活動報告

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センターの活動報告です

『外国語と日本語との対照言語学的研究』第15回研究会

日時:2015年 3月7日(土)14:00~17:40
会場:東京外国語大学 語学研究所(研究講義棟4階419号室)

発表者・講演者と題目:森田耕司氏(東京外国語大学)研究発表
    「ポーランド語と日本語の『言語的世界像』に関する対照研究」
    早津恵美子氏(東京外国語大学)研究発表 「使役文と使役動詞」
    有田節子氏 (大阪樟蔭女子大学) 講演 「日本語条件表現の諸相」

森田氏の発表は、ポーランド語と日本語との対照研究について、ポーランドにおける近年の動向を伝える内容であった。

ポーランドでは、「民族言語学」(ethnolinguistics)の流れを汲み、ポーランド語と日本語それぞれを通じてその「言語的世界像」を明らかにし、両者の共通点・相違点を見出していこうとする研究が行われ始めているという。

「言語的世界像」とは、その言語社会において受け継がれている世界観・価値観に基づき、形成された世界のとらえ方というべきものがある。ケーススタディとして日本語とポーランド語における「仕事」「自由」をキーワードに、氏が両言語における世界像を探った研究について報告が行われた。

聴衆との質疑応答では、「仕事」「自由」をめぐる肯定的・否定的含意の有無、また研究の方法論として、歴史的な背景を確認しつつ、各種テキストからデータを抽出して、客観的に言語的世界像を再構築することの難しさについても意見が交わされた。発表の冒頭では、森田氏および氏の指導する本学ポーランド語専攻の学生たちが、来日したポーランド大統領と会見し、懇談を行ったとのニュースもあわせて紹介された。

続いて、対照日本語部門長の早津氏により、氏がここ何年かの間考察を深めてきた「使役」をめぐっての研究発表が行われた。

今回の研究発表における氏の主張点は主として2つあり、まず、動詞に「-(サ)セル」という接辞が付加された「使役動詞」を語彙体系において、一方、使役動詞を述語とする文は「使役文」として文レベルでそれぞれの性質を考えるということ、そして、使役文と原動文(もとの文)の対応関係を再考することにより、日本語のヴォイス体系を俯瞰的にとらえ直すという点である。「太郎が花子に荷物を運ばせる」という使役文には、対応する原動文として「花子が荷物を運ぶ」があることは一般に知られているが、「太郎が自分で荷物を運ぶ」を対応させる考え方もある。

氏は、後者の考え方は、両文の違いを、主語(太郎)が、原動詞(運ぶ)の表す動作の間接的な主体か直接の主体かという違いとしてとらえるものであると再評価する。この考え方をとると、使役文と原動文、そして受身文を、主語をめぐる文構造のあり方の体系、すなわち日本語におけるヴォイス体系として包括的にとらえることができるという氏の考えは非常に興味深い。

聴衆からも、「~てやる/くれる/もらう」など恩恵の授受を表す補助動詞も含めた体系化の可能性について、また使役動詞の中に「聞かせる」「知らせる」など既成性の強い動詞も見られるとする氏の指摘について、その詳細を問う質問などが寄せられ、熱心なやりとりが行われた。

有田氏の講演では、日本語の条件文研究の諸問題、および日本語文法における「認識的条件文」の位置づけについて、密度の濃い内容が展開された。

まず、条件文の定義と、日本語の条件文およびその周辺構文との関連が確認された後、現代日本語における基本的な条件形式とその分布の様相が概観され、条件形式による非条件的用法や、条件形式の談話標識化など、条件表現をめぐる興味深い諸問題が広い射程の中で示された。本論においては、条件文をとらえる2つの主要な鍵となる概念として、話し手の知識と前件との関係、そして前件の既定性(発話時において、事態の成立・非成立が決定しているか否か)の2つが示され、随時英語の条件文との対比をふまえながら、詳細な議論が展開された。

氏は、前件の既定性に着目することで、日本語の条件文を5つに分類しており、今回特に話題として取り上げられたのは、「もし、(昨日の試合で)日本が勝った(ん)なら、決勝リーグに進む可能性が残されているんだが」のような「認識的条件文」(発話時点で前件の真偽は定まっているが、話し手がその真偽を知らないというタイプ)である。聴衆との間では、有田氏が専らこの認識的条件節に分布するとする「~のなら」節について、「の」が果たす役割に注目した質疑応答などが行われた。

日本語の条件文をめぐる広範な内容については、さらに詳細な議論を行うには時間は限られていた。学内・学外から集まった約30名の参加者は、聴き応えのある内容の濃い発表・講演に、いずれも熱心に耳を傾けていた。 (鈴木智美)

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