活動報告

Activity Reports

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東京外国語大学国際日本研究センター 比較日本文化部門主催 研究会 国際日本研究〉の可能性ードイツ語圏の日本研究の視点から (2016年5月31日)

報告者:
山口裕之氏(東京外国語大学)

2016年5月31日(火)17:45-19:30
東京外国語大学 府中キャンパス アゴラグローバル3階プロジェクトルーム

 山口氏の報告は、表題のとおり国際日本研究を「外から」、とりわけドイツ語圏の日本研究の視点から検討するものであった。参加者は10名程度であったが、詳細な報告と問題提起に対して、活発な討議が交わされた。
山口氏の報告の構成およびドイツの日本研究の特徴と、「国際日本研究」の課題についてここで報告する。

〈報告の構成〉
1. 前提と問題設定
2. 「国際日本研究」
(1) 世界の日本研究の中心的組織(日文研)
(2) 日本における「国際日本研究」
3.国内研究機関
4.ドイツにおける日本研究
5.課題

〈ドイツにおける日本研究〉
ⅰ)歴史的概観
国内外の日本研究について、データベースを活用しながら紹介・検討したうえで、ドイツの日本学については以下の特徴を指摘された。
・ 17世紀のエンゲルベルト・ケンプファー(Engelbert Kaempfer)、19世紀中葉のシーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold)といった先駆者ののち、19世紀末に学問的ディシプリンとしての日本学がウィーンとベルリンで生まれる。日本学の教授ポストが初めてできたのはハンブルク大学(1914年)。
・ 1920年代には、第一次世界大戦の関係を引きずり、外交的理由から日本研究はほとんど展開しない。
・ ナチ時代(1933-45)は、枢軸国としての日独の結びつき。レイシズム・ナショナリズム強化の目的もあり、日本学者が比較的増える。神道もドイツ語圏の日本学の中では重要なテーマ。
・ 第二次世界大戦後、ドイツの日本研究は日本の伝統文化・芸術に集中。(今日でもなおこの方向性は存在する。)近代以前の日本文化に研究が集中、その方面での重要な貢献。
・ 古典的「日本学」から現代的な「日本研究」への転換:アメリカでの日本研究の展開にともない、ドイツでの日本研究もあらゆる領域をカバーする実践的研究へと性格を変えてゆく。
戦後の日本学における「パラダイム転換」----アメリカでの敵国としての日本に関する実践的知識の必要性(『菊と刀』!)。それに伴い、近代以前の日本の文献学的研究は後退。この転換は1960年代末のドイツの政治風土とも結びつくとともに、この時期の日本の経済的躍進もこの傾向を助長。


ⅱ)現在のドイツの日本学の状況:
・ 制度的名称:「日本学Japanologie」
「東アジア研究所」「アジア・アフリカ研究所」
・ 実質的に「日本学」と「日本研究」の混在:研究機関、研究者によって大きく二つのカラーに別れるか。
・ ドイツでも「日本学」は低下傾向。さまざまな大学で日本学の統合再編Abwicklungが見られる。
Würzburg, Marburg, Göttingen, (Humboldt-Universität Berlin)
・ 日本学の教授ポスト:「文化研究」と「社会科学」

以上の紹介のうえで、山口氏は国際日本研究の論点として以下の点を指摘された。
① 名称・基本的立場について

・ 「国際日本学」か、「国際センター」的な機能(国際的研究協力、研究情報提供)か
・ もう一つの名称の問題:Japanologyか、Japanese Studies/ Japan Studiesか

② TUFSの国際日本研究の可能性
・ 現在もすでにさまざまな海外(とりわけ東アジア)の日本研究機関と連携、サマーセミナーで実績。また、情報発信の蓄積。
・ 日本研究のあり方を国際的視点からとらえようとするとき、各国で展開した日本研究の歴史、関心、ポストコロニアル的な意味での政治的位置(酒井直樹)、制度形態を把握する必要がある。それなしに一律に国際的な日本研究の比較を考えることはできないのではないか。
・ 日本研究における「ずれ」の問題:
海外と日本とのあいだの視点の違いという単純な図式かに収まらない
・ それぞれの国、機関において、立場の違いから日本研究に対するさまざまな種類の「ずれ」が生じている。
・ 文化的先進国において異文化研究(さらには敵国研究)としての「地域研究Area Studies」が日本を捉える眼差しと、かつてヨーロッパを模範として近代化を進める必要があった日本がヨーロッパ・アメリカをとらえる眼差しの非対称性(酒井直樹)
・ 従来の(さまざまな立場からの)「異文化研究」に対して、日本側から外に向けて関わろうとする「国際日本研究」のあいだには、おそらくもともとの日本研究に内在する多層的な「ずれ」によって生じる根本的な「ずれ」がある。

・ 研究課題としての一つの可能性:個別研究として現れているものは、力のせめぎあいとしての政治的コンテクストからほぼ切り離されたかたちで示される。世界の中で日本研究がどのように展開しつつあるか、そのなかで日本の側からコミットしようとする「日本研究」はどのようなポジションをとることができるのか――さまざまな種類の「ずれ」を可視化する作業のなかで浮き上がってくるのではないか。
・ それぞれの地域での日本研究の歴史的経緯、研究・教育制度として現れているものを通じて、個別研究の生産にかかわる力の場のダイナミズムを分析することが問われているだろう。

(文責・友常)

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