学はポーランド国内で3つしかなかったが、現在はさらに2つ増えている。日本語を勉強するほかに、日本の歴史や日本語学なども勉強した。学士修士が一体化した5年のコース中に一度日本語日本文化研修留学生として1年日本に留学し、卒業後研究生として来日して現在博士後期課程に在籍している。同級生の中には日本と関係のある仕事をしている人もいるが余り多くない。



ウェインベルグ・ナジェージダ氏、スタニスワフ・マイヤー氏


アガタ・クリコフ氏

ポスター (PDFファイル)