活動報告

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センターの活動報告です

『外国語と日本語との対照言語学的研究』第14回研究会

日時:2014年12月13日(土)14:00-17:40

場所:東京外国語大学 留学生日本語教育センター さくらホール
発表:長屋尚典氏(東京外国語大学)
   「重なる形、繰り返す意味:フィリピン諸語の重複と反復」
  
   斉藤弘子氏(東京外国語大学)
   「英語の本当の音節構造のはなし」

講演:角田太作氏(国立国語研究所名誉教授)
   「私が行ってきた研究―日本語学から一般言語学への貢献―」
    

まず本学の長屋尚典氏による研究発表『重なる形、繰り返す意味:フィリピン諸語の重複と反復』から始まった。

フィリピン諸語の紹介の後、テーマであるタガログ語の繰り返し現象に移る。この言語には、形態的プロセスとしての「重複」と統語的操作である「反復」の2つが見られるが、両者にどのような相違があるのか。また、言語類型論的には重複の方が類像的(iconic)とされるが、反復ではどうか、など問題提起がなされる。重複はその構成により3種類が見られ(CV,CVC,その両方の組み合わせ)、機能・意味・用法は多種多用。意味は共起する要素や品詞で重複の意味は予測できること、他の接辞との組み合わせで特定の意味になることを特徴とする。

一方、反復語もその2語をつなぐ統語要素により3分類される。新しいデータや視点からの分析により、重複と反復には音韻・形態・統語・意味のレベルでの違いが見られ、類像性は、重複よりもむしろ反復において典型的であると結論。繰り返しのシステムについて学びその複雑な構造に驚嘆した。

次に本学の斉藤弘子氏による『英語の本当の音節構造のはなし』の発表。

日本語話者が英語を学ぶときには分節音、リズムなどもそうであるが、音節構造の違いによる困難が大きく、これをいかに克服するか両言語の音節構造を対比しながら実践的対処法が指南された。日本語の単純な(C)(j)V(N)の音節構造に対し、英語は(C)(C)(C)V(C)(C)(C)(C)のように語頭3子音、語尾4子音の連続となる。

ところが頭子音(Onset)が2つの場合でも、2つ目のr,j,wが母音的であるか、最初にsが来るか、3子音の場合でも最初の2子音がs +p,t,kで後ろに母音的子音が続くことを知ればよい。また語末子音群(coda)についても最大4子音だが、この場合は形態素が付加したためで子音連続とは言えない。加えて開放の省略や音素の脱落があるため実際には子音の複数連続とはならない。英語にはCの数や発音の労力を減らしCVに近づけようとする傾向があるので、英語を発音する際は、子音を減らす発音を試みる方が理解されやすいのではないかなど興味深い示唆が多くなされた。

角田太作氏による講演『私が行ってきた研究―日本語学から一般言語学への貢献―』はタイトルの通り、角田氏のこれまでの研究史が年代を追って披露され、言語学研究への変わらぬ大きな情熱が伝わってきた。

大学院時代のWarrongo、Djaruなどの豪州原住民語、その後の言語類型論への取り組み。「二項述語階層」「所有斜格」や他動性、語順などの研究はよく知られている。さらに言語消滅危機や言語再活性化の分野での精力的な取り組みだが、Warrongoの記録と普及、復活運動がある。

後半は、わが国における言語研究の姿勢や要望についてのメッセージが熱く語られた。例えば、言語は狭いテーマだけに取り組むのではなく、文法、語彙、テキストの3拍子そろった包括的なものでなければならない。一方で、日本語のすぐれた研究が世界の一般言語学に取り上げられていないもどかしさ、や日本語研究から世界の一般言語学への貢献がなされるべきだという必要性についても力説された。

紹介された角田氏の「体言締め構文」ないしは「人魚構文」の共同研究がまさにその好例である。[節 名詞 コピュラ](華子が名古屋へ行く予定だ)のような人魚構文は主としてアジアの20ほどの言語に共通するという。名詞の文法化の問題をも含め、一般言語学に大きく寄与しているに違いない。(高垣敏博)

ワークショップ 写真 (PDFファイル)

ワークショップ ポスター (PDFファイル)

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